【単話販売用：『ゆるゆると生きる』絵本】5話：『お付き合いは自立という名のもとに』

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～Chii。のゆるゆると創作中～｜Chii｡ の『ゆるゆると生きる。』＠ゆるゆるとありのままで浮遊中……♬

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１．絵本本編

女性：『Salut, Shion. Pourriez-vous s'il vous plaît apporter une correction ici ?（ねぇ、紫音。ここの修正をお願いできるかしら？）』
 
本郷君：『Ouais, tout de suite.（えぇ、すぐに。）』

 
本郷紫音は
同僚が差し出したタブレットの画面を見て、
頷いて見せました。
 
システム調整は
彼の得意分野です。
 
話す言語は違えど、
プログラム言語は共通だからです。
 
 
母がフランスと日本のハーフ、
父がイギリス人である、
 
いわゆる
クオーターの紫音にとっては、
 
フランス語も
話せる範囲なので、
 
日常会話にも困りはしません。
 
ただ、
何か言い難い寂しさが漂うのは
何故でしょうか…？
 
その理由に
心当たりがありつつも、
 
それを
認めたくない自分が
彼の中にはいるようです。
 
 
けれど、
 
こうなることは
予想の範疇。
 
 
そして、
 
今の紫音には
叶えたい夢があるのです。
 
自分の夢のために、
今はこれがベスト。
 
 
そう何度も
頭でシミュレーションしたのだから、
 
今の紫音に
迷いはないはずなのです。
 
 
女性：『Shion ? Qu'est-ce qui ne va pas?（紫音？　どうかしたの？）』
 
本郷君：『Non, ce n'est rien. Je vais répondre immédiatement.（いいえ、何でもありません。すぐに対応しますね。）』
 
 
―☆―
 
熊田リーダー：『それでね、なぎちゃん。わたしたち、結婚しようと思うの』
 
渚：『……はぁ、そうなんですね』

 
熊田リーダーが
はにかんだ笑顔で、
何かを言っています。
 
 
けれど、
 
渚の耳には
内側に膜を張ったように、
 
音が
鈍く聞こえます。
 
とりあえず、
頷いて見せるものの、
 
それが
どういう意味なのかは
頭が理解してくれません。

 
河野部長：『それで、会社の関係者を呼ぶときの調整を佐藤さんにお願いしようと……。……？　佐藤さん？』
 
渚：『……はぁ、なるほど』
 
熊田リーダー：『なぎちゃん？　おぉ～い、なぎちゃぁ～ん！』
 
渚：『…………。…………はぁ、そうですか』
 
熊田リーダー：『…………』
 
河野部長：『…………』

 
気のない相槌を繰り返す渚に、
熊田リーダーと河野部長も顔を見合わせます。
 
最近の渚は
仕事でミスを連発し……はしないものの、
すべてが上の空。
 
返事も生返事、
会話も気のない相槌が続き、
 
彼女のこころは
どこにいってしまったんだろうと
思うような有様です。

 
渚：『…………はぁ』
 
熊田リーダー：『……なぎちゃん？』
 
河野部長：『聞こえてないな、これは』
 
渚：『…………はぁ』
 
熊田リーダー：『あ、なぎちゃん、それ、わたしのケーキ……』
 
河野部長：『思いっきり食べてるな、奈那の食べかけ』

 
結婚をするときの、
会社関係者への取りまとめを
２人をよく知る渚に頼もうと、
 
今日は
休日のカフェに彼女を誘ったのです。
 
 
しかし、
 
２人の言葉も
今の渚には外の世界の出来事のよう。

 
熊田リーダー：『……すごい長文のメールをあいつに送り付けてやろうかしら、……スワヒリ語で』
 
河野部長：『止めておけ。彼のことだ。親しみのない言語でも、すぐ訳して、別言語でお前に嫌味を返してくるだろうさ』
 
熊田リーダー：『…………くっ、無駄にハイスペックなばかりに……！』
 
河野部長：『……とりあえず、もう少しスイーツを追加注文するか。佐藤さん、俺の手つかずのタルトまで食べだしたから』

 
渚は
自分のお皿のアップルパイを平らげ、
 
熊田リーダーの、
食べかけの苺ショートを口に押し込み、
 
とうとう
河野部長の桃のタルトに
手をつけ始めたのです。
 
相当な重症具合に
結婚間近の２人は苦笑いを浮かべて、
カフェの店員を呼ぶのでした。