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東京見聞録2023秋

観たいものがいくつかあり、東京に弾丸で向かった。主に、国際芸術祭あいち2022の参加作家であり昨年大変お世話になった遠藤薫氏が参加する2つの展示を観るためである。午前中の仕事をこなし、昼1時すぎに家を出た。新幹線で東京に向かった。三島のあたりで新幹線の座席のコンセントの位置を把握し、慌てて携帯の充電をした。品川駅で降り、六本木に向かった。

六本木を降りると、『21_21 DESIGN SIGHT』に向かった。『Material,or』展を観に行くためである。この展覧会は、マテリアル(英語で「素材」という意味だが、本展においては特定の意味を持たないものとして「マテリアル」が、そして意味付けをされたものが「素材」と呼ばれている)がテーマになっており、遠藤氏も参加している。普段使っている物に意外なマテリアルが使われていたり、自然のものから新たなマテリアルができたり、古くなったものを別のマテリアルで補ったり、マテリアルとの向き合い方に着目した作品が多かった。エビやカニの殻からプラスチックを作った人がいたことや、ガムにプラスチックが使われていることなど、初めて知ることもあり、身近な物の中にも知らないことがあるのだと感じた。自分とマテリアルの距離感についても考えるきっかけになる展示だった。

遠藤薫『Handkerchief/1945/Aomori』。布の穴が蚕の糸によって塞がれている

次に、森美術館に向かった。この時点でスマホの充電が限界であり、人と会う約束をしていたので、あまり十分に観ることが叶わなかった。やはり1日休みを取るべきであったかとは思いながら、急ぎ足で会場を周った。森美術館で開催されていた『ワールド・クラスルーム』展は、美術館の回顧展であると同時に、収蔵作品を「国語」「社会」「数学」などの各科目に分け、思考を深めていくという趣旨の展示だった。アイ・ウェイウェイや奈良美智などのビッグネームが出てくる様に圧倒的な資本力を感じ、国際芸術祭あいちで観た作品にも再び出会い懐かしさも感じた。十分な時間と十分な充電が美術鑑賞には肝要であると再認識した上で、限られた時間ではあったが、美術、特に現代美術を観ることの良さを感じた。

アイ・ウェイウェイ『コカ・コーラの壺』。後ろには『漢時代の壺を落とす』も見える

森美術館付近のマクドナルドでピーチティーを頼んで充電を若干増やし、渋谷へ向かった。ツイッターのフォロワーと会うためである。一緒に台湾料理店『麗郷』に向かった。人気店であり、何を食べても美味しかった。ここまで何を食べても美味しいお店は数えるほどしか知らない。さすが世界の富が集まる街は違うなと感じた。共通の知り合いの話などをした。話してみて、人はそれぞれに癖があり、例えばAとB、AとCが仲が良くても、BとCが仲良くなるとは限らず、合う合わないはやはりあるので、人によって適切な距離感はあると感じた。

『麗郷』で頼んだビール。食事が美味しかったんだからもっとちゃんとした写真を撮っておけば良かった

フォロワーと別れたあと、浅草にあるホテルにチェックインしてから、早稲田に向かった。ちょうど今日私のツイートを見ていたフォロワーから、早稲田にある『あかね』というバーに来ることを勧められたのである。

早稲田駅に着いて『あかね』に入ると、フォロワーと思しき人物が居た。手頃な酒を飲み、他愛もない言葉を交わした。四谷にある浅羽通明氏が店主をしている古本屋を勧められたので、余裕があれば行こうと思った。

店のクロージングに立ち会い、ホテルに戻った。


『あかね』の店じまいをするフォロワー

二日目、6時半頃起きる。ホテル近くのパン屋でパンを三個購入し食べる。9時頃チェックアウトし、表参道駅に向かう。1日目とは別のフォロワーと待ち合わせをしているのである。10時過ぎに合流。聖心女子大学4号館に向かう。途中、岡本太郎記念館があったため立ち寄る。抽象画っぽい作風で知られる岡本だが、雑誌の挿絵を担当していたこともあったと知り、しかもそのタッチが典型的な岡本の作風と異なっていたため驚いた。

雑誌『新女苑』挿絵の原画。ちゃんとこういう絵も描けるあたりさすがプロである

岡本太郎記念館を後にして、聖心女子大学の正門に向かうも、警備員から大声で「通り抜けは禁止しているんですけど」と言われてしまいビビってしまう。フォロワーが警備員に改めて聞いた結果、4号館に行くためのルートを教えてくれた。確かに自分のようなよくわからない人物が近づいてきたら不審者かもしれないので訝しむのが当然なのは分かるが、もう少し言い方があるのではないかと少し感じた(道案内をしてくださったことには感謝を申し上げたい)。

