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映画「鋼の錬金術師シャンバラを征く者」感想

 一言で、原作とはまた違った面白い作品です。離別や史実を基にした内容に賛否両論ありますが、それでも骨太で完成度の高い作品です。もしかすると、観た年齢によって感想が異なるかもしれません。

評価「B-」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

・主なあらすじ

 2003-2004年に放映されたテレビアニメ「鋼の錬金術師」最終話にて、「門」の向こうの世界(現実世界)へ飛ばされた兄エドワード・エルリック(エド)と、体を取り戻したものの錬金術世界に残された弟アルフォンス・エルリック(アル)。※本作では「現実世界」と「錬金術世界」が「パラレルワールド」という関係になっています。
 それから2年後、18歳のエドは1923年のドイツ(ワイマール共和国)にあるミュンヘンで生活し、錬金術世界・アメストリスへ戻るためにロケット工学を研究していましたが、全く先が見えない現実に焦燥していました。
 その頃、エドの同居人にして「自らの手でロケットを作りたい」と夢見る少年、アルフォンス・ハイデリヒは、パトロンを得て念願のロケット製作に着手します。しかし、その裏には謎の組織「トゥーレ協会」の陰謀が隠されていました。
 あるとき、エドは街のカーニバルにて「ジプシー(ロマ)」の女性、ノーアに出会います。「他人の心を読める」能力を持つ彼女と交流していくうちに、エドはドイツで起ころうとしている壮大な計画に巻き込まれてしまいます。それは同時に、アメストリスにも破滅をもたらす危機となっていました。
 一方、アメストリスでは13歳に成長したアルフォンス・エルリックが、兄を探す旅に出ます。しかし、彼は、(テレビアニメ版最終話で甦った際に)兄との4年間におよぶ旅の記憶も失くしていました。
 離れ離れになった兄弟、「シャンバラ」を求める者、「門」の鍵を為す者、さまざまな人間の思惑と欲望を孕み、物語は動き出します。(大筋はWikipediaより引用)

 前述より、本作は、2003-2004年に放映されたテレビアニメ「鋼の錬金術師」の「続編」です。このアニメは、最初は原作準拠でしたが、途中からオリジナル展開となっています。そのため、本作を鑑賞するには、テレビシリーズの事前視聴が必須となります。※恐らく、本作のみを鑑賞しても、ストーリーは理解しづらいでしょう。

 尚、原作漫画と原作準拠で2009年に制作されたテレビアニメ「鋼の錬金術師 FULLMETAL
ALCHEMIST」や、2011年公開のアニメ映画「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」の作品世界とは繋がっていません。

・主な登場人物

・現実世界

・"エド" エドワード・エルリック(声 - 朴璐美)
 本作品の主人公。テレビアニメ版最終回で弟アルフォンスの身体を錬成しますが、その代償として門の向こうの世界(現実世界)、1923年のドイツ(ワイマール共和国)にあるミュンヘンに飛ばされてしまいます。元の世界(錬金術世界・アメストリス)に戻る方法を模索するが、進展が無いまま2年が過ぎてしまいます。
 尚、作中で身に付けている義手や義足は機械鎧(オートメイル)ではなく、父ホーエンハイム・エルリックが製作した筋電義手です。見た目では機械鎧よりも「自然」で、生身の手足に近いですが、錬金術は使えません。

・アルフォンス・ハイデリヒ(声 - 小栗旬)
 現実世界でのもう一人の主人公で、その容貌はアルと瓜二つです。ロケットの製作を夢見ますが、肺ガンで余命僅かなことを自覚しています。そのため、自分の生きた証を残したいとロケット製作に全身全霊をかけて打ち込みますが、一方で「元の世界」のことばかりを考えて現実世界に馴染もうとしないエドのことを心配します。

・ノーア(声 - 沢井美優)
 帰るべき祖国を持たず、各地を放浪して異端視される人々「ジプシー(ロマ)」の少女。「他人の心を読める能力」を持っているため、仲間達からは異端視されており、売られかけたところをエドに助けられ、彼らと一緒に生活し始めます。
 その能力によって彼が違う世界の人間ということを知り、元の世界に戻してあげたいという思いと自分の存在を認めてくれる世界への願望からトゥーレ協会に力を貸すことになります。

・デートリンデ・エッカルト(声 - かとうかずこ、現かとうかず子)
 トゥーレ協会会長。魔術の研究を独自に進めており、「シャンバラ」(アメストリス)の技術にも興味を示し、その力を戦争に利用しようと考えますが… 
 尚、彼女のモデルは、実在の人物ディートリヒ・エッカートですが、本作品では架空の女性に変更されています。

