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【『ゆるゆると生きる』絵本】0話:『はじまりのものがたり』

人間が住む人間界。

その空の上の、さらに雲の上の、そのまた上に、
『かみさま』が住む天界がありました。
 
かみさま:『う~ん、だらだらするのも飽きましたね。そろそろ何かしましょうか』
 
おや?
かみさまが久しぶりにやる気を出して、
何かをしようとしていますね。
 
かみさまがいるのは、
天界に唯一ある木のてっぺん。

そこに、かみさま用のイスがあって、

そのイスに毎日ちょこんと座って、
居眠りするのがかみさまの日課です。

 
天使1 :『あ、かみさま。ようやく起きてくださったんですね! ちょうど決裁の書類があっ……』

かみさま:『あ、そういうのは大天使に頼んでください。面倒くさいんで』

天使1 :『そ、そんな! 本当はかみさまのハンコが要るんですよ?』

かみさま:『えぇ、だから、大天使にハンコを預けているのです。問題ないでしょう?』

天使1 :『そこが問題なんですけど』

かみさま:『何か言いましたか?』

天使1 :『いいえ、何でもありません。……はぁ』

 
かみさまのやる気が出たかと思いましたが、
どうやらそれは勘違いだったみたいですね。

天使の願いに耳を傾けないあたり、さすがはかみさま。
我が道を貫かれていますね!
 


 
かみさま:『……ん? 何か悪口が聞こえたような……?』

 
げふんっ、げふん。
 
さてさて、
やる気が普段の仕事に向かなかったかみさまは、
仕方なく手もとの水晶に目線を落としました。
 
すると、どうでしょう?
 
その水晶からは
悲しげな声がどんどん漏れ出てくるではありませんか。

 
人間1(男性) :『はぁ、休みたいなぁ。けど、みんな忙しいのは一緒だし、休みたいだなんて怖くて言えないしなぁ』

人間2(女性) :『もう、何で旦那は家事を全然してくれないわけ? 子育てもわたし任せで……。本当に腹が立つ!!』

人間3(女性) :『あぁ、こんなわたしなんて、誰も好きになってくれないわよね』

人間4(男の子):『勉強して何になるの? どうして大人にならなきゃいけないの?』

人間5(女性) :『Aちゃんは自慢話ばかりで疲れるけど、話に付き合わないと仲間外れにされちゃうし……』

 
水晶から、
煤のような煙もあがり、正直見ているのが怖いくらいです。

 
かみさま:『……これで、人間たちは楽しいんでしょうか?』
 
かみさまはそうつぶやくと、しばらく考え込んでいました。
 
かみさま:『…………』
 
かみさま:『………………………………ぐぅ』

 
……て、寝ないでください!

人間たちが生きやすくなる、何か魔法のような救う方法を探すのが
あなたの役割じゃないんですか!?
 
かみさま:『………………ぐぅ、…………ぐ? はっ。いつの間にか寝てましたか。……人間たちの気持ちが理解できないせいか、まったくいい案が浮かびませんねぇ』
 
いやいや、寝ている場合かい(怒)!!

スパーン!!

はっ、……げふん、げふん。
え~と、すみません。取り乱しました。
 


 
かみさまは
本当に人間のことを思っているのでしょうか?

ちょっと疑わし……いえ、何でもありません。

……そこで、
いい案が思いつかないかみさまは、天使たちに助けを求めました。
 
かみさまの話を聞いた天使たちは互いに顔を見合わせます。

 
かみさま:『遠慮なく意見を言ってください。このままでは、人間界が煤まみれになるのも近いでしょう。そうなれば、それを掃除するのはあなたたちの役割になりますよ?』
 
天使たち:『!!!』

 
実は天使たち。
掃除がものすごく苦手なのです。

綺麗好きではあるのですが、自分たちの服でさえ、洗濯するのは洗濯雲たち。

かみさまと同じで、
昼寝をこよなく愛する、似たもの同士の天界人。

 
天使たちは苦手な掃除をしなくていいように、
さっそく知恵を絞ります。
 
そして、一人の天使がそっと手を上げました。

 
天使2:『ゆるゆる島に住む う~たんなら、人間たちの悩みを解決してくれると思います』

天使3:『あぁ、あのうさぎさんね。毎日、大好きな苺を育てて食べることに全力を注いでいる彼なら、人間たちの悩みを解決してくれそうよね』

天使4:『えっ? それ、本当に大丈夫?』

天使5:『あそこまで我が道を行く彼なら、他人に振回されて傷ついている人たちを、自分らしく生きられるようにしてくれそうじゃない?』

天使6:『ということは、う~たんが人間界に行くってこと?』

 
天使たちがざわざわする中で、
かみさまは水晶に再び目をやります。

 
そこには、
苺を収穫して満面の笑みをしているう~たんが映っています。

 
天界と人間界の間には、
空界くうかいという雲と雲の空間があって、
そこにいくつもの空島が浮かんでいるのでした。

ゆるゆる島は、その空島の1つです。

 


 
かみさま:『我が道を行く……。ふむ、そうですね。いいかもしれません』

 
かみさまはそう言うと、水晶越しにう~たんに話しかけます。

 
かみさま:『う~たん、う~たん、聞こえますか?』
う~たん:『ん? 何か空から声が……』

 
う~たんは辺りをきょろきょろしますが、
誰もいません。

 
う~たん:『うん、気のせいだね。りりぃはポムじぃのお使いに出ているし、ハリィはお芋を焼くのに一生懸命。おかめさんとピヨのすけは糸を買いに移動雲で別の島に出ているし。……パンさんは…………、いつも寝てるしさ』

