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【18】診察室で決別宣言

告知から3か月目に入るころ病院に予約した。現状検査の為、抗がん剤・手術を受けないと伝える為に。一人で行くつもりだったが夫も一緒に行くという。夫婦別姓の私たちに法的証明は無い。コロナ禍でもあり今後の為にも一度医師に面談したいという夫。今後の為?私の雲行きが怪しくなるのを察知した夫が口を開く。

「ちかちゃんの気持ちは分かる。それでも緊急に運ばれる可能性がゼロじゃないから主治医に会っておきたい。」

夫はあらゆる可能性とリスクを考えて準備するタイプ。運ばれないけどね!と思いながら、行って気が済むならと車の助手席に座り病院へ。医師に夫を紹介した診察室を一人で出ると私は検査に向かった。

CTの白黒画像に異常細胞たちは変わりなく存在を主張して「すっかり無くなっている奇跡」は起こらず。自由診療の治療や東洋医学の治療で異常細胞を小さくしてゆくには時間がかかるのは分かっていても、がっかり。

いつ腸閉塞になってもおかしくない危険があること
このままでは食事も難しくなること
人工肛門の手術の必要があること

医師の説明は優しく丁寧だった。私は首を縦に振らず「手術はしません」と伝えた。静寂。夫とチラリ視線を交わしている様子の医師。

医師「どうするの?ごはん、食べられなくなるよ?」
私は小さなこどもになったような気がした。
私   「先生、不食で生きている人もいます」

医師「お尻・・・痛くないの?」
医師の目がキュっと私の目を見ている。
私    「いたくないです」
キッパリ言い切った。

硬い椅子に長く座っているのに気力が必要でホントはちょっと痛かった。でも、それ以上に、手術はどうしても嫌だった。嘘をついた。

説明の内容が書かれた用紙を受け取った。

ありがとうございましたと診察室を出て扉に手をかけた。

医師は扉の間から私の目を見つめていた。
扉が閉まるまで、見えなくなるまで、その瞳から目が離せなかった。

切ない。悲しい。

そんな感情で胸がいっぱいになった。
医師のものか私のものか、どっちもなのか分からなかった。

「やっと来たと思ったら手術しないって言うんだよぉ」

隣の診察室の医師か看護師に向かってなのか、呟きなのか、ぼやきか、なんともいえない響きの声が聴こえた。

別室で緩和ケアの看護師さんから名刺とパンフレットを受け取って病院を出た。車の助手席から眺める景色が歪んで見えた。

傷つけても、悲しくさせても、私は自分の我を通したかった。



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