・フリッツ・ラング / マブゼ(声 - 柴田秀勝)
 ユダヤ人の映画監督。容貌がアメストリスの大総統キング・ブラッドレイに似ていますが、別人です。 戦争の色が日増しに濃くなる現実に背を向け、映画の世界に耽溺します。

・エンヴィー(声 - 山口眞弓)
 ホーエンハイムが錬成したホムンクルス。テレビアニメ版最終回で門の向こうに飛ばされたホーエンハイムを追い、巨大なドラゴンの姿に変貌して、門を越えます。※しかし、現実世界では錬金術が発動しないため、ドラゴンの姿のままでした。

・ホーエンハイム・エルリック(声 - 江原正士)
 エルリック兄弟とエンヴィーの父親。テレビアニメ版で現実世界に飛ばされて以降、そのまま骨を埋める覚悟をしていました。しかし、エドのために門の向こうに帰る方法を見つけようと考え、トゥーレ協会と関係を持っていましたが…※尚、彼は原作漫画と2009年版テレビアニメに登場したヴァン・ホーエンハイムとは異なる人物です。

・ヒューズ(声 - 藤原啓治)
 ミュンヘンの街の警察官。容姿はマーズ・ヒューズと瓜二つ。ナチス入党者で、銃を持って行進するシーンがあります。密かにグレイシアに想いを寄せており、ノーアを警戒します。

・グレイシア(声 - 三石琴乃)
 エドとハイデリヒの下宿先の大家にして、女手一つで花屋を切り盛りする女性。容姿はグレイシア・ヒューズと瓜二つです。ノーアのことを差別せず接する懐の広さと優しさを持ち、再び戦争が起こることを憂いています。

・錬金世界のアメストリス

・"アル" アルフォンス・エルリック(声 - 釘宮理恵)
 エドワードの弟。テレビアニメ版最終回で兄の錬成によって肉体を取り戻しましたが、それらは身体、精神、記憶共に母の錬成当時のままの物で、兄と共に体験した旅や戦いについてもは一切の記憶を失っています。
 その後、故郷のリゼンブールにて、兄を探すために師匠イズミ・カーティスのもとで再び錬金術の勉強を始めます。兄を探すことを決して諦めず、兄の赤いコートを着用するなど、兄に似せた服装で登場します。

・ウィンリィ・ロックベル(声 - 豊口めぐみ)
 本作品のヒロインで、明朗快活な女性機械鎧技師。エドとアルの幼馴染。
 中央で起きた異変を知り、地下都市へシェスカとともに駆けつけます。エドの無事を信じ、成長した彼の身体に合うように、新しい機械鎧を製作して待っています。

・ロイ・マスタング(声 - 大川透)
 「焔の錬金術師」と呼ばれる国家錬金術師で、テレビアニメ版では准将の地位にまで登りつめましたが、最終回以降に自らの意志で伍長に降格します。自らの錬金術を封じ、北方の極寒の地で軍務に就いています。
 セントラルの異変では、伍長の身でありながら、かつての元部下たちにそれぞれ適切な命令を下しています。

・リザ・ホークアイ(声 - 根谷美智子)
 ロイの部下で狙撃手。彼の復帰を何よりも信じており、北方ではなく、中央司令部で勤務を続けています。

・アレックス・ルイ・アームストロング(声 - 内海賢二)
 元軍人で元国家錬金術師でしたが、本作では退役し、家族と共に内乱で荒廃したリオールの街の復興に取り組んでいます。

・ラース(声 - 水樹奈々)
 兄弟の師匠イズミ・カーティスの息子で、彼女が犯した人体錬成の末に生まれたホムンクルス。エドの手足を持っていましたが、テレビアニメのラスボスのダンテとの戦いで奪われました。ウィンリィがエドのために作っておいた機械鎧を装着しています。イズミの墓に放心状態で座り込んでいたところを、墓参りに来たウィンリィに連れ出されます。
 アルが自らを犠牲にエドを蘇らせた場面が記憶に強く残っており、アルをエドと再会させるために地下都市へ案内します。

・グラトニー(声 - 高戸靖広)
 テレビアニメ版最終局面でダンテによって理性を消され、「暴食」だけの存在となってしまったホムンクルス。その後、長い間地下都市に閉じ込められて賢者の石の力や岩などを食べ続け、巨大な化け物になってしまいます。地下都市で門を開こうとするアルとラースの前に再び立ち塞がります。