 
彼は1人納得して、
苺の収穫に戻ります。

 
かみさま:『はいはい、気のせいじゃないですよ? 現実を受け入れて、わたしの話を聞きなさい』

う~たん:『う~ん、声は聞こえるんだけど。君、どこにいるの?』

かみさま:『空界の上の天界にいる、かみさまですよ』

う~たん:『ふぅん、そうなんだ。こんにちは。そして、さようなら』

かみさま:『えっ、ちょっと待ちなさい!』

う~たん:『もう、何? 僕は苺の収穫で忙しいんだ。悪いけれど、話なら後にしてくれない?』

かみさま:『…………超がつくほどのマイペース。なるほど、我が道を行くとはよく言ったものです』

 
そして、かみさまはにやりと笑いました。

 
かみさま:『いえいえ、苺好きのう~たんに良い話を持ってきたのですよ。あなた、人間界にちょっと行ってきて、その我が道を行く生き方を人間たちに教えてきてくれませんか? 報酬は苺を好きなだけ。どうです? 悪い話ではないでしょう?』
 
う~たん:『………………』

 


 
考え込んでいるう~たんを余所に、
天使たちはこそこそ耳打ちし合います。

 
天使7:『ねぇねぇ、何か詐欺みたいな誘い方じゃない?』

天使8:『人間界ってけっこう遠いのに、ちょっとお使い頼む感じで大丈夫なのかなぁ?』

 

そんな天使たちにかみさまはにっこり笑いかけます。……そう、あくどそうな笑みで。

 
天使たち:『………………(もう、何も言うまい)』


 
う~たん:『苺を好きなだけ、っていうのはいいなって思うけど』

かみさま:『そうでしょう、そうでしょう』

う~たん:『でも、僕は人間界には行かないよ』

かみさま:『どうしてですか!? そんな、ちまちま1個ずつ苺を摘むより、一気に苺が手に入ったら、楽でしょう?』


 
かみさまは
水晶を思わずがしっと掴みました。
 
楽をモットーとする、お昼寝大好きなかみさまには、
う~たんがこのうまい話を断る理由が分かりません。

 
う~たん:『僕、こうして1個、1個丁寧に苺を摘むのって好きなんだよねぇ。人間界は行ったことないから、行く気にならないし。それに……』

かみさま:『……それに?』

う~たん:『あんまり苺がいっぱいあると、りりぃが怒るから』

かみさま:『……は?』

 
我が道を行っているはずのう~たんですが、
自分以外のりりぃが気になるのでしょうか……?

 
う~たん:『食べきれない分は腐れちゃうでしょう? ジャムにするにしても限界があるよ』

 
う~たんは遠い目をしながら、
前によくばってたくさん採った苺を腐らせて、
りりぃに怒られたときのことを思い出していました。

 
う~たん:『それにさ。僕のところにたくさんあるってことは、誰かのところへ行くものが少なくなることもありえるでしょう? 僕は自分がほしい分だけあれば、それで充分。あとはみんなで分ければいい。だから、たくさんは要らないの。自分のちょうどいい量が一番僕に優しいから』

 
そう言い切ったう~たんは、再び苺摘みに戻ります。

 
かみさま:『………………』
 


 
かみさまはそこで黙り込みました。

 
天使9 :『ねぇ、かみさま怒るんじゃない?』

天使10:『基本的にかみさま自体が我が道行ってるからさ。自分の思い通りに行かないことは絶対許さないよね?』

 
かみさま:(彼は頑固なところもありますが、我が道を行くだけでなく、他の大切なモノも知っていそうですね。)

 
かみさまは水晶をぽんと叩くと、
そこから小さな水晶が現われます。

それをう~たんの元へと送りました。

 
かみさま:『では、こうしましょう。あなたが人間界に行くのではなく、ゆるゆる島にいながら、夢を通じて、人間たちに自分らしく生きる方法を教えてあげる、というのは?』

う~たん:『ここにいながら?』

かみさま:『えぇ。人間たちは日々自分らしく生きられずに苦しんでいます。その苦しみをあなたが癒やすことができたなら、この水晶をあげましょう』

う~たん:『これ、何?』
 
う~たんは突然現われた小さい水晶に驚きます。

かみさまの声も、
その水晶から、より鮮明に聞こえるようになりました。

 
かみさま:『この水晶はどこにいても、自分の知りたい場所を映し出すことのできる便利アイテムです。……わたしの水晶の小さい版ってところでしょうか』

う~たん:『要らない』

かみさま:『何でですか?!』

う~たん:『覗きの趣味は僕にはないから』

かみさま:『なっ! わたしのやっていることはあくまでも仕事です、し・ご・と! この世に生きる者たち全ての様子を知り、必要な助けを施すのがわたしの使命なのです! けっして、いかがわしい趣味などでは……』

う~たん:『ふぅん、そうなんだ。お疲れ様』

かみさま:『~~~~~~~!!!』
 


 
その後、
かみさまとう~たんは幾度となく言い合い
、……いえ、話し合いを重ね、

かみさまからの報酬が不思議の実になる、
ということで決着がつきました。

不思議の実とは、
ゆるゆる島の中心にある不思議の木から落ちる貴重な実で、
他の島との交易に必要なモノなのです。

 
はぁ、……長かった。
2人の言い合いに付き合いきれませんでした、わたし。

 
え~、こうして、

ともかく、う~たんは夢を通して人間たちに自分らしく生きる方法を教えることになったのです。

1話へつづく。 

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