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映画「ミューン月の守護者の伝説」感想

 一言で、世界観と作画はそこまで悪くなく、シンプルな冒険譚ですが、一方で物語の詰めが甘く、雑で強引な点が目立つので、細かい点を気にしなければ楽しめます。 

評価「C」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

・主なあらすじ

 とある空想の世界、ここには「昼の世界」と「夜の世界」、「中間の世界」の3つの世界が存在していました。また「昼の世界」には太陽が、「夜の世界」には月が存在し、歴代の「守護者」達が、それを司る役割を担っていました。
 ある時、両者の守護者が世代交代のために、新しい守護者を選ぶことになりました。「太陽の守護者」に選ばれたのは、「昼の世界」に暮らす陽気で自惚れ屋でガチムチなソホーンでしたが、「月の守護者」に選ばれたのは「夜の世界」に暮らす、痩せて青白くいたずら好きな森の子ミューンでした。
 何で選ばれたのかわからず困惑するミューン、何とかして「月」を動かそうとあの手この手を使いますが、当然失敗ばかり重ねてしまいます。
 そしてとうとう月は失われ、太陽は「冥界の王」に盗まれてしまいました。
 ミューンは「ツキも自信もない…」と落ち込みますが、この世界に昼と夜を取り戻すため、ミューンはソホーンと、か弱い蝋人形の少女グリム(フランス語版では蝋を意味するシール)と共に旅に出ます。(一部、公式サイトより引用。)

 本作は、フランスで制作されたアニメで、監督はのアレクサンドル・ヘボヤン氏とブノワ・フィリポン氏、音楽は『ウルフ・ウォーカー』のブリュノ・クレ氏、ミューンの原語版声優を『最強のふたり』のオマール・シー氏が務めています。
 ヘボヤン氏は、元「ドリームワークス社」にて『カンフー・パンダ』や『モンスターVSエイリアン』などの人気作を手掛けたアニメーターですが、本作にて独立し、初監督を務めました。
 元々は2014年に公開された作品で、2015年に東京アニメアワードフェスティバル優秀賞 ・ フランス映画祭2021横浜出品作品 ・東京都選定映画に選定されました。その評価の高さから、満を持して今年2022年に劇場公開となりました。

・主な登場人物

・ミューン
 本作の主人公。「夜の世界」に暮らす、細身で青白く猫のような見た目をしたいたずら好きな森の少年。彼は、ひょんなことから「月の守護者」に選ばれますが、責任感を知らないのに重い任務を託されて失敗を繰り返すうちに、最後には月を空から引き離してしまいます。

・ソホーン
 本作にて、「太陽の守護者」に選ばれた青年。琥珀色でガチムチな体格、陽キャではあるものの、自惚れ屋でプライドが高い性格はミューンとは正反対で、当初はミューンを足手まといに思います。
 しかし、「あること」が原因で太陽を手放してしまい、それを取り戻すためにミューンやグリム達と力を合わせることで、少しずつ変化していきます。

・グリム/シール
 蝋の少女。その性質故に、太陽の下では溶けてしまうし、夜は固まってしまうので、いつもは「中間の世界」で暮らしています。幼い頃に母を亡くし、父と二人暮らしのせいか、父は常に彼女に過保護で、外に出ることを禁じます。しかし、彼女は普通の少女のように、世界と自分を見つける冒険に出たいと願っており、父の目を盗んで家出します。

・聖獣
 太陽と月を引く存在。大きな獣のような姿形をしています。聖獣(神殿)には、それぞれの「守護者」が存在します。時が巡り、任期の終わりが近づくと、年老いた守護者達はそれぞれの弟子を次代の守護者に任命し、その役割を引き渡します。任命式の行われるアリーナはまさに昼と夜の境界にあるため、半分は太陽に、もう半分は月光によって照らされているのです。

・スパイダー
 月の聖獣に群れで存在する蜘蛛のような生物。月の守護者はスパイダーの糸を操ることで月のパワーを制御しています。

・ネクロス
 かつて太陽の守護者。しかし、太陽を我が物にしようとしたため失脚し、溶岩に溢れた冥界に堕とされてしまいました。
 太陽をもう一度手にするために、リユーンと二人の新しい守護者の心の弱みに付け込みます。

・モックスとスプリーン
 ネクロスの手下の小悪魔。気難しく怒りっぽいモックスは、混沌をばら撒くためならとてもエネルギッシュになります。
 反対に、スプリーンは植物を愛し、悪になろうとしてもできず、いつも落ち込んでいる、愛らしい憎めない存在です。

・蛇
 ネクロスが操る、悪口を囁く生き物。人の弱みに漬け込んで、その人を堕落させてしまいます。

・ゾラルとユール(先代の守護者たち)
 共に350歳。序盤、儀式の際に引退し、後継者たちに後を委ねました。
 太陽の守護者のゾラルは、皺くちゃのトカゲのような生き物で、月の守護者のユールは、植物性の生き物で、謎めいています。

