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「ブランディング=高く売る」という誤解

こんにちは。(株)八重コンサルティングの鈴木です。私はもう10年以上、ITコンサルタントという立場から、実に様々な業種・業界のお仕事を見させてもらっています。

兼ねてより関心のあった林業・木材産業に関しても、ここ数年は仕事として関わるようになりました。今日は林業を題材に、「ブランディング」について書いてみます。

■ 一次産業の値決め

私の立場・経験上、林業・木材産業を他の業界と比べた視点でみています。仕事として関わり始めて、様々な特異性を感じました。その一つが「値決めの権利」の所在です。

メーカーや小売業は自社で値決め(=販売価格の設定)を行っています。もちろん商材によっては市場に左右されるケースもありますが、コストから最低限の設定価格を見極めて、後は売り方などを工夫して付加価値を付けて利益率を上げていくのが基本構造です。

ですが、林業を含む一次産業は総じて値決めの権利が生産者にはありません。買い手が競りで決めたり、市況や相場に基づいて決められます。

林業でいうと、現場が道路から遠かったり、急峻な斜面に生えている木だと、伐採や搬出するのにコストがかかります。ですが、市場に出荷すると同じ「杉・直径22cm・3m」と仕分けされて(色や曲がりが同程度なら)同じ値段が付けられてしまいます。

さらに言えば、市況に応じて全体的に安い値が付けられたり、高くなったり。例えば、海外の材がロング(=あまり気味)だからとか、消費税が上がって住宅需要が減ったから、という自分ではどうにもできない理由で値を下げられたりします。

このような仕組みの下では、生産者の採算管理を明瞭に行うことができません。

■ 高く売る取組み

値決めの権利を売り手側が持つことは商売の基本です。ですが、一次産業には歴史的にそれが許されない文化になっています。

それは江戸時代から続く、卸売り業者などのいわゆる「川中」や、最終消費者を含む「川下」の立場の人が、米や木材などの必需品は安定した価格で買いたいという歴史的背景からです。

現在でも林業で言えば、スギやヒノキなどの針葉樹は汎用性の高い材なので、特に差別化が難しく、安定供給が求められる樹種です。

この状況を脱却するために、農業で6次産業化やブランディングなどが行われているのは有名ですね。これは林業でも同じ流れになっていて、各地で様々な取組がおこなわれています。

■ ブランディングを学ぼう

木材関連の取組みでは、盛んに「ブランディング」という言葉を耳にします。要するに「うちの地域の材をブランディングして高く売りたい」という要望です。

私自身も何カ所でこの要望を聴いたことか、、、言いたいことは非常によく分かるのですが、ちょっと厳しいことを言うと、異業種でのマーケティングをきちんと学ばれた方がよいです。

おそらくルイ・ヴィトンやGUCCIのバッグをイメージして「ブランディング=高く売ること」と考えているのでしょう。でも実際は「ブランディング=自分の商材がお客様から選ばれること」なので、高く売ること一択ではありません。

例えばユニクロは安いのに素材の性能や縫製がしっかりしているところがブランディングです。吉野家の牛丼は「安い・早い・うまい」がブランディングの要素です。

そして商材によってどういうブランディングが適しているかは異なります。先ほど挙げた、スギやヒノキのような汎用材で高く売ることを目指す場合、よほどの差別化ができない限り難しいです。

■ 何で差別化を図るか

日本は国土の2/3が森林で、ほぼ全国で林業が展開されています。スギやヒノキを植えている地域だって広範囲です。このように汎用性の高い樹種は、木目が非常に美しいとか、物理的に強度が高いとか、そういうことで差別化を図るのは「至難の業」です。

そして樹木は出荷できるまでに数十年かかるので、市況が変わってもすぐに対応できません。もし自分の地域の樹種がスギ・ヒノキが多いのだとしたら、数十年間はそれをどう売るかをテーマに据える必要があります。

先に言ってしまいますが、認証材ではブランディングも高付加価値化もできません。その理由は、日本は海外のように違法伐採が横行している事情ではないですし、全国で認証を取る動きが出ているため横並びです。ただし、今後は「認証マークを付けてて当然」というトレンドにはなるでしょう。

そこで「異業種でのブランディングを学ぼう」という先のテーマに立ち返ってほしいのですが、ほんの一例を挙げると、安定供給できて大ロットに応えられるとか、リードタイムを短くして短納期に対応するとか、そういうことでもブランディングは可能です。

現在の需要状況からすると、林業でのブランディングは1人の山主さんでできるものではありません。自分たちの地域が他の地域とどう違うのかを見極めて、どういう市場を相手先に選び、どういう戦略をとるか。それをきちんと考えていく必要があります。

-----( 自己紹介 )-----
(株)八重コンサルティング代表 鈴木智恵
ITコンサルタントとして10年以上、大企業から一人会社まで数々の問題解決をしてきました。近年では林業業界をターゲットに地域材の流通改善やSCMの提案活動も行っています。

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