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古い脳を変える手品

「これからバンコクに行こうかな」
久しぶりにベルギーの我が家まで足を伸ばした姪が
さらさらの長い髪をいじりながらつぶやく。 

幼い日の面影を残しながらも
すっかり女性らしくなった彼女が
南欧ひとり旅を満喫した後、
ベルギーまで北上した2日目のことだ。 

「しばらくは長期休暇が取れないから」
「ずっと行ってみたかったし」と
あっけらかんとしている。

せっかくヨーロッパにいるのにとか、
環境負荷という点ではいかがなものかとか、
叔母夫婦は余計なことを言って
可愛い姪を引き留めようと試みるが 

彼女の脳裏にはタイの寺院が輝き
「訪れたい」という想いが
若い情熱を囃し立てる。 

脳神経科学を探求するために
北米の大学で生物学を修め、
来月からマンハッタンの病院で働く彼女は、 

北米と欧州と亜細亜
願いと行動
障壁と跳躍

 私たちの古びた脳内で離れていたものの間に
神経細胞ニューロンを
まるで手品のように
いとも軽やかに繋ぎ合わせ
恍惚感さえ覚えさせる。

それは
それまでの思考回路の解体と新設、 

つまりは
それまでの常識を変えることでもある。

「アムステルダムからの経由便に乗らなきゃ」と
ものの10分で荷造りを終え、
ちょっとはにかんだ微笑みを残し
彼女はバンコクへ発っていった。

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