・ハスキソン(声 - 石塚運昇)
 錬金術師で物理学者。黒いマスクの男。新たな元素を発見し、「ウラニウム」と名付けたその高エネルギーを利用して新型爆弾を開発しました。
 国家錬金術師であるエドに上層部への紹介を頼みますが、兄弟から断られたことに激昂し、戦闘になります。
 ウラニウム採掘の際に死亡した人々の遺体を使って人体錬成を行おうと逆上したところ、門の中へ新型爆弾諸共引きずり込まれてしまいます。

1. 当時のアニメ映画の中では成功した方である。

 本作について、「本編」となるテレビアニメが人気を博し、それからまもなく公開されたので、興行成績は約13億円の大ヒット作品となりました。※これは、当時のアニメ映画の中では成功した方です。
 受賞歴も多く、2005年の第60回毎日映画コンクールアニメーション映画賞、2006年の東京国際アニメフェアで開催された第5回東京アニメアワードにて『アニメーション・オブ・ザ・イヤー』と音楽賞、原作賞受賞、『アニメージュ』2006年6月号第28回アニメグランプリ作品部門第3位、ファンタジア国際映画祭:ベストアニメ映画賞受賞、日本のメディア芸術100選(2000年代)アニメーション部門第5位に輝き、これらのほか、2005年の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品にも選定されました。

2. 作画は(2000年中盤のアニメでは)かなり良い。

 作画は、人物画・背景画ともに2000年中盤のアニメの中ではかなり良かったです。流石、ボンズ様々です。
 メカニックデザインは、「鉄人28号」・「サクラ大戦」や「キャシャーン」など、名だたるメカアニメを手掛けた福地仁氏が担当しています。
 本作では、大勢の鎧や戦闘機、飛行船、ロケットが登場します。これらによる戦闘シーンは格好良く、迫力がありました。特に、沢山の鎧のヌルヌルした動きや、飛行機の細かい部品の精巧な動きにツボりました。この辺りは、「機動戦士ガンダム」・「天空の城ラピュタ」・「紅の豚」・「風立ちぬ」・「とある飛空士への追憶」・「スチームボーイ」を彷彿とさせるので、メカ勢や乗り物勢には嵌まる作品かもしれません。

3. OPとEDのL'Arc~en~Cielの歌が良い。

 本作のOP「Link」とED「LOST HEAVEN」はL'Arc~en~Cielが担当しています。この2曲は映画のための書き下ろしです。特に、OPの1番のサビ「たとえ遥か遠く離れ離れになっても繋がり合う想い」はエルリック兄弟、2番のサビの「たとえこの身体がいくら燃え尽きてもいいさ 君に捧ぐなら」と、EDの「手を伸ばし掴んだ夢はそっと崩れ行く砂の城 ただ立ち尽くしてた別れ道 微笑を残して 消えて行った君が描く楽園へと 」はアルフォンス・ハイデリヒへのメッセージではないかと思います。

4. 声優は一部芸能人を起用しているが、懐かしくなった。また、2009年版アニメのキャストもいる。

 本作は、キャストに本職声優以外の芸能人と本職声優がいます。アルフォンス・ハイデリヒ役の小栗旬さん、ノーア役の沢井美優さんはお若い声でしたし、エッカルト役のかとうかず子さんも良かったです。ちなみに、エンドロールにて、小栗旬さんのお兄様の小栗了さんは「特別出演」のクレジットが出ていましたが、一体何役だったのでしょうか?もし、わかる方がいらしたら教えてください。

 また、本作はテレビアニメの「パラレルワールド」という設定があるため、テレビアニメで登場したキャラに「似た」キャラが登場します。
 例えば、ヒューズとグレイシア(夫婦ではない)、マブゼ(キング・ブラッドレイのそっくりさん)はガッツリ本作で絡みがありますし、台詞は無いもののスカーとラスト、ライラ(ダンテ)のカメオ出演もありました。

 そして、石塚運昇さんは2009年版アニメにて、ヴァン・ホーエンハイム役を演じています。ヴァン・ホーエンハイムとは違った悪役も味があって良かったです。

 一方で、石塚運昇さんや藤原啓治さん、内海賢二さんなど鬼籍に入られた声優さんも出演されていました。御三方とも、有名作品に多数出演し、人気キャラクターを演じてこられたので、もうこの御声が聴けないのは寂しいです。

