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海苔と義母とミッ○ーと

 ネットサーフィンのさなかに広告を見ていたら、海苔を巻いたおにぎりが食べたくなった。

 幸い、ご飯は炊きたて。使いかけの味付け海苔が残ってなかったか探したけどなくて、この間叔母に貰った新海苔があるのを思い出す。

 海苔の大きさがうろ覚えなんだけど、四角いのが10枚入ってる奴。半分に切ってちょうどいい奴。

 これを「封を開ける前に縦に半分に折ると、綺麗に切れて使いやすいんだよ」と教えてくれた人がいた。もうずっと前、私が都内に住んでいた頃。

ご近所付き合い大切だけど

 当時私は、都内のある賃貸住宅に住んでいた。

 色々事情があって住宅そのものの詳細は後日のネタにしようかと思うのだけど、ある日、お隣に、元魚河岸で料理人だかをしていたという人が、リタイアして引っ越してきた。

 私から見たら祖父母とも言える年代のご夫婦で、人付き合いの幅も広いらしく、よく知り合いからもらったというヨックモックのシガークッキーとかを箱でくれたりした。好きでたまに作る手巻き寿司をご近所に配って、私たちもよくお世話になっていた。

「海苔はね、袋を開ける前に半分に折ると綺麗に切れるよ。おにぎりとかに便利だよ」

 これを教えてくれたのが、お隣の老夫婦だった。

 初めてのご近所付き合い、それも向こうは年配なので、若くて経験のない私たちにはなにも求めてこない。ひとに分けたり、世話をするのが大好きな人たちだった。

 しばらくはとてもよくお付き合いしていた。

 そのことを、うっかり義父母に話してしまうまでは。

呪いのミッ○ーグッズ

 現役時代の義母は、ディ○ニー関係のグッズを卸す会社に勤めていた。

 この会社、社割でグッズが買えるし、廃棄になったものを、こっそり社員に持たせたりして(今やったらアウトだと思う)、ケチなくせに小金を浪費する義母は、「義兄が結婚したら」「孫が生まれたら」「知り合いの誰某に子供が生まれたら」と、やたら買いあさり、貰った廃棄品も大事にため込んでいた。

 ものを捨てられない義父母の家の、納戸のほとんどはこうしたディ○ニーグッズで、ことあるごとに持たされる私には呪いのアイテムのようなものだった。好きな人には申し訳ないけど、卸売りの袋ごと渡されるハンドタオルとか、雑巾とか台拭きにしてある程度使うと捨てていた。

 その義母が、私たちが世話になっているお隣のためにと、買いためていたディズ○ーグッズを袋で持ってきた。トイレマットとか、キッチンマットとか、のれんとか。

 判ると思うけど、ある程度生活が固まった高年齢層の方に、こういうものをご挨拶に持っていくって、普通あり得ない。よほど好きでなければ、扱いに困るだけのアイテムである。

 もちろん止めた。止めたけど、聞かなかった。押しつけるように渡してきて、義母が満足して帰ったあと、お隣さんがそのまま持ってきた。平謝りして受け取った私の気持ちを述べるのに、40字も要らないのはお判りだと思う。

 そしてお隣さんは私たちからフェードアウトしていった。

消えたと思った呪いのグッズは

 諸々あって、私たちは義父母と距離をとるために都内を脱出した。

 私にとって、ミッ○ーマウスは義母の象徴だったから、しばらくは見るのも嫌だった。でも距離をとったおかげで、ディ○ニーランドに行けるほどに回復したし、ディ○ニー映画もわりと見るようにはなった。でも強いてグッズを手元に置きたいとは今も思わない。

 義兄が死んだとき、ゴミ屋敷状態の義兄の部屋のゴミと一緒に、賃貸住宅の収納スペースの実に8割を占めていたこうした古いディ○ニー関連のものも強制的に排除していった。売れそうなものはリサイクルショップに持ち込んだのだけど、お金としてためてたら車一台買えそうなくらいため込まれたグッズは、かろうじて現金四桁を超えた程度で終わった。メルカリとかで売るには量が多すぎて気持ち的に無理だった。

 だいぶ片付いたと思って油断してたら、先日の義母の死で、手つかずだった義父の部屋の箪笥の上にひと箱丸丸残ってて、でかい人形とか筆箱(ペンケースではない。ふでばこ)とか出てきちゃって、久々にげんなりした。速攻で売りに行ったけど、ジュース代くらいにしかならなかった。

 思い出した勢いで、ここで義母共々供養しておこうと思う。

 ちなみに、今食べた新海苔のおにぎりは美味しかったです。

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