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【選挙ウォッチャー】 熊本県知事選2020・分析レポート。

もし、新型コロナウイルスが世界的な規模で流行ることがなく、日本にも上陸していなかったら、きっと今頃は、熊本県知事選を取材していたと思うのですが、現状は、ホテルに宿泊することさえリスクが高いと判断しているため、今年の熊本県知事選は取材ができませんでした。47都道府県すべての知事選を取材することを目標にしているのですが、少なくとも4年後まで達成できない事態になってしまいました。ただ、今回は選挙ボードの写真を送ってくださる読者の方がいたので、せめてレポートだけでもお届けしようということで、今回は禁断の方法でレポートを書くことにします。

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3月5日告示、3月22日投開票というスケジュールで行われたのですが、告示される頃には日本でも感染者が目立つようになっており、幸山政史さんは選挙管理委員会に「延期」を求めました。この頃にはコンサートなどのイベントを自粛するように要請が出ていたのですが、選挙管理委員会は「選挙は自粛対象ではない」ということで、予定通りに開催されることが決まりました。立候補したのは、現職の蒲島郁夫さんと、元熊本県知事の幸山政史さんだけ。実質的に保守分裂の選挙となっていました。現職の蒲島郁夫さんは新型コロナウイルス対策のために「選挙活動をしない」と宣言して公務に集中。どうにか訴えたい幸山政史さんは、個人演説会をするわけにもいかないため、上手に訴えることができず、消化不良の選挙になってしまいました。


■ これからは「選挙の延期」もあり得る

最近は「オーバーシュート(爆発的感染)」という言葉が使われるようになりましたが、もしこれから感染が拡大するようなことになると、選挙どころではなくなってくると思います。熊本県知事選の時には「自粛の対象ではない」ということで選挙が強行され、他の自治体でも同じような判断がされていますが、これからは選挙を延期しなければならない事態になるかもしれません。というのも、選挙というのは危険がいっぱいだからです。自宅で投票することはできないので、高齢者も投票所に行かなければなりません。今の日本の基準では、学校の体育館のドアを開け、十分な間隔を保ち、喋らなければ大丈夫だということになっていますが、それでも感染リスクがまったくのゼロになるわけではありません。麻疹(はしか)の流行でも、同じようなことをするのでしょうか。なんとなくですが、麻疹だと警戒するのに、新型コロナウイルスだと麻疹よりも致死率が高いのに、あまり警戒されていないような気がしてなりません。「そんなに身の危険を感じるなら、高齢者は選挙に行かなければいいじゃないか」ということになるかもしれませんが、1票は平等でなければならないので、高齢者が選挙に行きにくい環境というのはなるべく改善しなければなりません。なお、東日本大震災や福島第一原発事故の時には、やむなく選挙が延期されることになりました。みんなが避難生活をしていて、ちっとも日常生活を取り戻せていない時に選挙をされても困るということで延期されているわけですが、改めて延期を検討せざるを得ない時期が来るかもしれません。


■ 選挙の取材を自粛することについて

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もしも今回の取材を自粛していなかったら、感染者と同じ飛行機に乗っていて、隣に座ったことによって僕が感染していた可能性は十分あります。僕は千葉県柏市に住んでいることもあって、羽田空港に行くより成田空港に行った方が少しだけラクチンです。わりと直前で予約をしてもJALやANAの半額ぐらいで熊本に行けるので、潤沢に予算を取れるわけではない今の経済事情から考えても、ジェットスターは「神」です。札幌に行くのも、沖縄に行くのも、どこに行くにもジェットスターを利用しているので、今回の熊本県知事選の取材でも、間違いなくジェットスターを使っていたはずです。そして、熊本県知事選は3月22日投開票なのですが、どうせ熊本県知事選を取材するなら、合わせて近隣の選挙も取材したいということで、宮崎県の日向市長選に行きたいと考えていました。そうなると、3月15日~21日までの間に取材しなければならず、なるべく早く取材を終わらせておこうと思ったら、きっと15日の朝から熊本行きを決めていたと思うのです。朝8時25分に成田を出発し、10時30分に熊本に着く飛行機なんて、昼から取材ができると考えて、かなり乗っていた可能性が高いです。むしろ、熊本に午後に到着する飛行機で行くという発想はないと思いますので、かなりの確率でこの飛行機だったと思うのです。そうやって考えると、選挙の取材を自粛しているのは正解だったと思わずにはいられません。海外に旅行に出かけていた人が非常に高い確率で感染しているのを見ても分かるように、この時期の「旅行」は厳禁なのだと思います。旅行業界で働く方々には大変申し訳ないのだけれど、これは仕方のない現実なのだと思います。そして、「選挙ウォッチャー」という仕事は、ほとんど旅行をしているに等しい仕事だと思っています。いろんな人の話を聞いて、時には観光地を訪れることもあります。しかも、毎週のようにどこか別の場所に行くのです。通い慣れた道を歩くサラリーマンとは、リスクの比が違うのではないかと思います。ということは、これまでと同じやり方をしていたら感染してしまう可能性が非常に高くなってしまいます。出歩く人は少ない方がいいわけですから、自粛するという判断に間違いはないと考えています。


