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Text~コラムの部屋~

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コラム、エッセイ、つぶやきを詰め込んだマガジンです。
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#漫画

天才に、やっと時代が追いついた      ――榛野なな恵作品

ひどく雄弁な沈黙。 寡黙なのにあふれる情感。 ワンセンテンス、ひとコマで、激しく琴線を響かせる表現力。 もの静かなヒロインがひっそりと登場するだけで、空気が変わる、かぐわしいなにかに一気に満たされる。 これを言語化できたらもう明日、死んでもいいよね、というくらい、繊細なガラスのナイフで削り出されたような登場人物たちが、もういとおしすぎて、大ハマリしています。 新作、新刊を喉から手が出るほど、心待ちにしているのですが、そんな愛読者の願いは叶うのでしょうか。 一気読みして

淡々と、静かに進む、おそろしい物語

ペコさんファンなら誰しも、この「恋じゃねえから」のページをめくった瞬間「おや」と小さなひっかかりを感じたかもしれません。 フラットで穏やかなのに、ひんやり静かなページの奥にはなにか、灼熱のものがあるような――。 そんな不思議な冒頭です。 誰ひとり声を荒げるわけでもない。 泣き叫ぶわけでもない。 責め立てるわけでもない。 けれども、なぜ、徐々にこの激痛は高まっていくのだろう――。 ひとつひとつのセリフが、時間差で効いてくる、不思議なこの感じは、ペコさんの真骨頂。 けれどもこ

静かに、しなやかに、鬨の声があがる

行間の深み、というものがありますが、まさに「ジーンブライド」にはコマ間の深み、というようなものがあります。 中心のテーマの奥底に流れる作者さんの強い想い、というような。 しかもそれは、これから大きく爆発する予感をひしひしと感じさせます。 一読したら最後、新刊を待ち焦がれる日々がはじまります。 登場人物達が話し、動くにつれて、読み手の中にあったもやもやとした名前のない、けれども重く降り積もっていたものに輪郭が与えられ、やがてはっきりと色が付き、押し込めていた本心を激しくゆさ

ごく当たり前に多様性が花咲く世界

「ポンコツ風紀委員とスカート丈が不適切なJKの話」 というタイトルからは想像のつかない、メチャクチャなカオスワールド(褒めています)がページをめくった瞬間にはじまります。 さらに、中盤以降にさしかかると、加速するこの中毒性! 決して電車内で読んではいけない一冊です。(噴き出し必至) ヒロインの心の絶叫の通り、「へんなやつ」しか出てきません(笑) けれどもその「変」具合が実に絶妙で、不快、かつ後味の悪い人物はひとりも登場せず、周囲はその個性をごくごく当たり前のものとして受け

恋する乙女は花を吐き

「重版出来!」はすっかりクリエイターのバイブル本となっていますが、松田作品といえば、「レタスバーガープリーズ. OK, OK!」の衝撃が忘れられません。 残念ながらリアタイではなく、口コミで知ってから一気読みしたのですが、 「こんな超弩級の天才がいたんだ!」 「これからどんどんスゴイ漫画が読めるんだ」と大喜びしたものです。 「ゲロ花」「花吐き病」とSNSで定期的に話題になっているこの作品もまた、圧巻です。 純愛を語るのに、ゲロですよ、嘔吐ですよ。 なんということでしょう😲

Sugar&Spice            モノクロ画面に溢れる鮮やかな音楽

今回は、お気に入りのコミックスをご紹介します。 「ピアノの森」「のだめカンタービレ」をはじめとする、音楽がテーマの作品は大、大、大好物です。 「Sugar&Spice」も、登場するアーティスト達が織りなす音楽と、ヒロインの恋の物語です。 この作品、まず、何が凄いかといえば、「境地」という目に見えない、感覚的なものを、ずばり、描きだし、読者に見える形にした、というところなのです。 創作に没頭し、テーマを追い求め、ストイックに鍛錬している時、ふいに訪れる「境地」。 そんな「境