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拾いもの

  先日、自宅から車で15分ほど行ったところにある大学で撮影があった。9時半に大学教授の取材が始まり、11時には終了する仕事。
午後から神保町で次の仕事があったのでそのまま現地に向かってお昼を食べようか考えたけれど、車を停めてお店に入ることを考えたら煩わしくなったので自宅に一度帰ることにした。
駐車場に車を停めて自宅へ向かう下り坂の途中、ふと見るとアスファルトの上に何かが落ちていた。白く細長い何か。
あ、花だ!と気づく。
近づいてじっと見る。細い枝に、小さな白い花がきゅっと集まって丸い形を作り、ころころと幾つも縦に並んで付いている。枝の端を見ると、パチンとハサミで斜めに切られた跡があり、花や葉はさっき切り落とされたばかりのようで艶があってとても綺麗だった。
誰かがむしり取ってここに投げ捨てた訳ではなさそうだ。花はここに残していっても車に轢かれて潰れるだけだろう。私はそれを拾い上げて家に持って帰ることにした。
なんて名前の花だったかな、コデマリ、だったような気がする。可愛らしい拾い物をしたのが嬉しくて軽やかな気分で歩き、道の角を左に曲がるまえに車が来ていないか右側を見た。
すると、15メートルくらい先におじいさんがいるのが見えた。こちらを向いて立っている。傍にはおばあさん。ご夫婦で、自宅前から誰かを見送っているらしかった。2人を振り返りつつ歩く人の姿もある。見ると、おじいさんの腕には茶色い紙に包まれた花が抱えられていた。長い枝に、ころころとした白い花。
あ!コデマリだ!
その瞬間、私が今手にしているこの枝は、あのおじいさんの花束からするりと落ちた一本だったのかも!と思った。もしかして、今2人に見送られている人が自宅に咲いた花を切って、おじいさんに届けに行く途中で落ちた一本。いや、違うか、そうだったら面白いな。
花束を抱え、おじいさんがにこにこ笑って大きく手を振っている。それはおじいさんが見送る人に向けたものだったけれど、まるでコデマリを拾った私に向けて振っているようにも見えてしまい、私も笑って手を振りかえしたくなった。
私が花を持った手元は、おじいさんからはきっと見えない。

家に帰って花を飾り、次の仕事にもちょっといい気分で向かった。
その後、飾った花を見るたびに道で拾った偶然とおじいさんの事を思い出したけど、真相は分からない。花の名前はコデマリで間違いなかったし、しばらくは綺麗に咲いて楽しませてくれた。


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