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生きた人間が本になる「ヒューマンライブラリー」

先日ヒューマンライブラリーに参加してきたので、今日はその感想を書いてみる。

ヒューマンライブラリーとは

Human Library (別名、リビングライブラリー、生きている図書館)は、生きた人間を「本」として30分の対話時間を貸し出す催しです。

東京ヒューマンライブラリー協会

2000年にデンマークのロックフェスティバルで始まったのが最初で、現在は世界100か国以上に広まっているそう。

日本でも各地で開催されているようだが、私が参加したのは駒澤大学名誉教授の坪井健先生が開催されている会。先生は現在(一社)東京ヒューマンライブラリー協会を立ち上げられ、開催方法を伝える入門講座と、ヒューマンライブラリーの会を毎月開催されている。

ヒューマンライブラリーは主にLGBTQや障がいや難病をもつ人、移民などマイノリティの方が本役となることが多く、「偏見の軽減」の効果もあるのだけど、「生きづらさ」は誰もが抱えるもの。そういう意味で多様な他者を知る「異文化理解」の場であると坪井先生は仰っていた。

いざ体験

私は先に入門講座を受けたので、今回はヒューマンライブラリーの方へ参加。申し込んでみると、その日は統合失調症の方とXジェンダーの方が本役で来られるという。本のあらすじ、つまり本役の方のライフストーリーを読むと、辛い経験をされてきたことが分かる。

入門講座では、「ヒューマンライブラリーは明るく、楽しいイベント」というアンケート結果が紹介されていたが、そんな気持ちで聞けるとはにわかに信じがたい。

「どうやって明るい気持ちになれるのか」と思いつつ、会場に足を運んだ。部屋に入ると明るい雰囲気。少し緊張した面持ちなのは私を含む初参加の方で、リピーターやスタッフの方は軽やかな印象で、今から重たい話を聞く雰囲気はない。

坪井先生のお人柄もあり、和やかな空気で会がスタート。今回は10人ほどの参加者がおり、二手に分かれて話を聞くことになった。

最初はXジェンダーの方のライフストーリーを聞く。この方はパニック障害もお持ちだ。いろいろなことを乗り越えたばかりのところ、明るく語ってくださった。聞いていて辛くなることもあったけど、最後に心に残ったのは彼のやさしさと笑顔。人としてのリスペクト。

後半は統合失調症の方。今はもうほぼ寛解されているという。坪井先生によると、統合失調症で治った人というのは珍しいとのこと。昔は「精神分裂症」と呼ばれていたこともあって、偏見が根強く、隠している方も多いそうだ。今回お話を聞けること自体貴重な機会ということ。

統合失調症の症状として、幻聴幻覚がある。話を聞いていてもどこまでが現実で、どこからが幻覚なのか、と思うところがあり、その辺を面白おかしく語ってくださったのが印象的だった。そんな方だったので、聞いている方も病気に関することを、遠慮なくあれこれ聞くことができた。

先のXジェンダーの方もそうだけど、「こんなことを聞いてはいけないのでは」という知らないことに対する恐れを感じることはほぼなかった。それは、その問いが「その人の生きづらさを理解したい」という純粋な思いから発露していることを自分自身が納得しているからではないか。

それにしても本役を引き受けることはとても勇気がいることだと改めて思う。問いを受けることで傷つくことはないのか。あるいは同じ問いを他の場で投げかけられる時とHLで受ける時の違いはあるのか。機会があれば、本役の方に聞いてみたい。

多様性を身体感覚で理解する

心に残ったやり取りがある。「障がい者雇用について、どんな配慮が必要か」という質問が出たときのこと。「特別な配慮はいらない。普通に話ができればいいんですよ」という回答だった。それはつまり、体調が悪い時に悪いと言えるとか、ストレスを感じたらそのことについて対話ができるとか、そういうことで、誰もが職場に求めることと同じことだった。障がい者にとって働きやすい職場は、誰にとっても働きやすい職場であるということだ。

こうして書いてみると当たり前のようだけど、それを身体感覚で理解することができた。多様性は大事というけれど、実際にはそれがどれだけできているのだろうか。ある種、マイノリティという強いタグがあるせいか、そのタグがはらはらと落ちていくのが見えるような、HLはそんな体験だった。

重たい話を聞きに行く。話を聞く前にもっていた不安もいつの間にか溶けていた。








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