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ルネ・クレールの『空想の旅』は、ナイトミュージアムのもとネタ

『ナイトミュージアム』(Night at the Museum, 2006)という映画は、博物館の展示物である歴史上の人物や動物などが、夜中になるとあたかも生命を吹き返して、博物館が異次元世界みたいな空間になる話である。

原作はミラン・トレンクというひとの書いた絵本である、というのだが、ルネ・クレールの『空想の旅』(Le Voyage imaginaire, 1925)には、まったく同じモチーフが出てくる。これがもとネタなのだろう。

ルネ・クレールというひとは、チャップリンの『モダン・タイムス』のもとネタを提供したことでも知られている。正確にいうと、クレールの『自由を我等に』という映画の設定と『モダン・タイムス』があまりにも似ているので、映画会社がチャップリンを訴えたのだ。

ところがクレール本人はあっけらかんとしている。チャップリンのことはとても尊敬しているので、もし自分の映画に影響されたというのなら、こんな名誉なことはない、といって、訴えを取り下げさせた。こういうほのぼのとした感じが、クレールの映画には満ちている。見ていてほんわかした気分になる。

『空想の旅』は、ファンタジー映画の祖、ジョージ・メリエスばりの空想的場面が、めまぐるしく展開するファンタジー。主人公は銀行員なのだが、従業員は4人しかいなくて、もともとかなりゆるゆるな職場。かれは秘書の女の子が好きなのだが、内気で告白できず、他の2人の男にいじられている。

そこへ老婆がやってきて、かれを地下世界にみちびくと、そこは妖精の国だった。老女にキスをしていくと、次々と若くてきれいな妖精になる。

いろいろあって地上に戻ると、こんどはノートルダム寺院の上。サスペンスの要素も満載で、上からのパリの風景も、たのしめる。かれはほかの3人の従業員とともにあちこち逃げまわった末、博物館に入りこむ。

人形が動き出すという設定なので、ちゃんと作りものの人形みたいな目をした人々がぞろぞろ動いていて、おもしろい。ギロチンをかけられそうになって、チャップリンとキッドの人形に、助けられたりする。

とにかくこれでもか、とつづく奇想天外なエピソードの連続と、そのイメージの視覚的な遊びの豊潤さに、目をみはる。クレールのあふれるばかりの想像力と、それを実際に映画の画面に視覚化して見せる設定作りに、感嘆することしきりなのだ。

お花畑のようなところの中でよろこんでいる主人公の姿も印象的で、これはティム・バートンの『ビッグフィッシュ』に、再現されている(パクられている)。

彼女にモゾモゾとキスをしようとして最初は逃げられながら、徐々にそれらしいキスになっていく流れも、すてきである。冒険のすえに大胆になっていき、ちょっとずつちゃんとしたキスらしくなっていくという、内気な男の心と行動の、映画的演出。こういうのがクレールは、最高にうまい。

目くるめく展開にハラハラするはずなのだが、サスペンスにハラハラというよりは、空想の遊びの視覚的イメージに幻惑されつつ、ほんわかニンマリしてしまう。

(写真はナイトミュージアム)

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