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弥太郎とお月様(童話)

「今日も月がきれいだなぁ」
「おまえはまた、月ばっかり見て」

弥太郎は、床に寝そべって、頬杖をつきながら月を見ていた。
あたりはもう暗くなっていて、夜空にぽっかり月が浮かんでいた。

「おらはこの季節がいちばん好きだ。なんたって月が一番きれいに見えらー」
「まあ、確かにそうさな。でもおめーは、この月見団子が好きなんだろー?」
「確かにまちがいねー」

弥太郎は月を見ながら、おっかあが作ってくれたお月見団子をほうばって、いつまでも月を見つめて、お腹いっぱいで幸せな気持ちで眠りについた。

翌朝起きると、弥太郎は縁側に座って空を見上げて難しい顔をして考えこんでいた。
「おっかあ、おら、あの月に行きたいんだけど、行ってもいいか?」

「あんた、何おかしなこと言いだすかと思ったら、行けるもんなら行ってみな」
「ほんとか?おっかあも連れて行ってやるからな」

おっかあは笑って背中を向けたまま、「たーのしみにしとるわー」と笑った。

それから弥太郎は、今まで夜がくるのを楽しみにしていた以上に朝から夜まで暇さえあれば月を見上げた。

そして弥太郎がひと月の月満ち欠けについてすっかり覚えたころ、また弥太郎の好きなお月見の季節がやってきた。

弥太郎は、朝から月がそのうち姿を現すはずの空に向かって祈っていた。
毎日毎日祈った。周りの人があきれるほど祈った。

するとある、とても綺麗に晴れた、満月の晩だった。

弥太郎の足がぐいーんと伸び始めたのだ!
「やや?お月様、おいらの願い、聞き届けてくれたのか!」

そう言っているうちに弥太郎の足はぐんぐん、空に向かって伸びていく。

弥太郎が伸びかけの足をヨイショと一歩持ち上げた。

ぐいーーーーんと伸びた弥太郎の足はどんどんどんどん、どんどんどんどん、どんどんどんどん、遠くの遠くのそのまた向こうの果てまで伸びた。

弥太郎は身体も少しずつ大きくなり、地球から飛び出て宇宙に出た。足はまだまだ伸びて、飛び出た頭から宇宙の様子が見えた。カシオペア座やこぐま座、オリオン座も見えた。弥太郎の片足がちょうど月まで届くと、月の砂埃が一面に舞って、弥太郎の足がはっきりと見えるようになった頃、やっと足は伸びなくなった!

弥太郎は、遠く足元にいる、おっかあに呼びかけた。
「おっかー、登ってこーい!みんな誘って登ってこーい!おいらの足の先が月まで着いたぞ!お月見団子持ってみんなで渡ってこーい!」

すると、おっかあは最初は腰を抜かしていたが、弥太郎の身体を歩くのはちっとも不安ではなかったから、せっかくだしと、お月見団子を背負い、月へ歩き始めた。

おっかあはおっとうと弟の弥助を連れて登ってきた。弥助は友達の花子を花子は妹の幸子とおっとうを花子のおっとうが恋人のまさこを呼び、まさこは友達のよしこを呼んだ。そうして、誰かが誰かの友達や知り合いを呼んで、まるで歩道橋のようになった弥太郎の足の上は人でいっぱいになった。

月に着いたひとたちは、次々にゴザを広げて、お月見団子をとりだした。

しかし、月に着いてしまったひとたちは月を見ることはできなかった。困っていると、目の前に浮かぶ青く美しい地球に気がついた。

地球は月よりもとても大きく見えた。
「えらい、おどろいたわー、地球から見た月はまっことちいせえのに、月から見た地球はこんなに大きいのかい」
「それになんと、わたしたちの住む地球の美しいこと。こんなに美しい、わたしたちの故郷、大切にしないとな」
「ほんとだなー、弥太郎ありがとうよー!気づかせてくれてありがとう。みんなは口々に弥太郎に挨拶をして地球に帰っていった」

弥太郎はみんなが帰るとみるみるうちに小さくなり、おっかあの待つ家に帰って、寝転んだ。

「なあ、おっかあ?」
「なんだい?弥太郎よ?」

「結局おいらは、ここでおっかあと見る月が一番好きだったわ」
弥太郎は、お月見団子をまたたらふく食べて今までで一番幸せな気持ちで眠ったとさ。

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