映画「イニシェリン島の精霊」感想
一言で、2時間強ひたすらおじさん達の無視と喧嘩を観る映画です。刺さる人には刺さるらしいのですが、全く合いませんでした。作中でのフックはいくつかあるので、深読みしたい人向けの映画だと思います。
評価「E」
※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。褒めてないので、好きな人は絶対に読まないでください!
本作は、2022年のアイルランド・イギリス・アメリカ合衆国のブラック・コメディ映画です。監督は『スリー・ビルボード』などのマーティン・マクドナー、レーティングは残虐描写があるので、「PG12」指定です。
第80回ゴールデングローブ賞では、最多7部門8ノミネートされ(作品賞(ミュージカル・コメディ部門)、監督賞、主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞)、そのうち作品賞 (ミュージカル・コメディ部門)、主演男優賞 (ミュージカル・コメディ部門)、脚本賞の3部門を受賞しました。つまり、評論家さんは絶賛されているようです。
また、第95回アカデミー賞®でも、作品賞、監督賞 、主演男優賞 、助演男優賞 、助演男優賞 、助演女優賞 、脚本賞 、作曲賞 、編集賞 の主要8部門9ノミネートとなりました。※尚、実際の受賞はなし。
一方で、端的に言うと、「恐ろしくつまらなかった」です。久しぶりに観たことを後悔した作品でした。(飽くまでも一個人の意見です。)
アカデミー賞候補なのと、評論家の評価は高く、Twitterでもトレンドに上がってたので、期待しすぎたのかなと思っていましたが、全く合いませんでした、本当に良い点が見つかりませんでした。
ただ、作中において、物語を読み解けるかもしれない「フック」はいくつかあるので、深読みしたい人向けの映画だと思います。刺さる人にはとことん刺さるのでしょうね。
・主なあらすじ
1923年4月1日、アイルランドの小さい平和な孤島・イニシェリン島に暮らすパードリックはある日、親友のコルムから突然「絶縁」を告げられました。
長年友情を育んできたはずだった彼が何故突然そんなことを言い出したのか、全く理解出来ないパードリック。
彼は妹シボーンや隣人ドミニクの力を借りて事態を好転させようとしますが、コルムからは「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされてしまいます。
※尚、本作のタイトルにある「イニシェリン島」は架空の島で、本作の出来事は、あたかも実際に起きたかように描いています。
・主な登場人物
・パードリック・スーランウォーン: コリン・ファレル
本作の主人公。酪農を営み、特にロバのジェニーがお気に入りです。コルムとは長年の友人でしたが、ある日突然「絶縁宣言」され、困惑します。
・コルム・ドハティ: ブレンダン・グリーソン
パードリックの「元友人」。ある日突然、彼に「絶縁」を言い渡しますが、その理由は「不明」です。ペットのボーダーコリーを可愛がっています。
・シボーン・スーランウォーン: ケリー・コンドン
パートリックの妹。ずっと兄と一緒に暮らしてきましたが、賢明な性格ゆえに、パートリックとコルムの醜い争いや、島での閉鎖的な生活が耐えられなくなり、図書館で働くために島を出てイギリス本土に出奔します。
・ドミニク・キアニー: バリー・コーガン
隣人の若者。風変わりな性格ですが、飲んだくれで親から暴力を受けていることが示唆されます。
1. 核心に迫らない作風なのはわかるけど、とにかくつまらない!
