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『教え込む』から『引き出す』へ 〜過去の自作教材からハテナ(❓)図工を考える〜

●はじめに

 学習指導要領の改定により新たな図工のミカタ(見方・観方・鑑方)が明確に示されています。
 2020年4月より子ども達の教科書は以前よりサイズが大きくなりました。
三年生の息子の図工の教科書を開くと、出来上がった作品よりも制作過程が大きく載せられています。まるでリアルタイムでお友達と制作しているような愛らしい写真の数々。
子ども達の意欲や探究心へと導いてくれるような彩り溢れる編集。
ワクワクして見入ってしまいました。

関連動画「3年生図工題材 くるくるランド」はこちらから↓
大人の図工塾youtube版
https://youtu.be/QTNDgS1uPRE

 緊急事態宣言が解除され、子ども達の学校生活も少しずつ日常を取り戻しつつあります。
今朝水筒を忘れた息子の教室を覗いてみました。
クラスの子ども達の溢れんばかりの笑顔。
水筒を届けた帰り際に手を振ってくれた他学年の子ども達。
汗びっしょりで走るエネルギー。

大人の不安をはるかに上回る希望を
循環させてくれています。

子ども達の中では、新学年になって最初の図工の感想も飛び交っています。

「はじめての図工室だったよ。」
「広くて色んな道具があってこれから楽しみ。」
「先生はおじさん先生で、
 面白いダジャレをいっていたよ。」

日々アップデートされる教育現場。
日々アップデートされる子ども達の感性。

「教え込む」から「引き出す」へ。

その子自身の感性を尊び、敬意を払う。
そんな新しい図工の幕開けの予感です。

●ハテナ()図工とは

「ハテナ(❓)図工」の名付け親は存じていませんが、私の図工の師が度々つぶやいておられるのをきっかけに、ハテナの実態に迫ってみることにしました。

現段階では私のハテナ(❓)は「価値の押し付けか否か」というところで止まっています。

価値の押し付けか否か図工…。
では価値の押し付けはどうして起きてしまうのでしょうか。

それは子ども特有の表現への理解に関係しています。
子どもの目線に立つ。
一見容易なことに思えますが、
即座に出来ることではありません。

子どもとの信頼関係を根底に築けて初めて、
その子の感性に歩み寄っていけるからです。

そうして年々多くの子ども達の色や形に触れ、
子どもの目線でものを見る感覚が磨かれていきます。ある種のトレーニングなのだと私は思っています。

かつては子どもだった大人ですが、
決して立ち入ることのできない子ども達の世界があります。私自身その世界を垣間見ては、少し離れたところから見守り、時にはお節介でない程度のお手伝い屋さんでありたいと思っています。

●ハテナ()図工を脱する糸口は子ども理解

 大人に見えている世界と子どもに見えている世界は違います。
子どもの描画発達を見ていくと、その違いが理解できます。

参考記事•動画↓

大人の図工塾2017年記事
「長男のお絵かき 1歳から2歳半 錯画期」
https://www.facebook.com/831521756997621/posts/900683806748082/

「長男のお絵かき 2歳半から4歳 象徴期」
https://www.facebook.com/zukoujuku/videos/900684486748014/

「長男のお絵かき 5歳から6歳 図式期」
https://www.facebook.com/zukoujuku/videos/900685033414626/

「絵から見える心のサイン〜娘の絵から見える問いかけと気づき〜」
https://note.com/chiemaru7/n/n05e5c5625167
**

大人が感じる「美しい」と、
子どもが感じる「美しい」が
必ずしも同じとは限りません。
※(そもそも幼い子ども達は、〝誰かに評価されるために、その絵が何に見えるか、また何かである必要があるか〟と考えて描いているわけではありません。)

指導者が〝個人の良いと思う基準〟に子ども達を乗せようとすると、育みたい資質や能力にブレが生じてしまいます。

では〝一体何を基準に子ども達の資質や能力を育てていくのか。〟というハテナに焦点を当てて書いた記事がこちらです。

参考記事「図工のミカタ〜評価のミカタ〜」
はこちらから↓
大人の図工塾note版
https://note.com/chiemaru7/n/n38caca48a123

過去は現在。現在は未来。
これまで図工塾ページでは、退職された図工美術の先生達の現在を何度か取材してきました。
そこには先生達のこんなビジョンがありました。

「自分のアトリエを創ろうとおもうんだ。」

「画家として生きていこうかな。」

「自宅の一階を改装して、
 子育て支援広場にしようかしら。」

「退職した仲間と児童デイサービスを
 立ち上げたの。」

「子ども達とアートができる居場所づくりをしたい。」

先生達は皆、学校現場を離れた後も
何らかの形でこれまで培ってこられた技術とセンスを地域の子ども達に広めていきたいと願い、
目標を持って生き生きと過ごされています。

 先日、お世話になった図工の師と食事をする機会がありました。そこで図工の自作教材の話になったのです。

「もう過去のものよ。
自宅には置いていてもしかたないから全部捨ててしまったの。捨てるくらいなら下さいと言ってくれた先生もいたんだけどね。古いものだから参考にはならないし、やめておきましょうと断ったの。
ほら、コップの水が溢れては継ぎ足すことが出来ないでしょう。次に新しいお水を入れてもらわなきゃいけないから、一度空っぽにしてしまわないと。常に前を向いていかなきゃね。
教育も10年ごとに新しくされる。
過去は過去。現在と未来をしっかりみていかなきゃね。」

私は先生の実践にいつも心を動かされてきました。

破棄された教材や資料を思い浮かべると
とても残念でならなかったのですが、
「なるほど。過去は過去。」と思い直し、
私も自分自身の図工棚を整理し始めました。

作りためてきた資料を眺めながら、
経験が浅くてまだ若い日の自分を思い出し、
顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。

しかし、1時間ほど整理していくうちに
自分の中に新たな気づきが与えられたのです。

確かにこの自作教材や資料は
本当に子ども達の資質や能力を引き出すツールであったかと言われると自信はありません。

けれども今の自分は過去の自分によって築かれている。
目の前の子ども達を思い浮かべて一生懸命に研究していた過去の自分を、この資料に重ねました。

その時私は、「これは自分自身だ。」と思ったのです。

古いものは新しく作り変える。
過去を未来という作品に作り変える。

「未来へのヒントに、やっぱり捨てずに置いておこうかな。」

そう呟いて図工棚の整理を終えました。

「問い続ける教師」

いつか書店で見かけたタイトルを思い出しています。
自分の中にふと湧いてくる違和感。

「これでもよいのだろうか。(❓)」
そうハテナマークを置き続ける教師像は
子ども達の目に焼き付いていく。
大人の葛藤する姿が子どもの素直さを引き出していく。

家庭から学校。そして地域へ。
大人が子ども達にとって「教え込む存在」から「引き出す存在」になっていけるようにと願いながら、
少しずつでも現場の声を発信し続けていこうと思います。

      大人の図工塾管理人 米光智恵

〈全て10年前に作ったものです。
ここから新しく作り変えていけるようにと
記録に残しました。〉



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