唐突に思い出したチャウチャウ先生の言葉
かけてもらった言葉のなかで、大変愛情深い言葉をいただいていたんだな、と実感するのは、その言葉をもらうより、もっと人生の後半だったりする。
私もさっき、唐突に思い出した。
今は45歳。その言葉をいただいたのは19歳ごろの若かりし頃。
もう29年も前のことか。
その先生が言ってくれた言葉のままになっている自分に笑えた。
ただの塾の先生と思っていたけど、すごい人だったのかもしれないな。
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その先生は、背が低くてちょっと太っていて、チャウチャウみたいに顔がくしゃっとしていて、目がいつも笑っているみたいな人だった。(以降チャウチャウ先生と呼ぶ)
見た目のまま、話し方や性格も穏やかでいつも笑っていたけど、塾の先生だけあって、言うことは言う感じの先生だった気がする。
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私は当時、高校で看護学校の受験に失敗し、浪人生活をしていた。バイトをして自分で塾のお金を払いながら塾に通っていた。
その塾を選んだのも、有名な塾が軒を連ねる中、看護系専門の塾だったけど、費用が抑えられていたからだった。少人数制の小さな塾で、同じクラスのメンバーも10人行かなかった。
塾に行っていたのに、勉強はあまり捗らなかった。若い頃、自制して目標に向かうには誘惑が多すぎた。うまく自分を自制できない性格だった。バイトのほかは、友達や彼氏を優先した。おい、勉強しろって。
学校の勉強は国語や英語が好きだった。理数系が苦手で、中でも科学や物理が大の苦手だった。当時、看護学校の受験で必要だったのは、国語、英語、数1、生物、科学。生物か科学を選択した。私は数1、生物、科学で苦戦した。いくら国語と英語で得点を稼いでも、2教科も点を取れないと合格点には満たなかった。
塾に行っていても優秀な生徒ではなかった。のちに看護師にはなれたので、この頃のアホさ加減もよしとする。
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チャウチャウ先生と話した記憶は、小論文の添削をしてもらっていた時の記憶。なんのお題をもらって小論文を書いていたのか忘れたが、この時言われたことを思い出した。
「悪くないけど・・・。小論文は、である調でまとめているからって、面白く書いちゃいけないんだよ。君は小論文って枠にはめちゃいけない人なのかもね。」とチャウチャウ先生。
「え?どういうこと?」と私はまた聞き返した。
全然わからなかった。コラ。
これ以上、言葉としてはもう覚えていないけど、小論文の出来が悪かったことは見て取れる。
今文章にして思い出すと、完全に呆れている気がする。褒めているようで、突き放しているような。
でも、完全にバカにもしていない、優しい雰囲気がいつもチャウチャウ先生を包んでいた。チャウチャウ先生とあまり話すことはなかったけど、そうやって受験だけではない関わりをしてくれる先生のことが私は好きだった。
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「君は偉い人にも平等だよね。」「そこがいいところだよ。」「僕にも誰でもおんなじ態度で接っせられるってこと。」
ある日はこんなことも言われた。
チャウチャウ先生が言わんとしていたのは、私の人との接し方についてだ。どうやら、おそらく裏表がない性格でいいねって言ってくれたんだと思う。
看護学校には、社会人になってから看護師を目指す人が割と多い。同年代しかいない現役合格をしていたら、多分こんなにいろんな年代の人とともに過ごすことはなかっただろう。境遇も経歴もバラバラの中にいて当時を過ごしていた。今思えばこの経験も財産なんだろうな。
だから、塾にも当たり前に年上の女性がいて、だけど、みんなで和気あいあいのクラスでカラオケに行ったりもした。そうだ、楽しかったな。
チャウチャウ先生にはみんなが気楽に話しかけることができたけど、私はうまくなかった。先生とフランクに話せる年上の女性のコミュニケーション力に憧れたし羨ましかったのも覚えている。
だから、先生が私の裏表のないところを褒めてくれたことの意味が全然わからなかった。当時はどういうこと?くらいにしか思っていなかった。
でもチャウチャウ先生は私が気づいていない、私のいいところを教えてくれていた。
当時は、自分のことがよくわかっていなかったし、親は叱るばかりで褒めてくれない家族だったから、先生が私の内面に向き合ってかけてくれた言葉が、やっぱりその時は嬉しかったんだと思う。
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その後色々あったけど、看護学校には無事入り、看護師にもなれたから、小論文もきっと小論文の体をなすことに成功できたんだと思う。
でもあの時、先生が小論文としての評価だけじゃなく、私の文章をイジってくれたことが今につながっている気がする。
詩を書いたりすることが好きだった当時の私の心を大いにくすぐったことだろう。
先生は多分単純にダメ出ししたんだろうけど、私は文章の可能性を褒めてもらったと思い込んでいた。きっとすごく嬉しかったんだ 。だからきっと今も覚えているんだろう。
唐突に思い出したチャウチャウ先生のことば。
当たっていた。そうだ、今も面白い文章を書くのが好きですよ。先生。
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