本作を簡単に説明すると、「2時間ひたすらおじさん達の無視と喧嘩を観る退屈な映画」でした。
前述より、年長のバイオリニスト(コルム)が、妹と暮らす牛飼い(パートリック)をひたすら忌避するのですが、ここまで「彼が拗れた」理由が謎すぎるんです。パードリックに一度その理由を聞かれたときに、コルムはパードリックに「お前は面白くない」からと返答するのですが、それだけでは理由として弱すぎます。
パードリックもパードリックで、相手がもう話したくないって言ってるのに、何としてもその理由を聞き出そうとストーカーのようにしつこく迫るので、余計にイライラしました。
とにかく、登場人物全員の物差しが一々ずれていて、「なんでそうなる?」と終始首を傾げてしまう程でした。
しかも、ここまで引っ張ったからには、とんでもないオチやどんでん返しが待っているのかと思いきや、大した理由がないまま終わっていくので、絶縁することに命をかける意味が最後まで分からずに、本当にズッコケました。
それにしてもコルム、バイオリンが得意だったのに、指を「切○」したら弾けなくなっちゃうじゃん。やることなすこと、何でこうなるのか終始理解不能でした。
こういう「敢えて核心に迫らない作品」について、例えば、『桐島、部活やめるってよ』とか、『ディア・エヴァン・ハンセン』とかがあります。それ自体は悪くないのですが、本作はそれにしても「思わせぶりな猫写」が多すぎて、本当に面白くなかったです!元々、ヨーロッパの映画は淡々とした作風のものが多いですが、その中でもとにかく退屈な方でした。途中で寝落ちするかと思いました。
2. アイリッシュミュージックと心象風景の使い方は悪くないけど、それだけじゃ足りない。
本作で良い点を絞り出すとすれば、「アイリッシュミュージックと心象風景」でしょうか。
まずはアイリッシュミュージック。アイリッシュパブで奏でられるバイオリンと笛、打楽器は良い劇伴になっていました。
次に、作中では心象風景が多く挿入されていました。島は断崖絶壁に囲まれ、海がよく見えます。霧が多くて、雲の動きも速く、目まぐるしく気象が変わりました。これは、パードリックとコルムの拗らせを表しているといえば、そうなのかもしれませんが。
そういえば、『PLAN75』や『エンドロールのつづき』でもこんな描写が多かったのを思い出しました。所謂、そこにある風景や物を楽しむ映画なのでしょうか。
そして、本作で示唆されたのがアイルランドとイングランドの内戦です。本作において、島の対岸に見える爆発はそれでした。
アイルランドの人々は、おおよそ900年もの間、イングランドの介入と抑圧を受けており、16世紀には完全植民地となっていました。それから幾度となく武力蜂起による独立闘争が起こりました。また、これはキリスト教のカトリックとプロテスタントの宗教戦争でもあり、宗派で激しい対立がありました。(この辺は、昨年公開された『ベルファスト』との類似点がありそうです。)
一方で、島の至る所にはマリア像があり、カトリックを信じる人々が多いことが示唆されます。しかし、住人は、カソリックとプロテスタントに分離もなく、本土の怒涛の流れに飲み込まれることもなく、穏やかな時間を過ごしていました。
ただ、これらが作品の良さには繋がらなかったかというと、そうでもなかったです。
3. エピソードが点と点でしかなく、線で繋がってない。
本作の一番良くなかった点は、エピソードが点と点でしかなく、線で繋がってなかったところです。全体的に、よくわからない描写が多すぎました。
恐らく「人間関係リセット症候群」・「サイコパス」・「シスコン」・「子供部屋おじさん」などをテーマにしたかったのでしょうが、伝え方が恐ろしく下手だと思いました。
最初、パードリックは「4月1日がエイプリルフールだから絶交はブラフ」と憶測を立てていましたが、これはミスリードだったようでした。
ただ不思議なのが、「絶交宣言」したとしても、コルムはパードリックのピンチのときは助けているんですよね。ここは何でこうなるのか不思議でした。しかも本当に話さないから、視聴者もわからないという。
コルムの家の骨董品達にはなんの意味があったのでしょうか?蓄音機、女や鬼の能面、謎の首吊り人形などが見えましたが。特に、能面は「外面と内面の対比?」とか「退屈な男とその中に潜む狂気?」とかを示唆するのかと思いきや、特に触れられずに終わりました。
パードリックが何かを企てる毎に現れる、「死神婆さん」は結局何者だったのでしょうか?終始気持ち悪い存在でした。
ドミニクの死もおじさん達のエピソードと全く関係なかったのには、肩透かしを食らいました。彼は生前、色々と拗らせており、密造酒と父からの家庭内暴力をカムアウトしていましたが、シボーンへの失恋がトリガーとなり、湖に身投げして自○しました。
ちなみにシボーンは、「こんな狂った島にはいたくない!」という恐れと、本土での図書館司書への夢に掛けて、出奔してしまいました。
結局ここのエピソードは、「ドミニクがいなくなり、家畜と家を任せられない≒パートリックが島から出られない」ことへのプロットにしかなってないんですよね。それにしてもパートリック、家畜と家は他の人に頼んだら良かったんじゃ?でも、何か他の人も陰険だし、それはムリだったのか?
