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「描きたい!」という気持ちを大切にしたい。パンパステルで古典模写!10歳の女の子が描いた女性像にであって…

『ルネサンス3代巨匠の鑑賞から古典模写』
 月に一度のアトリエ講師レポートです。当初は中高生から大人向けに考えていた題材でしたが、参加してくれたのは小学校4年生の女の子でした。レッスンの申し込み表で女の子の年齢を確認しました。その瞬間、私自身の題材へのこだわりはなるべく切り捨てようと考え直しました。当日のKちゃんの様子、また作品を鑑賞した後の発見や、対話から紡ぎだされる言葉に活動を委ねようと思ったのです。

 今日はマンツーマンでゆったり取り組むことができました。ルネサンスの3代巨匠についての知識理解は深掘りせず、主にレオナルド、ミケランジェロ、ラファエロの代表的な作品を鑑賞しました。
鑑賞方法については興味の位置付けとして、手づくりスライドと動画(2分)を見てもらいました。この導入の後、Kちゃんがじっくり考えて選びぬいた模写のモチーフは『レオナルドダヴィンチの描いた素描〈女性像〉』でした。

〝10歳の今しか描くことができない線や色、形を大切にしたい〟

という想いからデッサン(素描)についての技法には触れず、むしろ感覚的に模写を楽しめるように手立てを考えました。

〝教え込む〟から〝引き出す〟へ
 描き方を〝教え込む〟のではなく、自分なりの描き方を〝引き出す〟ために以下の4点に気をつけました。

①画材を限定しない。
〈素材、画材との対話。表したい感じに合わせて画材と道具を提示する。画材を選択できるようにする。チャコペン、色鉛筆、パンパステル、ペン、練り消し、擦筆、スポンジ、アイシャドウチップなど。〉

②モチーフのアウトラインは転写する。
〈本来のデッサンはアウトラインから描きませんが、ここは日本画の〝骨がき〟に近い感覚で始めました。発達段階と制作時間を考慮し、安心して形を捉えられる方法を提示しました。トレーシングペーパーでシルエットを書き写す方法です。
〝これはイラストレーターがデザインの過程で行う作業だよ〟とも伝えました。〉

③明暗と中間色は画材で遊びながら見つけられるようにする。
〈パステルを含ませたスポンジを画用紙にすべらせてお化粧気分です。濃いアイシャドウや薄いファンデーション。濃いと薄いの中間トーンを探ります。
1番明るい部分は練り消しで落としたり、擦筆でぼかしたりを繰り返します。パステルは、実際のレオナルドのデッサンを必然的によく見ることにつなげてくれる優れものです。〉

④つぶやきを拾う。探求する眼差しをよく見る。
〈集中して描いている時に溢れるつぶやきこそ感性が動いている証。探求する眼こそ思考が動いている証。それらの心の動きに目を留めることを忘れないように記録しました。【自然発生的な鑑賞】〉

●Kちゃんのつぶやきから気づいた不思議な現象

『絵を描いているとだんだん自分に似てくるのかな。』
『よく見ている誰かに似てくることもあるのかな。』
『描いているとだんだん変わってくる。』


レオナルドの女性像だけがもたらす現象なのかは定かではありませんが、確かに人物像の模写はどこか自分に似てくることがあります。
実際にレオナルドの『モナリザ』はレオナルド自身にも見えてくるという説があります。
Kちゃんのつぶやきが尊い気づきを与えてくれました。

●背景や色について
今回Kちゃんには背景や色について、いっさい指定はしていませんが、セピア色がお気に入りでこだわりぬいて描いている様子でした。ドローイングクラスにはカラフルな背景や好きなモチーフ〈お花や蝶々や鳥〉との融合を好む生徒さんがいますが、Kちゃんはシックな色合いがお好みのようでした。
10歳の女の子が描いた女性像。
見つめられると思わずドキッとしてしまいます!

