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作業療法士の私がなぜ福祉ネイリストをするのか

作業療法士は、病院や施設、在宅など様々な分野で障害を抱えた人に対して"作業"を通じて、身体機能の維持・回復やその人なりの『生活の質』を向上させるためのリハビリを行います。

作業療法士ポスター2

そのため、作業療法士はより対象者の方の『生活』を考え、対象分野は小児・身体障害・老年期・精神障害など多岐に渡ります。

そんな作業療法士をしていた私がなぜ『福祉ネイリスト』になったのか。

手前味噌ながら、私は作業療法士の啓発ポスターが大好きです

作業療法士ポスター1

作業療法士ポスター3

作業療法士ポスター5

何年か前のポスターに書かれていた言葉だったと思うけど、特に

『心が動けば 体も動く』

という言葉が大好きで、作業療法こそこれだ!

と思っていました。

私は、身体機能の回復を一番に、機能訓練に重きを置くよりも、その人の"想い"や"やりたい"と思うことをリハビリに取り入れたかった。

もちろん、機能訓練も大事。やります。

けど、やっぱりその人にとっての『意味のある作業』をしている時の方がお互いにすごくワクワクしてリハビリができていたと思う。

私が先輩について一番はじめに担当した患者さんがとても印象深くて

その方は、私の母と同じくらいの年でクモ膜下出血を発症し、重度の左片麻痺だった。

半側空間無視も著明で、自分自身で体の置き場がわからず、ベッドに横になるのもかなり怖がる人だった。

その方が家に帰るための条件は、『介助でトイレに行くために、手すりにつかまって立つことができるようになること』だった。

その人は何をするにも怖くて、感情失禁もあったため、いつも顔はこわばり、涙していた。

でも旦那さんや家族との仲が良くて、旦那さんもできる限りその方に寄り添ってくれた。

家族と一緒に、必死になって家に帰れるように機能訓練や生活リハを行った。

しかし、その方は担当した時点で、左半身の拘縮も強く、麻痺の程度の回復を見込むことは難しかった。

その方は元々旦那さんと畑で野菜を作っていた方だったので、一緒に病院の小さな花壇で野菜を育てることにした。

左半側空間無視があって、左側のものが認識できなかったり、座っているだけでも怖かった人が、動く右手だけを使って、一緒にきゅうりのネットを作ってくれた。手芸用のモールを使ったとっても簡易的なネットだけど、その方は一生懸命作ってくれて、それから毎日野菜を見に行くようになった。


それからすごく表情が明るくなって、旦那さんと話すときに笑うことができるようになってた。

それを見た時に、すごく大切だった奥さんが急に重度の障害を抱えることになって、もちろん一緒に家に帰りたいけど、自分が介護できる状態になるかの瀬戸際で、その大切だと思う奥さんが、家に帰ってもいつも苦しんでいたり泣いているより、笑えるようになった奥さんと一緒に家に帰ることにすごい意味があるんだということに気付かされた。

それから、左半身の麻痺はほとんどレベル的には回復しなかったけど、なんとか手すりにつかまって立つことができて、旦那さんの介助でトイレに行けるようになって、自宅に退院できることになった。

笑うようになった奥さんを毎日見て、これから介護に向き合う旦那さんの気持ちも少し軽くなったのが見てわかった。

私はその病院を辞めてからも、たまに会いに行ったり、手紙や年賀状のやりとりをしている。

数年前に旦那さんが癌で亡くなってしまい、今は施設に入っているけど、息子さんたちがまめに外出に連れて行ってくれたり、今でも施設内の花壇にスタッフの方と一緒に野菜を育てて、楽しんでいるのを教えてくれる。

身体機能の目に見える回復は少なかったけど、気持ち・表情の変化から、その人を支えていく人たちの気持ちやその人の在宅に帰ってからの生活は大きく変わった。

そして、いつも手書きで書いてくれる文章を見るたび、右側に偏って書いていたのが、いつの間にかはがきいっぱいにキレイに書けるようになってきたのを見て、すごく感動した!

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障害を抱えてしまった方でも、「嬉しい」「楽しい」とか「自分の役割」をもつことで、障害と上手く付き合いながらできる限り満たされて生活していってほしい。

認知症の方に関しては、どんどんわからなくなってくる本人もつらいし、その方を支える家族もすごくしんどい部分がある。

でも、認知症でやる気もなくなり身なりを気にしなくなったおばあちゃんが指先がキレイにお洒落になったことで、表情が明るくなり、周囲とのコミュニケーションを楽しむようになった。身なりを気にするようになって周辺症状が軽減した。いつも一番身近で介護しているのにも関わらず、怒鳴りちらし、お金をとった犯人扱いをされて精神的に病んでしまう介護者の方が、穏やかなおばあちゃんを見て、少しでも穏やかな気持ちになってくれる。

そんな福祉ネイルの可能性は作業療法士の私にとって、とても魅力的だった。

福祉ネイルを実際におじいちゃん、おばあちゃんに施術した人は、その場の雰囲気や笑顔が忘れられない。

ネイルは認知症や障害を抱えた方にとって、さまざまな効果を与えることができると思う。

けど、それをしっかり証明したものはほとんどない。

以前、認知症高齢者にネイルが与える効果の研究に関して、研究協力をさせていただいたこともあったけど、作業療法士として、自分でそれを証明したいと思った。

だから、私は福祉ネイルの可能性に関して研究を始めることを決めた。

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形になるかわからないけど、しっかり残しておきたい、福祉ネイルを多くの人に知ってもらいたいと思うから。

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