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守ってくれない世界、君を傷つける世界

ループ編の「ワ!ワ!」、島編の「フルフル・・・」など、困難や不条理に向き合うちいの成長を描いてきたこれまでの神回とは、それこそ次元の異なる、物語の根幹に迫る神回がきた。

正直に言えば、
パラレルワールドに迷い込んで、最初は楽しかったけど、不安になっちゃって、帰り方がわからなくて抜け出せない・・・そんな地獄くらいは覚悟していた。
でもこれは、想像してなかった方の鬱展開。

もしかして・・・
この世界の方が・・・「良い」の?

この一コマにギューーーーーッと心臓をつかまれてしまった。
「ちいかわ」を読むすべてのあなたは、ハチワレが今、何を突き付けられているのかに、気付いてしまう。

もし、僕らの人生に失敗がなかったら?
降りかかる困難も、やがて乗り越えられることが約束されていたのなら?
それが実現したこのパラレルワールドで、これらの問いは、予定調和やハッピーエンドに必ずしも続いていない「生きていくこと」にどんな意味があるのか、何の保障もない「暮らしたい」にどんな価値を見出せばいいのか、とハチに、僕らに突き付けてくる。


今、まぎれもなく、ハチワレが立つ草原の地平の先にはあの「守ってくれない世界」があって、自分がなぜ、あの過酷で何も約束されていない世界に帰りたいのか、その理由を探している。

だって、あの世界がそもそも無理ゲーだったら?
泣きながら一人で走って、願いはかなわなくて、優しくしてもらえなくて、投げ出す自分が情けなくて、誰かは離れていって、意味なんかわからなくて。
そんな場所が、僕らの居場所じゃなくて、よかった・・・?

パラレルちいが登場した時の「ウ!」に感じた違和感は、試験にも合格して、ともだちも失わずにすんで、強くなって認められている、その自信だったと気づく。

暗転して現れた世界の見知らぬ「ともだち」の姿に、すわ悪夢再来かと訝ったが、この世界はそんなまやかしで「すら」なかった。
まさかの並行世界。しかも、より「良い」という。
絶対の違和感、底知れぬ恐怖。

もしかしたら、こっちの方が、「正しい」の?

もっともっとこの世界に引き込まれてしまったら、「ああ、こうだったよね?最初からこうだったじゃないか。こうあるべきじゃないか。」と自分の記憶までも書き変えてしまいかねない。
僕らはそれくらいには弱いから。

だって、ここにはいるんだもの。
失わなくてすんだともだちが。
傷つけてこない世界で実った努力と、なりたかった自分が。

物語はこの後、さらに予定調和を見せ付け、ハチを揺さぶってくるかもしれない。

ナガノは魔術師だ。本物の。
たった一コマの押し付けてくるイメージの力が、量が、おかしい。

この世界の方が・・・「良い」の・・・?
君が泣いていない世界。君が自信を持って生きている世界。
でも、この違和感を無視出来ない。
無視しちゃいけない、忘れちゃいけないことが、確かにあったから。
泣いていた君のことばかり思い出して、
今、こんなにもあの世界が恋しい。


うまくいかないコトばかりで、泣きたくて、悔しかったり、恥ずかしかったり、後悔して、取り返しがつかなくて、痛くて苦しくて逃げ出したいと思っていたあの世界に、こんなにも戻りたい。
戻りたいよ。

なんでこんなに懐かしいんだろう。
守ってくれない、約束してくれない、僕を傷つける大嫌いな世界が。
なんでこんなに切ないんだろう。
努力しても結果なんて出なかった君の笑顔を思うと。

「フ!!(涙)」

やっぱりここには、いられない。
今、ここは自分の居場所じゃないと確かに感じる自分を信じてあげたい。
今、また君に会いたいと思える自分でいたい。
きっとここは素晴らしい世界だけど、
囚われていられない、安らいでいられない。
行かなくちゃ。

あーあーあー。
こんな予想できない方法で、僕らのなかに確かにあった希望に気付かせるとか、ホントに反則だろナガノ。
ハチとシンクロした自分がちゃんとそれを選び取ろうとしてることに、驚きさえ感じるよ。こんなにも、この世界に期待してたとかさ。

だからハチワレはどんなに揺さぶられても、
ハチだから、必ず思い出す。
今も気を失って横たわるちいを。
絶対に、自分を信じて待っているだろう「ともだち」を。

戻らなくちゃ・・・助けに戻らなくちゃ。
「ともだち」のいる世界に。
君を傷つけてばかりの、ムリして笑う君のいる世界に。

(ハァ?泣いてねーよ)


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