         Atelier happiness kids art
          ドローイングクラス講師
                 米光智恵

【制作風景ギャラリー】

【題材の詳細と当初のレッスンの流れ】

古典模写
「人物の模写をしてみよう!」


ルネサンスの3大巨匠、レオナルド•ダ•ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロの歴史的背景や生き様をスキット(短い演劇)で紹介します。
彼らの作品に触れながら、自分なりの描き方を探ってみましょう。
自分なりの描き方を引き出すツールとして今回は、木炭やチャコペン、色鉛筆、練り消し、トレーシングペーパーを使います。
古典を楽しく模写してみましょう!

●日時 2021.2.13(土)
    15:00-17:00

●持ち物 •作品お持ち帰り袋
     ※八つ切りの画用紙が入る大きさ

     •汚れてもよい服装
     ※木炭を削る際に粉が出ます。

     •お手拭きタオル

【古典模写とその魅力とは】
先人の作品に触れることで私たちは描くという行為を追体験することができます。行為の中で得られる気づきや発見は私たちの「生」や「営み」について多くのメッセージを与えてくれます。

作品を目で見て、触れて、描き写す。
このステップは知識や技術の習得と同時に描いた人の心情に触れることが出来ます。
例えば、レオナルド•ダ•ヴィンチのデッサン(写真1枚目の女性像)。わずかな顔や肩の向きの違いから思考の痕跡を見てとることができます。
また頬や鼻の頭にわずかに白色でハイライトを入れています。ハイライトを入れることで肌の質感を重要視したことが分かります。影の入れ方からは左利きであることも分かります。
そして、思考の痕跡を読み解くことのできるデッサンとは、本来人に見せるためのものではなかったことも分かります。

〝先人の価値観や感性が今を生きる私たちの手によってアープデートされ、新しい価値や文化を見出していく。〟

私たちは古典模写を通してこのようは魅力をも再発見することができます。

【デッサンを模写するという挑戦!】
古来、日本には〝デッサン〟という概念はありませんでした。光の当たり方を明暗で表現することもありませんでした。
素画き(すがき)や骨描き(こつがき)と言われる墨で描いた線は存在しましたが、これらは西洋で言われるアウトライン(輪郭)とは意味合いが違いました。

古典デッサンの模写は、明暗で表現するデッサンの技術と同時にわずかに残る輪郭線から作者の思考の痕跡に触れることができる機会とも言えます。

                 米光智恵

♪ルネサンスについての豆知識♪ 
ルネサンスは、古典古代(ギリシア、ローマ)の文化を復興しようとする文化運動です
古代、人は〝人間は神様のために生きている〟という考え方を強くもっていましたが、ルネサンス期に入り、〝人間はもっと人間らしく生きてもいい!〟という考え方にシフトされます。およそ100年(1番盛り上がった盛期ルネサンスはたった30年)という短い間に絵画や彫刻、建築など様々な芸術が発展し、技術(遠近法)や画材(油絵)の発明とともに多くの名作が生み出されていきました。

実際に絵画を例にあげるとルネサンス期に描かれた聖母子《荘厳の聖母(オニサンティの聖母)》はルネサンス以前に描かれた聖母子《荘厳の聖母(サンタ・トリニタの聖母)》よりも情感が豊かで人間らしい表現であることが見てとれます。今回登場する3大巨匠(レオナルド•ダ•ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ)はこのルネサンスの発展に大きく貢献した人物です。

♪ルネサンス以前とルネサンス期の赤ちゃんのキリストを見比べてみよう!♪

《荘厳の聖母(オニサンティの聖母)》は、画家のジョット・ディ・ボンドーネによって制作された作品。制作年は1310?年から1310?年で、ウフィツィ美術館に所蔵されている。

《荘厳の聖母(サンタ・トリニタの聖母)》は、画家のチマブーエによって制作された作品。制作年は1290年から1300年で、ウフィツィ美術館に所蔵されている。

※ルネサンス3代巨匠についての鑑賞動画は
Youtube 大人の図工塾からご覧ください。

https://youtube.com/channel/UCexnAbA_vA9uDSXHXKNfkDw

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