最も、本作のジャンルは「ブラック・コメディ」なんですが、それにしてもパンチが足りなくてショボかったです。このジャンルの作品だと『パラサイト 半地下の家族』がありますが、あちらと比較すると明確な構図や表現の厭らしさが全然足りなかったです。
4. とにかく残酷描写が気持ち悪すぎる。
本作は残酷描写も酷く、気持ち悪くなり、途中で腹痛が来ました。
結論から言うと、コルムはパードリックに牽制するために、自身の指を切り落とし、しかもそれをパードリックの家に投げたのです。え、これ「PG12」指定なんですか?せめて「R15+」くらいにしてほしかった。
あの傷で直ぐに止血できたの?医者は?破傷風にならないの?しかも指切った後に、花壇には血痕があるのに、道には何も落ちてないのは終始不自然でした。
しかもあんな猟奇的な事件なのに、なぜ島の人々は誰も騒いでないのでしょうか?警察はどうした?まぁ、そんな島特有の閉鎖的な環境下を描いているといえば、そうなのかもしれませんが。
また、上記の行動は、結果的に「動物虐待」となりました。何と、パードリックのペットのロバのジェニーはコルムの指を誤飲して、亡くなってしまったのです。
それに怒り狂ったパードリックは、何とコルムの○害を企て、彼の家に火を放ったのでした。
結果、コルムの犬は死ななくて良かったけれども、ロバがただ可哀想で胸糞悪くなりました。考察や推測では、「ロバは間抜けの象徴でその口を閉ざすために指を突っ込んだ」とされているようですが、作中にてハッキリとした説明はありませんでした。
ちなみに、動物が殺されて復讐するのって『ジョン・ウィック』を思い出します。
5. 所謂 「深読みしたい人向け」作品かもしれない。
本作は、前述より「敢えて核心に迫らず、回りくどく見せる」作風故に深読みする方法はいくらでもあると思います。
例えば、パードリックとコルムの絶交について、「内戦問題」や「終活」を暗喩してるというレビューは多かったです。また、教会の告解室でのやり取りにて、「ゲイ」が示唆されるので、登場人物のバックグラウンドについて、色々と憶測を立てたくなる人もいるのでしょう。
一つ気になったのが、「動物の○害がキリスト教では裁かれない?」のは何となくわかるのですが、「放火」は罪に問われないんですかね?
このように、「考察」自体はいくつか出来るのかもしれませんが、それにしても説得力がなさすぎです。
多分、「『いつも一緒にいて言わなくても分かるでしょ』、という自分本位な考えはいつか関係を破綻させる」というのがメインテーマなのかもしれませんが…
しかし、それにしても肝心のストーリーもつまらないので、解釈に時間をかける気もなかったです。まぁ、悪く言えば作り手本位で、見る側を置いてきぼりにするタイプの作品だと思いました。
本作については、レビューサイト・SNS・ブログ・評論家の評価はあてにならないと感じた一例だと思いました。ちなみに、ロッテントマトでは、「本作は精巧に作られた“嫌な気分にさせる”傑作となっている」との評価を受けているので、不快になりたい方には受けるのかもをしれません。
最後に、この手の映画は好みではないので、次からは気をつけます。
出典:
・映画「イニシェリン島の精霊」公式サイト
※ヘッダーは公式サイトより引用。
・映画「イニシェリン島の精霊」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%B3%B6%E3%81%AE%E7%B2%BE%E9%9C%8A