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オペラの記録:バイロイト・バロック・フェスティバル(9月7日〜18日)、ヴィンチ作曲《インドのアレクサンダー》、バイロイト辺境伯歌劇場


バイロイトにはワーグナー祭のフェストシュピールハウスの他、街の中心部にバロック様式の美しい辺境伯歌劇場があります。当然、歴史はこちらの方が古いです。
ここはフランス革命以前に建築された現存の歌劇場として、ヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコと並んで重要な歌劇場とされています。
2012年、ユネスコ世界文化遺産に指定されました。

1990年代に大ヒットした映画《ファリネッリ》の撮影もここで行われました。

https://youtu.be/0YcQhnab7nA


工事は1745年に始まり1748年に完成しました。
建築のきっかけは、ブランデンブルク=バイロイト辺境伯フリートリヒとその妻ヴィルヘルミーネの一人娘の結婚でした。

娘はエリサベート・フリーデリケ・ゾフィー・フォン・ブランデンブルク=バイロイトと言います。カサノヴァは「ドイツ1美形のプリンセス」と讃えました。

1744年、カール・オイゲン・フォン・ヴュルテンベルク公がバイロイトを訪れます。その時に彼女に恋をしてしまいました。
プロイセン王フリートリヒ2世の思惑もあり、他の候補もいたのですが、彼女はカール・オイゲンと婚約しました。11歳でした。
結婚式は1748年、結婚記念にと建設していた歌劇場はまだ完成目前でしたが、柿落としとなりました。
当時、ドイツでは最大の歌劇場でした。

それから約100年後、リヒャルト・ワーグナーは自分の作品を上演する劇場を探していました。
そこで、この辺境伯歌劇場を訪れたのですが、小さすぎるとして、結局、同じバイロイトにフェストシュピールハウス(祝祭劇場)を作りました。

辺境伯歌劇場は客席数450(現在)ほどです。
ワーグナーの作品を上演するには確かに小さいでしょう。

しかし、バロック・オペラの上演には最適、素晴らしい音響も備えています。
現在ではバロック・フェスティヴァルが開かれており、今年は9月7日〜18日です。

9月7日、開幕初日のオペラ新制作、レオナルド・ヴィンチ作曲《インドのアレクサンダー》を観ました。
注:ルネッサンスの大天才「レオナルド・ダ・ヴィンチ」ではありません。

劇場外観。右側の、ファサードの綺麗な建物です。

劇場向かい側で、開場を待つ。

正面ロージェ。


サイドのロージェ。

プログラム。



登場歌手は6人。全て男性です。女性役も男性で演じます。

18世紀バロック時代はオペラの時代です。
当時、カストラート歌手(去勢された男性歌手)はスーパースター。
彼らの歌を聴いて失神する貴族の女性たちが後を絶ちませんでした。
また、バレエも大人気。

今の世界的人気のロック歌手が人気のダンサーと共に繰り広げる絢爛豪華なステージを想像すると良いかもしれません。

さて、現在ではカストラート歌手はおらず、カウンター・テノールやアルティスト、ソプラニスタで上演します。
約100年前、バチカンが禁止令を出し、本物のカストラートの声を聴くことはできません。
ただ、史上最後のカストラート、アレッサンドロ・モレスキの録音(1904年)が残っています。

また、当時は作曲家より台本作家の地位が上でした。
ピエトロ・メタスタージオ(1698〜1782)はイタリアで成功しその後40年間にわたりウィーンで大成功した、18世紀最大の台本作家です。

モーツァルト作曲《皇帝ティトゥスの慈悲》(世界初演1791年)もメタスタージオの台本です。
ちなみに《皇帝ティトゥスの慈悲》は1734年に初演され(作曲はアントニオ・カルダーラ)、全部で50の曲が付けられています。

メタスタージオの《インドのアレクサンダー(大王)》台本には、なんと75も曲が付けられました。ヴィンチの作曲は1740年に世界初演されています。



カーテンコール。

指揮はヴァイオリンも兼ねるマルティーナ・パストゥツカ。

演出チームの登場。演出は世界的カンターテノールのマックス・エマヌエル・チェンチッチ。チェンチッチはバイロイト・バロック・フェスティヴァルの芸術監督も努めます。

開幕プレミエの後、郊外のエルミタージュでレセプションがありました。
ここは入り口で招待客はチェックを受けます。

上の写真の天蓋部分を下から見上げたところ。

建物は庭園をぐるっと180度くらい囲みます。

こちらが庭園。

レセプションではバイエルン州経済省事務次官が

「辺境伯歌劇場はそれだけでも素晴らしい。観光のスポットともなっている。
素晴らしい職人たちが心を込めて改修作業をした。
しかし歌劇場はオペラを上演するところだ。オペラを上演しなければならない。
今日は、素晴らしい芸術家たちが心を込めて制作・公演した」

と挨拶していました。

文化省ではなく、経済省の官僚トップです。

嬉しい限りです。

FOTO:©️Kishi

以下、バイロイト・バロック・フェスティヴァルから提供されたステージ写真です。
©️ Bayreuth Baroque/ Falk von Traubenberg

黄色いドレスはエリッセーナ(ポーロの妹)。
赤いドレスはクレオフィーデ(インド女王)、緑はポーロ(インド王)


中央はアレクサンダー大王
クレオフィーデ。所作も女性そのもの。男性とは思えません。
エリッセーナ
フィナーレはめでたし、めでたし。


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