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小4娘がアイドルになりたいと言い出した。

「私、新しいことを始めたいと思うの。」

夜寝る前になって娘が突然、言い始めた。
またか。本当に君はやる気が人より多くていいなあ。
こないだヒップホップしたいって言って、その次の週バスケがしたいって言ったばかりじゃないか。
そもそも、君は今年度から塾が始まって、宿題をやる時間が増えたから、もともとさぼりがちだったピアノの練習にぱったり手が出なくなって、この5月でやめるという決断をしたばかりじゃないか。
それでも、話は聞いてあげよう。
だって、本に書いてあったもの。子どものいうことは否定せずに一度は受け入れなさいって。

「私ね、アイドルやってみてもいいかなーと思うの。それか私、手と足が長いからモデルもいいかなって」

わー…。まじか。そっち方面ですか…。
そして、娘が手にしているipadには地元のモデル事務所と子ども劇団のホームページが。
自分なりに調べたんだね。
あれ、今日届いたフリーペーパーの特集記事がご当地アイドルなのね。
余計な特集組みやがって…。

「同じクラスのAちゃんは子役やってて、今日はCM撮影があるから午後から学校休んだんだよ。すごいよね」

なるほど。その子がやっているから私もできるかもって思ったんだね。
Aちゃんはかわいらしい子で、お母さんも美人だもんなあ。
前の懇談会の時に街で娘さんがスカウトされた話を聞いてたよ。
ああ、これ娘に秘密にしとこう、って直観で思った。
こういう話、やる気が人の10倍ほどある娘が変な方向に向かわないか、心底心配だったから。

それでも、Eテレの子育て番組で言ってたから、まだ否定せずに娘の話を聞いてみよう。
なんでアイドルになりたいと思ったの?

「なんか…。誰か一人でも自分のことを推して応援してくれる人がいたら、私頑張れると思ったから!」

…なんか!すごく!フワっとしてる!!
ゆるふわ!!
推しの子読みすぎ!!!

誰か目標にしている人とかいるの? それかこうなりたいってイメージとかあるの?

「それはわからない。イメージっていうかやってみないとわからない。若いうちにやっておきたいの!」

それは結局何もせずただただちやほやされたいって願望を言語化しただけでは…?

私が難色をしめすと、「どうせ無理だよね…。結局ママはダメって言うんだ…」と夜になると発動しやすい悲劇のヒロイン系ネガティブモードが入り始めたので、とりあえず今日は夜も遅いから寝よう、と言って半ば強引に娘を寝かしつけた。

ちやほやされたい。
キラキラしたい。
すごいって言われたい。
優越感に浸りたい。

このぐらいの年齢になると自分と他者を比べて、どこが劣ってるとかどこが勝ってるとかわかるようになってきて、それで客観性が育っていくとかなんとか見た気がする。
大人になればそこまで感じないのかもしないけど、同い年の子がぎゅっと集められた学校に閉じ込められていると、それはより切実に感じるものなのかもしれない。

でもね、お母さんはただちやほやされるアイドルになることで、あなたの心の隙間を埋めてほしくはないのよ。

アイドルだって努力して頑張ってる!だから輝いてる!

うん、それはそうなんだけど、そもそもその努力も誰のためのものかって話なんだよ。
そもそも輝いてるアイドルはすでに選ばれた側で、バッターボックスが用意された人間なんだ。その上で努力してヒットを打っている。
フェミニストみたいなことを言うつもりはないけど、「誰かに選んでもらうためにする努力」はしんどいよ。しかも得るものが少ない。
本当の自分のままで選ばれるのなら、君はすでにどこかでスカウトされてるはずだからね。Aちゃんのように。

…なんてシビアなこと、言えないよなあ。小4にはきついか。

そうね。アイドルになりたい夢、ずっと持ってたらいいよ。
まだ君は人が与えてくれるものじゃなく、自分が本気で努力してつかみ取る経験をしていない。
まずはアイドルではなくてそこからだ。
今の感情は泡のように消えちゃうかもしれない、でも高校卒業しても持ってたら本物だ。
その時は応援しよう。

こんな感じかなあ。
旦那に相談したら、「そんなこといちいち反応しなくていいよ。どうせすぐ忘れるんだから」と言われた。

確かにね。

でも、娘のキラキラした笑顔が私は世界で一番可愛いと思うから。
理屈では無理と思っても、アイドルも悪くないかなあ、なんて思っちゃうんだよ。

本当に親ばかでごめんね。


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