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起業家のリアルに迫る # 人生を変える学び 「香り×IT」メーカーCODE Meee代表 太田賢司 Vol.1


――人は時に痛みを伴いながら、人生から学びます。苦しみながらも学びを掴み取り、その人らしく生き始めるとき、どのような深い学びが起こったのでしょうか。本連載「人生を変える学び」では、そのポイントをインタビュアーの武井涼子さん(グロービス経営大学院教員)に解説してもらいます。

シリーズ連載第5弾は、株式会社CODE Meee(コードミー)代表の太田賢司さん。ベンチャー起業家を目指してグロービスに入学、在学中にVCからの資金調達を果たして卒業後すぐ起業。クラウドファンディング成功、アクセラレータープログラムでの受賞、マスク用アロマのヒットなど、実績を出す考え方に迫ります。 (全3回)

「クリエイティブ×おしゃれ」を軸にフレグランス開発の仕事へ

武井:コロナ禍の経営ですが、調子はどうですか?

太田:一時期は結構危なかったんですけれど、DtoCで「マスク用のアロマ」を発売しまして、それが今、かなり伸びています。(*DtoCとは:Direct-to-Consumerの略。自社でつくった製品を実店舗を介すことなく自社のECサイトで直接顧客に販売するモデル。D2C表記もあり)

武井:すぐに対処されるところはさすがです。今日は、そんな素晴らしい経営者たる秘密を、しっかり深掘りします。まずは、ご経歴から教えてください。

太田:学生時代は、北海道大学大学院の理学研究科で有機化学分野の研究をしていました。当時は職人になりたかったんですが、就職活動の際に「クリエイティブ」と「おしゃれ」を軸にしてフレグランス業界に出会いました。「目に見えないけれどもすごくセクシーで感性を刺激する。香りという領域で職人として勝負したい」と、2006年に入社しました。

武井:博士課程は考えなかったんですか?

太田:ないですね。研究者になるよりは、社会に新しいものをスピーディーに生み出したかったから。ちなみに有機化学でも、世の中にない新しい化学物質をつくる研究をしていたんですよ。花火大会とかで、光る輪っかを腕に付けたことがあるかと思うのですが、ああいう蛍光を発したり、光を当てると色が変わったりする、新しい機能を持つ分子です。

武井:香りとはまったく関係ないことをされていた。でも、どうして香料の会社に採用されたのでしょう。

太田:そうですよね(笑)。入社したのは、日本最大手で世界シェア5位(2013年度調べ)の高砂香料工業という会社でした。総合研究所が神奈川の湘南にあって、フレグランスの開発者は、選ばれればニューヨークやパリにトレーニングに行けるのが魅力的でした。自己PRはあまり覚えていませんが、「センスあるから絶対損させないよ」みたいな(笑)。

武井:(笑)職種は何で入社したんですか?

太田:研究所でフレグランス開発をする部隊です。とはいえ、新人は現場を学ぶために製造工場で1年間の研修をします。工場が忙しくて延期が重なり、結果、1年9ヶ月研修しました。2年目の後半に本配属でフレグランスの開発員になりました。

武井:調香師みたいな仕事ということですか?

太田:フレグランスの開発部隊には職種が複数あります。その1つが「調香師」。2,000種類以上の香料素材をもとに、独創的な香りを創り出していく人です。また、マーケター×研究者みたいな「エバリュエーター」という職があります。香りのトレンドを分析して「こういう香りが流行るんじゃないか」というコンセプトを調香師に投げ、できた香りを自分の鼻で官能評価しつつ、調香師と意見交換しながら評価者としての立場で香りをつくる専門職です。

自分が一番長いのは、エバリュエーターのキャリアです。あとは、実際にできあがった香料を最終商品までつくり込んでいく「アプリケーター」という研究職もありますし、香料自体をつくる研究もあります。だいたいひと通りはやりましたね。

武井:何が面白かったですか?