聖心女子大学4号館Be*Hybe『子どもと不条理』第I期『子どもと戦争』を鑑賞。三人の作家による三様の展示であった。あいちの作品の延長線上にあると思われる遠藤氏の作品も良かったが、チェコにあったテレジン収容所に収容されていた子どもたちが描いた絵が個人的には印象に残った。子どもたちの絵を見て、戦争の悲惨さとささやかな日常、そして平和な生活への憧れを感じ、当たり前のことであるが、収容所に収容されていた子どもたちの一人ひとりが一人の人間であり、誰かの子どもなのであるということを感じた。

テレジン収容所の子どもたちの絵

道中、フォロワーと主に美術について話した。相手も美術をしっかり観ようと思ったきっかけがあいトリ2019であると知り、親近感が湧いた。見たい展示にはお金を惜しまないようにしているのだという。最近美術関係の話題を誰かと話すことがあまりなかったため、今回美術の、特にあいトリ周辺の話題について話すことができて良かった。また、東京にもこのような奇特な方がいたことを知ることができて良かった。


渋谷で昼食を取り、新宿で別れた。代官山蔦屋書店でも見たいポップアップ展示があったのだが、時間の都合上断念した。


新宿の紀伊國屋書店で東浩紀著『訂正可能性の哲学』とTaitan/玉置周径著『奇奇怪怪』を購入。ここで明かすと、代官山で見たかった展示というのはこの『奇奇怪怪』に関連するものである。(*1)

紀伊國屋書店で買った2冊の本。名古屋では手に入る店自体が少ないため、今回購入できて良かった

その後、新宿歌舞伎町に向かった。高校時代からの友人である辺境旅行ツイッタラーのゆびぶえ氏のシーシャ会に参加するためである。私の方からお声がけさせていただいたところ、会を催そうということになり、実現した。高校の同級生もいる一方、初めて会う人も多くいた。ツイッタラー同士の下世話なゴシップから北朝鮮情勢・中東情勢まで、話す内容は多岐に渡った。私自身知的好奇心の種を糧にして生きているようなところがあり、こうした話は前のめりに聞いてしまう。男ばかりでワイワイ話していると「ホモソ(ホモソーシャル)」と往々にして言われがちであるが、出身も性別も多様な人々が一同に会してこうしたお話ができることはありがたいことであるし、主催してくれたゆびぶえ氏、そして集まってくださった皆さんにはこの場をお借りして心より感謝を申し上げたい。近代ヨーロッパの「サロン」のような趣を感じた。

シーシャ会の後に食べた、ラーメン二郎歌舞伎町店のラーメン・ニンニクアブラ。シーシャ会の写真を一枚くらい撮っておくべきであった

ラーメン二郎を食べてから新宿ルノアールで充電をして、四谷に向かった。昨日フォロワーから紹介された古書店『どらねこ堂』に向かうためであった。中に入ると、好好爺、もとい店主であり政治学者としても名を馳せた浅羽通明氏が迎え入れてくれた。多ジャンルの古本があり、手に取るとそれぞれの価格を教えてくれた。比較的安価であり、計5冊買ってしまった。店主の浅羽氏はいい意味で力が抜けていて生き生きしており、韓国の元大統領である文在寅氏も書店をやっていると聞くし、自分も老後は古書店でもやってみようかという気になった。200円の本も多くあり、本によってはセットで安くしてくれるので、興味のある方は一度行ってみてはいかがだろうか。

『どらねこ堂』のドア。本を買うと浅羽氏からのちょっとした「サービス」もあるかもしれない

東京駅に戻り、お土産を買い終わり、高速バスに乗ろうとしたときに事件は起こった。高速バスの運転手の持っていた名簿に自分の名前がないのである。高速バスの確認メールをよくよく確認してみると、乗る便と席は合っていたものの、間違って先週の木曜日の便を予約してしまっていた。運転手の方が本社に掛け合ってくださり、追加料金を払ってキャンセルになった席に乗せていただけることになった。いい年をしてこんなミスをしてしまうことは本当に情けない。数時間前までシーシャを吸いながらいっちょ前に政治観を語っていた自分をぶん殴りたい、そう思った。(運転手の方にはお詫びと感謝の言葉を繰り返し述べた。)

今回久々に(といっても冬以来であるが)東京を訪れて、東京という街は文化を感じるには非常に良い街であると再認識した。東京には美術館が多いし、文化的な感度の高い人々も多く住んでいる。愛知という「大いなる田舎」で文化と人に対する渇望感を常日頃感じていたので、今回の東京訪問で心が潤うのを身をもって感じた。バスのミスで画竜点睛を欠してしまった気がするが、また機会があれば訪れたい。次はもう一日くらい居ても良いな。

愛知に戻ってきてから食べた高菜明太マヨ牛丼。チーズ牛丼もすきなのだが私はこちらの方が好き

*1 『【フェア】奇奇怪怪第弐集刊行記念ポップアップ『圧と密』Supported by JOHNNIE WALKER』


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