コロナ新ワクチン、人工心臓移植、ドイツは移民の国

新型コロナ感染拡大で世界中に暗雲が立ち込めて10カ月になります。
その中で、先週はコロナ・ワクチンの認可申請、そしてワクチンが今年末か来年初めには認可されるだろうという明るいニュースに沸きました。

これはドイツのマインツにある『バイオンテック(BioNTec)』社とアメリカのファイザー社の共同で、これは日本でも大きく報道されたと思います。

ちなみにマインツは、中世で最も重要な発明と言われる活版印刷を発明したグーテンベルクの出身地です。

バイオンテック社の創業者夫妻、Prof. Dr. ウグル・サヒン(1965年生まれ)と Dr. エズレム・テュルジュ(1967年生まれ)はトルコからの移民の子供たちです。

西ドイツには、60年代から『ガストアルバイター(外国人労働者)』として多くのトルコ人が移住してきました。家族も移り住み、現在ではドイツ社会に根付き、ドイツ語しか話せない2世、3世も数多くいます。
しかし、トルコ系移民を嫌うドイツ系の起こすテロや襲撃事件は今でも後を絶ちません。

ウグル・サヒン教授(マインツ大学)の父親は、ケルンにあるフォードの自動車工場で働くガストアルバイターとしてケルンに移り住み、ウグル少年も4歳の時にケルンに来たそうです。

当時、ガストアルバイターの子供は、大学進学コースのギムナジウムに行けないという偏見の中で、ウグル少年はケルンのギムナジウムに入りました。
ギムナジウムの終了試験=大学入学資格試験のアビトゥーアで最高点の成績をおさめ、ケルン大学医学部に入学しました。
その後、癌研究で博士号を取得、ケルン大学病院に勤めていました。
教授資格はザールラント大学で取得しています。

サヒン教授の妻で、バイオンテック社の共同創業者であるDr.エズレム・テュレジュも医師、トルコ系です。
彼女の父親はイスタンブール出身の医師で、クロッペンブルクのラストループという小さな町のカトリック系病院に勤務していました。
彼女はザールラント大学医学部に進学し、そこでサヒン教授と出会いました。

2人は2001年、Ganymed Pharmaceuticals AG という癌の免疫療法を研究開発する会社を設立しました。
2016年、日本のアステラス製薬がこの会社を買収しました。契約一時金は482億円と言われています。

バイオンテック社には現在1323人が勤務、出身国は60カ国以上にわたるそうです。

トルコ移民の子供で医者というと、Dr. ディレク・ギュルソイ(1976年生まれ)という有名な女性の医者がいます。
彼女は心臓外科医で、2012年、ヨーロッパで人工心臓移植をした最初の女性の医者です。
2019年、ドイツ医学賞を受賞しました。

彼女もトルコのガストアルバイターの子供として西ドイツのノイス(デュッセルドルフの南)に生まれました。
10歳の時に父親を心臓発作で亡くし、同じくトルコ人の母親はベルトコンベヤーでの単純労働などをして、とても苦労して彼女を育てたそうです。
彼女も、大学進学コースのギムナジウムは進めないと言われたのですが、周囲の援助と理解のおかげでギムナジウムに行き、デュッセルドルフのハインリヒ・ハイネ大学医学部に進学しました。心臓外科医になったのは、父親の死が理由だったと述べています。

彼らが高等教育を受けることができたのは、偏見にとらわれない周囲のあたたかい支援があったと発言しています。本人の努力はもちろんのことです。さらに、大学の授業料が無料(わずかな事務手数料はあります)だということもあると思います。そして優秀でやる気のある人間にはチャンスが与えられます。

ドイツは移民の国、そして開かれた国です。



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