お父さん一番好きな魚はなあに?
お父さんの一番好きな魚はなあに、と息子が聞くので
「うなぎ」とぼくは即答した。
そう、ぼくはうなぎが大好物なのだ。
だからぼくは悲しい。
それもこれもみんなうなぎが高くなりすぎてしまったからである。
15年くらい前はうなぎが安かった。
だから2週間に一度はうなぎを食べていたのではないかと思う。1200円くらいから食べられた。2500円もだせば上等のうなぎが重箱からはみ出るくらい乗ったものだった。
築地にお気に入りの鰻屋があった。客の前で炭火で焼くその店はさして広くない店内であったがいつも大勢の客で賑わっていた。
何年かして。そう鰻の稚魚があまり取れなくなって値段が高騰しだした頃だった。
いつもの鰻屋へ行くとなにか違う。そうか、煙がない。みれば炭台がなくなってガス台になっていた。
ガスにも良いところがあるんだよ、なんて店主は強がっていたが、あれだけ炭火の良さを語っていた店主である。忸怩たる思いが一番強いのもまた店主だろう。
それきりその店へはいかなくなった。
その店だけじゃない。鰻屋へいかなくなった。
なにしろ2000円が6000円になったのだから。
うなぎは好きだが6000円の価値はないと思う。6000円だせばコース料理が食べられる値段である。丼一杯が6000円…。それはどう考えてもおかしい。
今うなぎが高いのは単純に希少性の問題だけである。味が3倍美味しくなったわけではない。つまり完全養殖が実現して大量に出回るようになればまた値段は下がるだろう。
それにしてもあれほど食べていたうなぎが食べられなくなるのは悲しいものである。そういえばサンマもここ数年食べていない。海の資源は無限ではない。永遠には続かない。少し前までの当たり前が急速に非日常になりつつあるのが現代である。
世の中モノに溢れすぎていて、失われたものには気づきもしない。今失われつつあるものに注意を払わなければ、それらも気づかないうちに失われていくのだろう。
ぼくはかろうじて色々ある時代を知っている。しかしぼくの子どもたちは知らないものが増えるだろう。そんなことになってはいけないのだ。
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