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【情熱弁当ができるまで】③新人店長の苦悩

超不定期連載「情熱弁当ができるまで」。

前回までのお話し。
>>>【情熱弁当ができるまで】①上京と出戻り
>>>【情熱弁当ができるまで】②店長への道のり

師弟関係のない間柄で、どうやってアルバイト達に話しをわかってもらうか。今まで職人の枠組みに助けられていただけで、自分の力のなさを知りました。

◆店長不在の店
名古屋市博物館の隣にある店(今はまるさ水産?)に配属されました。
念願の飲食店店長になって、晴れ晴れとした気持ちで赴任したのです。

前任の同店店長は、個人の事情で退職。
その後を引きついだボクが見た風景は、想像を絶する物でした。

60席程度の小さな店なので、アルバイト在籍数は12人。
一日の出勤数は多くても4~6人程度。

で、終業間際の午前0時に、なぜか休みのはずだったアルバイトスタッフがわさわさと店に集まる。

客席の一部を使い、店のジュースは勝手に飲むは、まかないは好きに作って食べるは。働いてもいないのに、まかないを食べるって意味がわからん。苦笑

その他、料理の全店共通レシピがあるのに、誰も見ないし覚えていない。
当然自己流だけど、クオリティーが低すぎて料理になっていない。

お客さまがいる営業時間中に、私服でオープンキッチンに入るとか無しですな。

出勤数が足らない日でも、平気で遊びには来るんだな。
もうね、店を私物化しているような事ばかり。

前任のアホ店長は、アルバイト達に気に入られたくて好き勝手にさせており、注意を一切せずに黙認していたんですね。その上「ウチのバイト達は連帯感が強くて心強い」な感じで喜んでいたそう。

今から呼び出して、ぶん殴ってやろうと思いました。笑

◆そして、誰もいなくなった

まともな神経を持っているボクは、常識的な飲食店に戻そうと思いました。
しかし、アルバイト達から総スカン。

「原田さんのせいで、ボクたちが働きにくいんです。」
「店長が替わったからって、なぜ急にいろいろ変えるんですか?」
「前の店長はこれで良いって言ってくれてたのに…」

もうね、彼らの視点にお客さまの存在はゼロ。
アルバイトのために存在する店になってたんですよね。

タダのみ、タダ飯、おしゃべりの場所も無料。
仕事中は私語ばかりでお客さまはほったらかし。

じゃぁ、どうやって店を経営して維持するんだいって話し。

前任の店長の事は「アクタガワ店長」って呼んでたけど、ボクの事は「原田さん」。
つまり、あんたなんか店長と認めないって、皆で束になって排除してきたんですね。会社から任命された店長は無視って感じで。

ドラマ「スクールウォーズ」の滝沢先生の気持ち。(←わかる?)
とはいえ、ボクは頑丈でメンタル的にもタフ。
そこだけだけは取り柄なんだけど。

その結果、皆がバタバタと辞めていきました。

力めば力むほど、人が離れていく。
リーダーシップの無さを痛感しました。

でもボクは絶対に
「頼む、人が少なくて店が回らない。辞めないでくれ」って一切言わない。
辞めたいスタッフは、引き留められるのを期待していますが。

「オマエなんか居なくても、俺が店を回すからどうぞ♡」
ホント、心の底からイケメンですね♪

とはいえ、内心はどうしようかとハラハラでした。
でもね、痛みのない改革なんてきっと無い。
明けない夜はないと信じて、進むしかない。

でも毎日、店に行くのがホントに嫌だったなぁ。

◆人生を変えた「一冊のノート」

その後、人員補充で初めて面接して採用したスタッフが本当に良い子で。(今は2児のママで、SNS越しに繋がっています。)

初めての味方で、考え方にも賛成してくれて。

店が機能していないこと、人がついてこないこと等、色々話しをして、客観的な意見をもらったんですね。以前のボクでは考えられないけど。

「店長、いろいろ変えたいのは分かるけど、皆に目的や意図がちゃんと伝わっていますか?」

変えたい未来の姿や、お店の理想の姿はあるものの、到達点の景色はボクの頭の中だけにあったんですね。確かに、伝え切れていないかも。

でも、どうやって伝えよう?
皆、就業時刻も休日もバラバラ。

今みたくSNSもない時代の話しです。

「そうだ。更衣室にノートを置いて、文字で伝えてみよう!」

実際の当時のノート。直筆ってリアルさが伝わる気がする

小店舗なので、更衣室での着替えの時間はひとりきり。

表面上はボクが嫌いでも、ひとりならば周りの目を気にせず読むのではないか?そんな思惑がありました。

最初は店長からの一方通行だったのですが、だんだんと反応が出てきました。

ノートに書いてある事を営業中に実践したり、読んだ感想や意見を書き込むスタッフがでてきたり。

なにより、店長の頭の中と方向性が見える化できたことが、一番の安心感に繋がった様子だったのです。

「いったい、それをなんのためにやるのか。」
「お店の存在意義は、どこにあるのか。」
「そこで働く我々は、何をすべきなのか。」

一人一人の価値観は、当然皆違います。
社会人を経験していない大学生なんて、まだまだ子ども。
出来ないのではなく、教えていないだけなんだな。

大学生のアルバイトスタッフは、あくまで勉強が本分です。

学校の単位があり、サークルがあり、恋愛があって隙間にするのがアルバイト。その一方、店長のボクは一日中店の事を考えているわけです。

その優先順位の差であり、責任度も違う。
単純明快な理解を、みんなが求めている事にボクが気づけなかった。

アルバイトスタッフに、お客さま不在の状況を嘆いていたボクが、
実はスタッフを避けた飲食店作りをしていたわけで。

自分のリーダーシップの無さに愕然としました。

人がついてこないのではなく、新人店長一人で思い通りにやろうとしてただけ。一番勝手なのは、実は自分だった。

「俺についてこい」の前に、
俺の『何に』ついてこいがはっきりする事で、皆が理解しやすくなったのです。

一回り以上歳の離れた若者から、いろんな事を学びました。
そして気づき、素直に受け入れました。

その頃からノートに返信を書く人、それをまかないを食べながら読む人など、活発な「交換日記」が始まったのです。

結果、皆が一致団結して、だんだんと良い雰囲気で営業が出来るようになりました。

仕事が終わるとさっと帰り、営業中の私語も激減。
なにより、お客さまに喜ばれる事を積極的にやれるようになってきました。
キッチンでも、料理に対して本気で取り組むようになりました。

そして、やっと店長として店の外を向き出します。

店に放置されていたお客さまの名刺に、クーポン付店長新任挨拶を添えたはがきを送る。

昼間に近隣の会社や商店にご挨拶に行くなどして、客足は徐々に回復。
週末はウエイティングもできるようになりました。

「チームで仕事って楽しい。」
いつのまにか、そう思える時間も増えてきました。

3ヶ月で数値的にも好転できたこの店。
本部はボクの変化を見逃しませんでした。
後ろ髪を引かれつつ、次の辞令が下ります。

同期入社の中途採用社員の中で、一番店長昇格が遅かった悔しさ。
異動後、ついに遅咲きの快進撃が始まります。

【④へ続く】


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