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5/15 mon [saxophone: もうひとつの声]

はるか昔、人々を惹きつける妖艶な音色ゆえに製造も演奏も禁止され、悪魔の笛と揶揄されてしまうほどの魅力的な金色の縦笛。私もその虜になってしまった一人です。

サクソフォン(サックス)は、現在一般的に使われている楽器の中では珍しく、発明した人がはっきりしている楽器です。発明者アドルフ・サックスはベルギーに生まれた楽器製作家で、さまざまな吹奏楽器を演奏できる人物だったと伝えられています。彼は、木管楽器の良さと金管楽器の良さを合体した楽器が作れないかと考えて、1840年代にサクソフォンを考案、のちにパリで特許を得ています。

サクソフォンは金属でできていますが、発音体が木管楽器と同様なので木管に分類されます。良く溶け合い、バンドの響きを引き締める、うるおいと艶に満ちた音色です。混声合唱のパートのように、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンなど、音の高さによって数種類ありますが、基本的な演奏方法は同じです。私の所有するアルトサックスは、落ち着いた女性の歌声を思わせる響きで、演奏中は、まるでもう一人の自分が唄っているように感じます。人間の声に極めて近い音が出せる楽器で、さまざまな感情を表現できるのです。

真鍮で作られた、美しいカーブを描く円錐管。前方に向けられたベルを覗き込むと、もうそこから音が聴こえてくるようです。金や銀のラッカーで塗装された物もありますが、ノーラッカーのアンティークな飴色が美しいヴィンテージを所有。ジャズの巨匠チャーリーパーカーも愛用したコーンというメーカーで、状態が良いものに巡り合うまで時間がかかりましたが、ある時、1926年製…つまり、もうじき100年を迎えるそれと出会えた瞬間、迷いなく手元へ迎えました。異国の地から時代を超えてやってきた楽器の繊細な彫刻、誰かのイニシャル、小さな傷。それらが語る音楽は、私の力だけではない、特別なものが宿っているような気がしてなりません。

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