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 僕は犬があまり好きでない。小さい時に野良犬に噛まれたり、吠えられたりしてその記憶が残っていて犬が怖い。

 僕が疲れて家でゴロンと横になっている時に、家の前で散歩の犬がけたたましく吠えはじめた。飼い主さん同士が家の前でお喋りをはじめて、それがなかなか終わらないのでそれぞれの犬が吠えまくっているのだ。

 飼い主さんは世の中すべての人が犬好きと思っているらしい。犬がいくら吠えても人の家の前でうんち、おしっこをしてもすべて許されると思っているらしい。夏になるとかなり臭うのだ。しかも窓を開けるのが多くなる季節だ。

 僕に言わせれば犬を飼うということは全くの個人の趣味嗜好で、タバコを吸ったり、キャバクラでお酒を飲んだり、パチンコに行くのと同じだ。パチンコの方が臭くならないし、うるさくないしまだマシだ。

 そんな事が連日ずっと続くのでとうとう堪忍袋の緒が切れた。
 「よし、飼い主に文句を言ってやろう」
と玄関を開けて外に出た。すると二匹の犬がこちらを見てさらに声を上げて吠えだした。僕もひるんではいけないと意を決して犬に近寄る。

 するとそこへ別の柴犬が散歩に来て、僕の足元へすり寄って来る。普通の人ならここで、ムツゴロウさんみたいに
「おー、ヨシヨシ」
と犬をなでたりするのだろうが、僕は犬が怖い。

 どうして良いかわからないでいると、例の吠えまくっていた2匹の犬が、寄ってきて、僕の足の上に座り込んでしまった。

 生暖かくて柔らかい犬の感触が伝わってくる。鳥肌が立つ。さっきまで吠えていた犬達は、静かになって僕の顔をじっと見ておとなしくしている。僕の足元には犬が3匹まとわりついて離れない。

 飼い主さん達はこんな事ははじめてだと言って喜んでいるが、僕は固まったままでどうして良いか分からない。3匹とも僕の目をじっと見たままだ。なんだか僕に訴えかけるようだ。だんだんと犬もストレスがあるのかなと思ってきた。
「分かったよ。君たちも色々とあるんやね。好きなだけ吠えろよ。」
と心の中で言うと、犬達に伝わったのか「くぅ〜ん」とそれぞれ鳴いて、僕の足を鼻でクンクンしだした。中にはナメ出すのもいる。僕はもう、どうにでもなれと固まったまま、犬にされるがままに、好きなようにしろよと我慢した。しばらくして飼い主さんが犬を連れて行って解散となった。

 家に帰るとテレワーク中の妻が僕の顔を見て、
「なんだか嬉しそう」
と言った。

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