マドバレ3

★野宮有『マッド・バレット・アンダーグラウンドIII』(電撃文庫)

第25回電撃小説大賞で《選考委員奨励賞》を受賞した『マッド・バレット・アンダーグラウンド』の第3巻です!

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〈魔女の関係者〉に会わせる代わりに、シエナの身柄を解放してもらう――ジェーンとの取引を成立させるべく、ロベルタ・ファミリー幹部ハイルの行方を追うラルフたち。同じく彼を狙うフィルミナード・ファミリー幹部ダレンの誘拐計画に乗じ、出し抜く作戦を立てます。
しかしハイルの護衛を務めるラーズを前に、リザの様子は明らかにおかしく、作戦さえ無視。次第に軋轢が生じ、ついには決別してしまう二人ですが……。
帯で存在感を放つ、「因縁と決別」の文字。背を向け、お互いを見ようともしない表紙のふたりからは、ただならぬ緊迫感を感じます。


リザが戦闘狂なのは、今に始まったことではありません。強者との戦いに悦びを見出すのが彼女。
けれどもラーズとの戦いにひどく固執し、時に身勝手な行動を取り、命さえ棄てんとするリザに、ラルフは途方もない恐怖と隔たりを感じてしまいます。人と怪物との境界線が、そこに横たわっている。
かつてラルフは、境界線の上で逡巡していました。どちらの側に進むのか、決められたのはシエナとの出会いがあったから。リザもまたシエナとの出会いで内面に変化を生じ、約束した「白い砂浜での退屈」を望んでいる……彼はそう信じていたい気持ちがあった。
そして、境界線を挟み別の世界に立っているとしても、お互いの姿は視認できるし協力し続けられる、とも。
でも今や、リザにラルフの言葉は届かない。会話は噛み合わず、凍てついた拒絶さえ感じる。シエナを救い出す未来を見るラルフと、ラーズとの過去に意識を向けるリザ。ふたりが見る方向は違っている。

ラルフとリザといえば、罵声を浴びせ合うのもしょちゅうの間柄。その様子に、他人が呆れる場面もしばしばあります。
それでも相棒として、互いの不足を補いながらやってきた彼ら。リザの高い戦闘能力とラルフの交渉術や策とで、絶望的な状況を打破し、地獄を生き抜いてきました。この二人だから出来たのだろう、そう思わせるものがあった。
そんな彼らが迎える決別。ラーズとの邂逅によって生じた歪みは徐々に大きくなり、摩擦が激しくなり、募る苛立ちにひりつく空気。口を衝く言葉はいつもの軽口やジョークには聞こえず、殺伐としている。
次第にズレてゆく二人、広がってゆく溝を眺めているのは、なんとも心苦しいものでした。今までの彼ら、そしてシエナとの情景が、いくつもいくつも頭に浮かぶ。幻を見るような儚い気持ちにさえ襲われて。

しかし彼らがどうであれ、事態は着実に進んでいきます。
ロベルタ・ファミリーへの宣戦布告を決定したフィルミナード・ファミリー。ボスを悪魔の呪縛から救うため、組織と意向を違えることも厭わないダレン。“ご褒美”のためシエナの護衛役を引き受けたグレミー。シエナを狙うハイル――いくつもの思惑と陰謀が絡み合い、イレッダはさらなる混沌へと呑み込まれてゆく。

ゆけどもゆけども絶望と地獄ばかりの今巻、それでもページを繰る手は止まりませんでした。息を呑み、あるいは凝らしながら、むしろそのペースは上がっていった。明らかになるリザの過去、ラーズとの因縁からは目を離せませんでしたし、〈銀使い〉が抱く感情、衝動に踏み込み展開されてゆく部分には、強く魅せられました。
果たしてハイルを阻止することはできるのか。「白い砂浜での退屈」が実現する日は来るのか。また次巻を楽しみに待ちたいと思います。

★2巻の感想はこちら
『マッド・バレット・アンダーグラウンドII』