5. 脚本は「賛否両論」だが、劇場版作品としてはよく纒めている。

 前述より、本作は「高評価」な作品ではあるものの、脚本はかなり「賛否両論」となっています。私も、初見時の中学2年生時では、本作にショックを受けましたが、30歳を超えて観ると、また違った視点が持てるなと気づきました。このように、本作は観る年代によって、全く異なる感想を抱ける作品ではないかと思います。

 まず本作は兎に角「骨太」で、話の密度が濃く、100分の作品にしては、かなり充実した内容となっています。カッコいい戦闘描写あり、切なくも愛しいヒューマンドラマあり、思想や歴史に対する恐ろしさありなど、様々な要素が取り込まれています。※敢えて言うなら、登場人物は多いので、人物相関を整理するのに、ちょいと時間がかかるかもしれません。

 (戦闘描写については、2で書いたので) ここでは、切なくも愛しいヒューマンドラマについて書きます。
 現実世界と錬金術世界の2つの世界において、とにかく皆がすれ違うのが、第三者から観ると歯がゆいのです。キャラ達のエピソードがとても切なく、「本当はこうなってほしくない!」と何度も思うほどでした。
 特に、親子の愛憎エピソードとエドウィンのエピソードは辛いものがあります。
 前者なら、エドワードとホーエンハイムの別れやラースとイズミの邂逅です。ホーエンハイムは、竜となったエンヴィーに喰われ、エンヴィーと共に、エッカルトが創造した「門」の材料となって死亡しました。※このテレビシリーズでは、エンヴィーとエルリック兄弟は「異母兄弟」となっており、エンヴィーは彼らの「兄」に当たります。エンヴィーは親に捨てられた、とエルリック兄弟を激しく憎悪していました。
 ラースについては、母イズミに憎悪を抱くものの、愛情も渇望しています。地下都市にてグラトニーと戦い、瀕死の状態になったときに、アルにグラトニーと共に「門」の材料にするように懇願します。そして「門」にて他界したイズミと邂逅します。ここは、涙なしには見れないシーンでした。彼の己の存在意義に悩み、人間と深く関わる所は、何となく、2009年版のグリードを彷彿とさせます。
 後者は、エルリック兄弟とウィンリィの別れです。正直、あのラストについては、(私も女性なので)ウィンリィが割りを食ったようで気の毒ではあります。しかし、本作は、エドワードとウィンリィが結ばれる話ではなく、エルリック兄弟が「2つの世界を救う」話だと思えば、酷評する程でもないように感じました。

 以前、Twitterにて「作品を作劇派で見るか、それともキャラ派で見るか」という議論がバズりました。※詳細は、出典のリンク先をご覧ください。
 これを踏まえると、本作は作劇としては「しっかり作られている」けれど、キャラの解釈は「かなり分かれてしまう」作品だと思います。

6. 「シャンバラ」とは一体何か?

 本作では、皆が「シャンバラ」を求め、しのぎを削る戦いが起こります。この「シャンバラ」については、マブゼより「アジアに伝わる伝説の理想郷」であると説明されていました。
 現実世界からすれば、錬金術世界は未知のエネルギーを行使できる「シャンバラ」、ノーアにとっては、「自分を認めてくれる世界」が「シャンバラ」でした。だから、エッカルトは錬成陣で2つの世界を繋ぎ、錬金術世界を征服しようと企んだのです。
 しかし、結局のところは、「シャンバラ(理想郷)」なんて存在しないのです。ラストの結びの言葉である「その先にあるのは『夢』じゃない。私達は『現実』に生きている」というのが、そのアンサーになっていると思います。

7. 史実を基にしており、かなり「センシティブ」な内容である。

 本作は、第一次世界大戦から第二次世界大戦の間の時代を描いています。「史実」を取り入れており、現実の出来事に踏み込んでいるため、かなり「センシティブ」な内容です。※特に、このご時世に観ると、人によっては、「嫌悪感」を覚える方もいるかもしれません。また、似たようなテーマを扱った復数の作品も彷彿とさせます。

