真冬に蝶が舞う
氷柱の合間を縫って
誰からともなく受け継いだ景色を切り刻み
手塩にかけて饗すように
鈍行列車の窓硝子
私の姿がやけに気になる
選んだ色彩が褪せるのを待っているようで
随分遠くまで来た
町の名前も覚束ない
無人の改札を過ぎ
スマホの充電の残量を確かめる
憧憬が点滅を始める
あまりにも長い時間、忘れないでいた
言葉にしたらすぐにでも逃げられそうなのに
影はますます色を強めて
誰も憎めず、羨みもしない
この眼が捉えるのは、私だけの風景と信じて
それでもいつか見せたい人がいた
記憶は呼び鈴を鳴らす
来客もなく、主も居ない廃墟
そうか一人なんだと思えたら泣けてくるから
雪解けの土に染み込む一雫
誰かのための生命なら
綺麗に飾って差し出すのだと
浮ついた世を眼下に臨み
氷原の蝶が辿り着きたいのは
楽園では決してないのだろう
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お読みいただきありがとうございます。琉球新報の文芸欄、琉球詩壇にて4月の詩として選出していただいたものです。4月1日付なのでもう紹介して大丈夫かな?
琉球詩壇は文芸のポータルサイト的な役割も果たしているので、ちょっとお薦めです。選んでいただきありがとうございました。
読んでいただき、ありがとうございます。 ほとんどの詩の舞台は私が住んでる町、安曇野です。 普段作ってるお菓子と同じく、小さな気持ちを大切にしながら、ちょっとだけ美味しい気持ちになれる、そんな詩が書けたらなと思っています。