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晴れやかな笑い上戸

「クックック」と母は込み上がる笑いを必死で抑える。
抑えるから余計に膨れ上がって
やがて押し留めきれずに溢れ出す。 

「アハハハハ」と
お腹の底から快い声で笑い上げる。 

どんなに気難しくても
怒り出す人はいないであろう
原始的な唄声だ。

そばにいる私たちも
何やら可笑しくなって笑壺に入る。 

母の大笑いにも
私たちの歓笑にも
理由なんてない。
ただただ悦しい。
涙が出るほど朗らかだ。

そうして一同
高笑いと涙にむせび
いつの間にか腹筋が痛む。 

***

戦中生まれの母という人は
家族や身近な人たちのために尽くしてきた。 

その母がたまに嗜む少々のお酒で
図らずも例の笑いの渦を巻き起こす。
「滅私」の看板を
「興私」と塗り替えたみたいに。 

幼かった姪や息子たちはそんなばあばに
「もっと笑って!」とせがんだものだった。 

なんと愉快なひとときだっただろう。

***

私はいち日のお勤めを終え、
ちょっぴりのお酒が後押しした母の
あの晴れやかな笑い上戸を懐かしみ
江戸切子のグラスで
しみじみと一献傾ける。 

お母さん、ありがとう。

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