 例えば、「ウラニウム新型爆弾の開発」については、正に日本に投下されたあの爆弾ですし、ハスキソンが目指した「成功」は、「大量殺戮」を意味することです。実際に、作中にて彼はウラニウム炭鉱事故で死亡した人々の死体を鎧に詰めて、現実世界に「転送」し、自律型兵器にしていました。
 ここは、原作漫画でも、ホークアイ中尉が「英雄と大量殺戮者は正に『紙一重』」と言っていたことと重なります。
 また、ハイデリヒも自分達が開発したロケットが悪い方向に使われてしまうのではないかと危惧していました。研究者が自身の成果とその影響に板挟みになって悩むシーンは、「鉄腕アトム」・「風立ちぬ」・「太陽の子」などを彷彿とさせます。
 そして、前述より「その先にあるのは『夢』じゃない。私達は『現実』に生きている。この世界と私達は『無関係ではない』から、責任を持って生きる。」と結び、哲学的な要素を取り入れた終わり方は、「風立ちぬ」や「太陽の子」と似ています。
 さらに、ナチス・ドイツについても、「金髪碧眼とアーリア系アーリア人こそがドイツ人である」という思想や、秘密警察、フューラー(ナチ党およびドイツ民族の最高指導者を示す言葉)、ミュンヘン一揆(本作では「失敗」)についてもガッツリと触れています。ちなみに、秘密警察が登場して登場人物が追われるシーンは、「紅の豚」や「風立ちぬ」を彷彿とさせます。

 一方で、戦争やクーデター描写ではありませんが、「シャンバラ思想」についても、結構「センシティブ」な域まで踏み込んでいました。
 例えば、ノーアやマブゼによるユダヤ人やロマ(ジプシー)への差別描写より、差別のない世界が「シャンバラ」であるとの認識がありました。
 何より、マフゼとエドとのやり取りで、マブゼが「大日本帝国」の話に触れ、「日本は『単一民族』が国家として纏まっている理想の国(シャンバラ)」と言及しており、ここはかなり危険な思想が含まれていると思いました。※ここは「ゴールデンカムイ」でも触れられた思想を彷彿とさせます。

 ちなみに、マブゼはユダヤ人の映画監督でしたが、これはあのユダヤ系アメリカ人の映画監督(スティーブン・スピルバーグ氏)のオマージュかと思います。※最も、マブゼは「架空の人物」であり、監督が「上記の思想」を持っていたというソースはありません。

 以上より、本作は、小中学生にはかなり理解が難しい内容だと思います。本人が近現代史を履修しているか、またはその時代の思想や思考について「適切に」説明できる大人がいた方が、より理解度が深まるように思いました。
 正直、この辺の描写は「駆け足」でしたが、この当時の少年漫画で出来る限界はここまでだったのかなと思います。

8. 結構グロい描写が多いので、苦手な方は要注意かもしれない。

 「鋼の錬金術師」という作品は、結構「グロい」シーンが多いですが、もれなく本作もそのようなシーンが多いです。
 本作のレーティングは「G」指定ですが、地震の描写や流血表現が凄く、ラースがグラトニーに喰われるシーン、戦闘で落ちてきた瓦礫の下敷きになって死んだ子供が映るシーン、エッカルトがラストで「門」の中に居た影に纏わり付かれてモンスター化するシーン(「コーネロ教祖」のオマージュか)など、キツいシーンが多かったです。
 これらの描写は、原作漫画が読めるなら大丈夫かもしれませんが、人によっては要注意だと思います。

 最後に、前述より、本作は原作や後のアニメとはかなり異なる故に、「賛否両論」になった作品です。
 それ故に、私も「初見と2回目で見方が変わった」とは言えど、全てを受け入れられた訳ではないです。それでも、心に残った作品ですし、観てよかったです。もし、鋼の錬金術師ファンの方で、本作未見の方がいらっしゃいましたら、是非一度観ることをお勧めします。是非、ご感想を伺えたらいいなと思います。

出典:
・「劇場版 鋼の錬金術師シャンバラを征く者」公式サイト

※ホームページが古いので、もしかすると、スマホではうまく見れないかもしれません。

・「劇場版 鋼の錬金術師シャンバラを征く者」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%87%E5%A0%B4%E7%89%88_%E9%8B%BC%E3%81%AE%E9%8C%AC%E9%87%91%E8%A1%93%E5%B8%AB_%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%A9%E3%82%92%E5%BE%81%E3%81%8F%E8%80%85

・にじめん: あなたはどっち?アニメや漫画を見るときストーリー全体を重視する「作劇派」と「キャラ派」について分かれると語ったツイートが話題!https://nijimen.net/topics/25708

・BS12日曜アニメ劇場
劇場版「鋼の錬金術師シャンバラを征く者」サイトhttps://www.twellv.co.jp/program/anime/sunday-animation/archive-sunday-animation/sunday-animation-070/
※ヘッダー画像は、こちらより引用。


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