マドバレ2

★野宮有『マッド・バレット・アンダーグラウンドII』(電撃文庫)

第25回電撃小説大賞で《選考委員奨励賞》を受賞した『マッド・バレット・アンダーグラウンド』の続編です。
1巻を上回るボリュームと変わらぬ濃厚さながら、ぐんぐん読み進めてしまいました。

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1巻で、狂気と正気、怪物と人間という境界線の真上で逡巡し、在り方を選んだラルフ。けれど生きづらさは相変わらずで、恋人を失くした過去に加えシエナを失う恐怖を抱えているし、フィルミナード・ファミリーの駒でいるしかない苦い現状もあります。そして選択をしたが故に、罪悪感や誘惑に屈するなと、自身を縛っている節もある。
リザにしても、葛藤を抱いてしまっています。純粋に戦闘を楽しむ気持ちを阻む要因に、苛立ちも募る。
また特異体質ゆえ囚われの身であるシエナには、いずれにしても利用される道しかありません。けれど限られた中で、彼女は自らの行動を選び取っていく。
彼らはどんな一件に巻き込まれ、どういったものと向き合い、何を思うのでしょうか。

フィルミナード・ファミリー最高幹部のダレンや銀使いのグレミー、敵対関係にあるロベルタ・ファミリー最年少幹部であるハイル、重要な鍵を握る〈施術士〉のドナート……新たなキャラクターが登場し、イレッダの情勢にしても、魔女のおとぎ話をめぐる動きにしても加速していく、2巻。
今回なんといっても目が離せないのは、立ちはだかる強靭な復讐者・ウェイドだろうと思います。

屈強な肉体に高い身体能力、とっさの判断力など、それだけでも決して易しくはない相手。さらに銀の弾丸による能力がまた厄介で、その正体を掴むことさえラルフたちには骨の折れることでした。だから相当な苦戦を強いられる。つぎつぎと策を講じるも、簡単に破られ、さらに予想外の展開を見せつけられたりする。こんな相手とどう闘っていくのか。絶望すら漂うその緊迫感といったら……。
きっと前巻のように、そんな中でも解決のわずかな糸口を掴むのだろう。圧倒的に不利な状況さえ打破するんだろう。そう思ってはいても、祈るような気持ちで展開を眺めるばかりでした。
もうひとつ、ウェイドの注目すべき点。それは、ラルフとあまりに似た悲劇を過去に持っていること。お互いに、過去に呪われた存在であること。
ウェイドの圧倒的な力を前に、ラルフは羨望さえ抱いてしまう。自身の弱さを分かっているから。復讐を成し遂げていくウェイドの力を、そんな目で見てしまう。
今回の一件が幕を閉じるとき。ラルフが、ウェイドが、辿り着いているのはどこなんだろう。過去に呪われたふたりの男は、何を見出すんだろうか。ずっとそんなことを考えながら、物語の展開を見守っていました。
敵ではあるんだけれど、ウェイドという男を嫌うことも、憎むことも、わたしには出来なかった。出来るはずがなかった。

マドバレを読んでいると、キャラクターの置かれてきた境遇や抱えている過去、辿ってきた道なんかに、深く沈みこんでいくことがあります。それは思考を巡らせるという意味でもあるし、感情的に抱えてしまうという意味でもある。けれど重苦しいだけの物語に終わらない。高揚感や快感というものも、もたらしてくれる。
ラルフたちの軽口や悪態も、わたしにとっては重要な存在。衝撃的な展開や凄惨な場面、緊迫した状況の中にあって、彼らが飛ばすジョークややりとりが、ふっと心を和らげてくれることがある。それが余裕からくるものではなく、虚勢に過ぎないものだとしても。肩の力を抜いて、彼らの成り行きを見守っていくことができます。

最後に。Ⅱでもっとも惹きつけられた場面について少しだけ、触れておこうと思います。昨日の日記で言及していた、「打ち震えるような昂ぶりと、総毛立つにも似た快感が全身を抜けていくのを感じ」たシーンのことです。
ネタバレになるので詳しくは言いません。ページ数だけお伝えしておきます。
p.186~p.189です。

今回も、非常に楽しませていただきました。まだまだマドバレは続くとのこと、ますます目が離せない展開になってきて、早くも次が待ち遠しいですね。ラルフたちのこれからの物語も、ぜひぜひ見守っていきたいと思います。

★3巻の感想はこちら
『マッド・バレット・アンダーグラウンドIII』