◇移ろい、混じり、揺らぐ――境界

今朝。家のそとへ出た瞬間に抱いた、ひやり身体を撫ぜるような感覚に、思わずぞくッ、と震えました。ああ、これ。こういうのを待ってたんです。
夜もやわらかな冷ややかさに満ちていて。風が鳴らす木々の音を、響き渡る虫の音を、そこに佇んでしばし聞き入っていた。

一昨日の日記(◇早まる夕闇、引かぬ暑さ)で好きな季節のことを書きました。「夏が、死んでいく時期」だと。
最期の抵抗とでも言うようなしつこい暑さが残る中、容赦なく秋の気配を突きつけてくる冷気を感じるのが、なんともたまらないのです。

今度は季節ではなく、一日でもっとも好きな時間帯の話。それがいつかと聞かれたら、間違いなく夕刻だと答えます。空が変化していく様子は、見ていて飽きません。

昼の青々とした色に夕の赤々とした雲がなびくときの、対照的な色合いだとか。
この世を包み込み満たすような光の、黄金色の神々しさだとか。
世界が燃えていると錯覚するような、禍々しいほどに鮮やかな赤色の空だとか。
世界が焼け落ちて終わりを迎えたような、薄闇の静けさだとか。
希望のように鮮やかさを増す、深い青色がまとう夜の気配だとか。

すこし目を離せばもう、違う景色が広がっている。異なる世界に立っている。その美しさに魅了される一方で、なにかとても恐ろしいものを目の当たりにしているような感覚に陥ることがある。

好きな季節と、好きな時間帯。共通しているのは、何かが何かへ移ろってゆくこと。何かと何かが混じること。何かや何かへ揺らいでいること。
境界、と言っていいのかもしれない。何かと何かの狭間。あいだ。境界線と書かなかったのは、それが明確に隔てられているものではないから。

思えば、小説などを読んでいても、境界というものに強く惹かれる傾向がある。狂気と正気とか。あちら側とこちら側とか。死と生とか。その狭間で葛藤したり、その間を行き来したり、それらが入り混じったり。
その様を、その中で生まれるものを、その先に辿り着く答えを、興味深く見守っている気がします。