・リユーン
 ユールの勤勉な弟子で、冷徹で勤勉、かつ厳格。ずっと追い求めていた月の守護者の役割がミューンに渡ってしまい、怒り狂った彼はネクロスによって堕落し、「月の守護者」を横取りしようと企みます。しかし月が死に、その計画が台無しになると、たちまちヒステリックになってしまいました。

・フォスフォ
 『MUNE』の世界の神話をよく知る知識人。発光するドラゴンの身体が特徴的で、ミューン達を冥界へ向かう世界へ案内します。

1. 世界観や作画を堪能するなら良い作品。

 本作、世界観・アイディア・作画はそこまで悪くなく、「オッ」と来る箇所は何点かありました。
 まず、「昼夜の世界と中間の世界が同時に存在する」という世界観は良いと思います。各々の世界に、生存に適するように「進化」していったという下りは、現実世界で言う「適応放散」や「適材適所」の考えに重なります。
 また、鎖で引っ張る太陽、蜘蛛の糸で引っ張る月、両者を動かす「聖獣」も、アイディアの独創性を感じて面白いです。
 そして、作画は3Dと2Dの融合が見られ、彼らが生きる世界では「3D」が、ミューンの夢の世界や回想シーンでは「2D」が用いられていました。
 さらに、既存アニメの「オマージュ」は随所に見られるので、それをどう受け取るかは各々の視聴者次第だと思います。これらをポジティブに受け取れる人は楽しめると思いますし、逆に既視感を覚えてしまうと、観るのがキツくなるかもしれません。
 特に、両監督は、宮崎駿氏と細田守氏を尊敬しているそうです。そのため、彼らの作風に似ている箇所はかなり見られました。
 例えば、「聖獣」のダイナミックな動き(体の動かし方や足踏み)は、宮崎駿氏の「ハウルの動く城」の「城」や、「トロイの木馬」を連想させます。また、キャラデザが獣人に近いのは、細田守氏の「ケモナー」ぶりを連想させます。特に、グリムの表情は、「おおかみこどもの雨と雪」の花や雨や雪を参考にされたそうです。
 ちなみに、2Dアニメシーンは、手塚治虫氏の描く動物(レオやユニコなど)や、アメコミ風タッチになったのが面白かったです。
 これらの個性的な描写が合わさったキャラを見ていると、何となくNHKEテレの人形劇番組に出てくるパペットを思い出しました。
 そして、ディズニー2Dアニメ黄金期を支えたアニメーターのグレン・キーン氏の「助言」を得たこともあって、かなりディズニー作品を連想させました。(気づいた限りで、「ファンタジア」・「ヘラクレス」・「モアナと伝説の海」・「リトル・マーメイド」・「ファインディング・ニモ」など多数あり。)
 特に、スパイダーは芥川龍之介氏の「蜘蛛の糸」を連想させるキャラで、毛のフサフサのリアル感を3Dアニメで表現したのは凄いと思います。(「トイ・ストーリー4」のダッキー・バニーや、「私ときどきレッサーパンダ」のレッサーパンダのオマージュか。)
 他にも、それぞれの世界が微妙に重なっていて、実は相互干渉するところは、上橋菜穂子氏の「精霊の守り人」の「サグとナユグ」、トリオで海底探検するところは「のび太の海底鬼岩城」、日食・月食・錬成陣を動かすところは「鋼の錬金術師」を思い出しました。

 一方で、キャラデザはかなり癖が強いので、賛否両論になりそうです。正直、日本人受けはしにくく、「可愛い」と思うかどうかは各々分かれそうです。
 特に、ミューンの青色のイメージですが、目が大きいので、結構「不気味の谷」現象を感じる方がいるかもしれません。彼からは、「ドラえもん」や「アバター」が連想されました。

2. 脚本は、良くも悪くも「あの作品」に似ている。

 本作の脚本は、良くも悪くも「ヘラクレス(ディズニー版)」と「北欧神話」をミックスしたような内容でした。力持ちの男キャラ・小悪魔な女子キャラ・冥界のラスボス・その他獣神やトロル・エルフ達が登場し、悪を退治するために主人公達が冥界に乗り込み、ヒロインが死にかけるところまで被っています。

3. 一方で、展開は「シンプルだけど雑で強引さ」が目立つ。

 本作の展開として、良い点を挙げるなら、話がシンプルなことだと思います。「立場の違う者同士が、ぶつかり合いながらも相互理解・成長していく」というテーマはとてもわかりやすいと思います。
 しいて言えば、よく聞くテーマではあります。でも、それだけ現実世界では実現していないからこそ、フィクションで何度もテーマとして取り上げられるのかもしれません。これだけシンプルなストーリーなので、お子さんと観ても問題ないと思います。上映時間も90分で終わるので、そこまで飽きないかなとも思います。

