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空中回廊
真っ白な空間のなかに君がいる。遠く目前に君が手をふっているのが見える。嘘みたいに美しい顔をした君が微笑んでいる。
わたしは君の悪魔的な微笑みの吸引力に心を奪われて、思わず足を出さずにいられず一歩をふみだした。
まわりの白い空間は一気に霧が晴れたように視界がクリアになった。私の一歩踏み出したはずの足元は何もない。広大な森林の中にたたずむ美しい古城のはるか上空に浮かんでいるわたし。足に地がついている感覚はある。空中を歩いている?
わたしは白くてサラッとした感触のロングドレスを着ている。足元には白いハイヒールを履いていた。手首には赤い大きな花で作られたブレスレットをしている。
前を見ると彼が歩いてくるのが見える。私が歩く先の地面は空中でしかない。よく見ると彼も空中を歩いている。どうなってるの?
彼は笑っている。悪魔のような美しい微笑みで。
私は愛しい彼の元へ早く行きたいけれど、この空中回廊に怖くて足が出ない。
しかし、やっと踏み出した透明の床は抜けることなく先へ続いていた。
私は歩いた。おずおずと。透明の空中回廊を。
だけど、真っ直ぐ向かってくるはずの彼に私は一向に近付けない。
現実離れしたこの空間や、自分が纏うことのない衣装、私に笑いかけてくるはずのない彼。
夢のような世界で悪魔のように美しい微笑みで私に笑いかけてくる。
私が彼に会いたいと願う世界はこんなにも不可思議で、現実離れした異世界のようなもの。現実にいるのに、手は届かない。近づけない。憧れのまま。
ただ届かない、もどかしさだけに苛まれる。
あなたに近づくということは、この醜い私をあなたの目前に晒すということ。そんな愚かなことができようか。
あなたがいるのに、足がすくんで動けない。
この空中回廊は遠く先にいるあなたと私の距離。あなたには真っ白でいたいと望んだ私の白いドレスとあなたへの情熱を携えたブレスレットはあなたへの尊敬。
私が超えることのできない空中回廊の先、あなたは今日も悪魔のように美しく微笑んでいる。
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