太田:次の香りのトレンドをつくるという点で、エバリュエーターは面白かったですね。

香りのトレンドって、主には欧米発信で香水から始まるんです。それがシャンプーの香りになり、柔軟剤の香りになり……と派生していく。一時期、Chloéの香水がすごく流行りましたよね。

みなさん気づかれませんが、実は多くの日用品の香りが、そのChloéの香りの骨格で展開されていたんです。エバリュエーターは、今、海外で何が注目されていて、日本人の嗜好に響くものはどれかを判断し、日本の化粧品メーカーや日用品メーカーに提案していくんです。判断は、感性や経験に頼る面もありますね。

「香り」という武器で起業を決意。知識とネットワークを得にグロービスへ入学

武井:どうしてグロービスへ入学されたのでしょう?

太田:もともと起業しようと思っていました。やりたいことをスピーディーにやるなら、起業はひとつの選択肢だと。そんな中、ベンチャー経営者の本を読んで刺激を受けました。例えばDeNA南場さんの『不格好経営』。大手でしっかり経験を積んでスキルを持った人がその分野でベンチャー経営するのは素晴らしい。そう思って、「自分には“香り”という武器があるから、そこでチャレンジしてみたい」と。

武井:「香りが自分の武器だ」と思えたのはなぜでしょう?

太田:「香り」は、すごく狭い世界なんです。一部のスペシャリストがすべての発信を牛耳っている。いわゆる調香師やエバリュエーターとして日本の第一線でやっている人は、20人もいないぐらいの状況です。と考えると、自分は国内の最大手の香料会社でアメリカやフランスなどへ長期間トレーニングに行き、海外長期出張も経験していて……こういう香りのスペシャリストってなかなかいない。「ならば自分にしかできないことができるんじゃないか」と。それで、33歳の頃にグロービスへ入りました。

「香りのスタートアップで起業する」と考えたときに、2つ課題がありました。1つは経営を知らないこと。もう1つは、人脈。ネットワークづくりが必要だと思ったので、ビジネススクールがいいな、と。

武井:他の学校は選択肢にありませんでした?

太田:グロービスを選んだ理由は2つです。柔軟性と教員です。仕事が忙しければ、土日や平日に授業を振替えできますし、教員の方は実業でご活躍されている方が多い。

例えば自分は、ファイナンスは鷲巣さんのクラスだったんですけれど、鷲巣さんは当時外資の飲料メーカーでバリバリのCFOをやっていらして、「理論上はこうだけれど、実際はこんなことが起こるよ」とかなりリアルな話をしてくださった。グロービスは、アカデミックよりも実務家教員が多いと噂で聞いていたので、そこに魅力を感じましたね。

武井:目的は叶いましたか?

太田:かなり元が取れました。武井さんにも在学中に相談しましたし。どちらかといえば、人的ネットワークの方が価値が高いと思っています。あ、もちろん学びもたくさんありました(笑)。

武井:私もコロンビア大学での学びは忘れてしまいましたが(笑)、同級生との関係はもう、プレシャスで……

太田:やっぱりそうなんですね。おっしゃるとおり、講師の方との繋がりもそうですし、グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(グロービス公認の起業家支援クラブ活動)で起業家や経営者と知り合い、そこから仕事が発生したり。クラブで一番良かったのが、ピッチに呼ばれて発表したら、そこに来ていたベンチャーキャピタルから出資がいただけたこと。投資家とのネットワークができたんですよね。

武井:太田さんは「人脈」という言葉、どう思いますか?ビジネスなどの利害に絡んだ関係のように聞こえるかもしれないと思うのですが。

太田:ニュアンス的にはそうなっちゃいますね。

武井:「ゆるいつながり」という言い方も最近ありますけど……太田さんの場合は、もう少し「友達」っぽい感じなんですよね、私が見ていると。

太田:たしかに。一緒にやっていて「楽しい」と思えたり、「価値観が合うな」というつながりですね。

武井:感覚がある程度共有できる、でも多少の実利もお互い持っていることを知っているネットワーク、と言えばいいのかな。ここは太田さんの経営の重要なポイントだと思います。

――グロービスで学んだ太田さんは、卒業までの起業を決め、実際に行動を始めます。太田さんが他の人と決定的に違うところは何だったのでしょうか。Vol.2に続く。