 また、ミューンの仕事を横取りしようとしたリユーンやネクロスなど、闇堕ちしたキャラを滅ぼすのではなく、皆を救う展開なのは、別に悪くないかなと思います。
 この話では、「生まれついての悪」がいるのではなく、「心の弱さが悪になる」という概念で、物語が進行します。リユーンもネクロスも、「蛇」に囁かれて、悪事を働きました。
 よって、蛇は「心の闇」の比喩表現だと思います。誰もが心の弱さを持っているし、巣食われる危険性を持っていて、ふとした時に嫉妬心や悔しさなどの弱みに漬け込まれると簡単に闇堕ちしてしまうことを表しているのではないかと思います。そして、そこから脱出するには、仲間との繋がりや心のブレーキとなる理性を持つことが大事ではないかとも思うのです。ここは、「ゲド戦記(小説版)」の「影」と重なるかなと思います。ある意味、本作のラスボスは「蛇」かもしれません。

 一方で、今一つな点も結構目立ちました。端的に言うと、物語の詰めが甘く、結構「雑で強引な」点は目立ちました。この程度の創りなら、ある意味、90分で終わってよかった作品かもしれません。
 キャラの行動原理については、なぜそうなるのか、裏付けはあまりなく、何となく予定調和で終わる感じでした。そのせいか、結構細かい点を突き詰めると、疑問が生じるのです。例えば、以下の点は気になりました。

・ミューンとソホーンが次期守護者に選ばれた理由って何?
 ここって大事な点だと思います。彼らが「他の人と違う」という、「差別化の描写」が不足していました。まぁ、ミューン自身も「わからない」と言っていましたけどね。
 まだソホーンについては、陽キャで力持ちという、選ばれそうな要素はあるものの、ミューンに対してはここが弱かったです。
 結局、ミューンは「山羊が懐いたから選ばれた」みたいになってるんですよね。長年守護者の座を狙ってきたリユーンが選ばれなかった理由も特に描写が無いので、余計に「?」となりました。
 最も、作中ではミューン・ソホーン・グリムのトリオ以外の他の人はほぼモブ扱いになっており、トリオと他の人との絡みが少なすぎるので、彼らが出かけている間、他の人がどうしていたのか、彼らがいないことで不自由はなかったのか、その辺がよくわかりませんでした。

・結局ミューンの「能力」って何?
 癒やしの能力?それとも、悪夢から解放する能力?彼の能力、全くわからないわけではないんですが、結構曖昧なんですよね。まぁ、後者の「悪夢からの開放能力」が答えに近いんだと思いますが。

・グリムの「蝋」が溶けるルール・タイミングが曖昧。
 グリム、父の目を盗んで昼の世界を歩いていたけれど、割と長時間歩いていたのに、体が溶けなかったのは何故?
 グリムの父が娘を外に出さないのは、「蝋で体が溶けると死ぬ」からなのはわかります。※父曰く、グリムの母ウルスラの死因は、「体が溶けた」こと。
しかし、彼女は割と長時間外にいました。
 最後に、冥界の溶岩のところで初めて溶けましたが、物語の都合上?なのか、彼女が溶けるシーンと溶けないシーンが曖昧になっていました。

・助けが来るタイミングや解決策を閃くタイミングが「ご都合主義」的。
 キャラがピンチに陥ったときに、仲間が助けに来るのは良いです。しかし、その過程が「雑でご都合主義的」に漢字ました。例えば、「どうしてそのキャラがそこにいるのがわかったの?」や、「なぜその方法で解決できると知ってたの?」といった展開が多かったです…

・ミューンが溶けてしまったグリムの胸に月の石を埋めた理由は?
 あれは、「彼女を生き返らせるおまじない」みたいなものですか?「愛があれば生き返る」的な感じでしょうか?ミューンの能力に「死者復活」ってありましたか?

・グリムと父の確執が「解けた」のはいいけど、何となくすぎない?
 序盤から、あんなに「外に出るな」と娘に言っていた父ですが、最後は、ミューンと結ばれたのを見て、微笑みます。何となく良い感じになって終わっましたが、皆の心の移り変わりがほとんど描かれていないので、今一ついていけませんでした。
 ていうか、お父さん、ミューンと面識ないですよね?いきなり、知らない少年と娘が懇ろになっているけど良いの?

・ギャグは多用しているけど、結構滑っているかな。
 ギャグを多用し、暗くなりすぎない工夫はされていますが、私には今一つ笑えず、滑っていたように感じました。ここを面白いと思うか、サムいと取るかはその人次第だと思います。

 まぁ、やりたいことはわかるので、訳わからない作品ではないし、不快になるアニメではないのは良いかなと思います。それでも、細かい点を理屈で気にする人には相性が悪いかもしれません。

出典:
・映画「ミューン月の守護者の伝説」公式サイトhttps://mune-movie.com/

・映画「ミューン月の守護者の伝説」公式パンフレット

・仏アニメ『ミューン 月の守護者の伝説』主人公役に大橋彩香 株式会社ホリプロ

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000573.000028143.html

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