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最期の"バイバイ"

【若い頃のバイト当直での話】
これは忘れられないエピソードのひとつ。
何年前かは忘れました。少なくともコロナ禍より前です。
※閲覧注意:人が亡くなりますので、精神的に耐えられる方のみお読み下さい。
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当直先の病院に着いた。
常勤の先生から、急変する可能性のある患者さんや、対応する必要のある患者さんについての引き継ぎを受ける。

50歳代の女性、癌の末期で今日にも亡くなる可能性が高い。家族が付き添っていて、じゅうぶんに説明もされている。特に何もする必要はなく、ただお看取りだけしてほしい、とのこと。

着替えて、病棟に患者さんの様子を見に行く。
心電図モニターはVf(心室細動)。

えっ!?Vf!? ←つまり心停止の状態
…と思ったら、sinus(正常波形)に戻った。

看護師さんに聞くと、「さっきからずっと、Vfとsinus繰り返してるんです。本当は、最期は鎮静かけるって話だったんですけど、なんかタイミングを逃しちゃったみたいで、結局無鎮静で意識あるんですよね…。」と。

ベッドサイドには20〜30歳代と思われる娘さん2人が、お母さんの手を取って時々声をかけながら見守っている。
私も、少し距離を置いて見守っていた。

心臓が止まっている間、呼吸も止まる。そしてまた心臓が動き出すと荒い呼吸が戻ってくる。
苦しそうだった。今からでも鎮静かける?と少し悩んだ。

そのうち、だんだんと脈が遅くなってきた。
ああ、もうすぐだ…やっぱりこのまま見守ろう…。
そう思った時、患者さんの右手がスッと上がった。

娘さんたち、私、近くにいた看護師の視線がその手に集まる。

患者さんは、バイバイをするようにその右手を左右に2回振って、パタッと手を下ろし、そのまま静かに息を引き取った。
それを見た娘さんたちは、「お母さん!」「私たちは大丈夫だから!」 「ゆっくり休んで!」「ありがとう !」 など声をかけながら泣いていた。

#何科医もろちのカルテ

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