■ 蒲島郁夫候補の主張

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蒲島郁夫さんは、現職の熊本県知事です。もともとは東京大学法学部の教授であり、ハーバード大学で政治経済学の博士号を取得。2008年に東京大学を退職し、実質的に自民党からの支援を受けて熊本県知事に当選。今年で4期目の挑戦となりましたが、根っからのエリートであり、熊本地震の時には災害対応の陣頭指揮を執り、熊本市の大西一史市長とともに活躍。経歴からしても、かなりのエリートであり、特に嫌われる要素もないので、73歳ながら盤石の状態です。そもそも蒲島郁夫さんの専攻は、政治過程論や計量政治学であり、投票行動の実証的研究や、政治参加に関する政治発展理論。選挙については専門家中の専門家と言っても過言ではないので、今回、蒲島郁夫さんが取った選挙戦略は、「選挙をしない」でした。一切の選挙活動をすることなく、挨拶をするのは陣営スタッフのみで、本人は新型コロナウイルス対策に全力を尽くす。皆さんもご存知の通り、京都市長選でも現職の門川大作市長が「選挙活動をしない」という戦略を取り、見事に当選を果たしています。新型コロナウイルスが流行しているこの時期、現職は「選挙をしない」をするだけで無敵になれる気がしています。


■ 幸山政史候補の主張

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今回、新型コロナウイルスの影響を全力で受けたのが、幸山政史さんです。現職が「新型コロナウイルス対応のために選挙をしない」という戦略を取ってしまったので、県民の感情としては、これまで頑張ってくれた人だし、こんな時に選挙活動なんてできるはずがないので、これで現職が負けちゃうのは可哀想だということで、これまでの実績という観点から見ても、幸山政史さんに投票する動機がほとんどないというのが現状です。政策うんぬん以前の問題なので、これでは幸山政史さんに勝ち目はなく、「新型コロナウイルスが蔓延している中で選挙をするべきか」と問うたのは、まっとうだと思います。もしかして、もう少し日程が遅かったら選挙の延期もあり得たのかもしれませんが、告示日前の3月上旬の時点では、どこで感染したのかが追える人ばかりだったので、それほど深刻には考えられておらず、予定通りの実施になってしまいました。ところが、選挙期間中も感染者がどんどん広がってしまったので、幸山政史さんにとってはどんどん不利になってしまいました。幸山政史さんは、もともと銀行マンだったのですが、1995年から熊本県議を2年務め、2002年から2014年まで熊本市長を3期務めました。どうやら熊本県知事になりたかったらしく、2014年の熊本市長選には不出馬を表明。2016年熊本県知事選に挑んだのですが、現職の蒲島郁夫さんに大差で敗北。今回、改めてリベンジをする形となったのですが、不幸にも新型コロナウイルスの煽りを受け、まったく消化不良のまま落選。これからどうやって生きていくのかが気になるところです。


■ 前回(2016年)の選挙結果

4年前の熊本県知事選には3人が立候補してきました。現職の蒲島郁夫さんに、今年も立候補している幸山政史さん、そして、弁護士の寺内大輔さんです。寺内大輔さんは「あかるい熊本をつくる県民の会」から立候補しているのですが、実質的には日本共産党です。4年前の選挙公報を見ると面白いのですが、この頃から「市民・野党の共同」とか「安倍自公の悪政にノーの審判を」などと書いています。安保法制廃止、消費税の増税中止、原発ゼロと自然エネルギーの推進、TPP撤退、水俣病被害者の救済を国に強く求めることを公約に、いつも日本共産党が訴えている「子供の医療費は中学校まで無料に」みたいなことも掲げています。消費税が10%になって経済がズタボロに破壊されてしまった今、改めて日本共産党の公約を見てみると、やはりこの公約は正しかったのだろうと思います。しかし、この国では日本共産党というだけで票が取れないので、結果はこのようになりました。

[当]蒲島 郁夫 69 現 50万4931票
[落]幸山 政史 50 新 20万1951票
[落]寺内 大介 50 新  3万3955票

投票率は51.01%でした。前回があまりにも盛り上がりに欠けてしまったため、今回は大幅に投票率が上がっているのですが、蒲島郁夫さんの圧勝です。幸山政史さんはダブルスコア以上の大差をつけられて落選。この状況でよく今年のリベンジを誓ったものです。そして、驚くべきは日本共産党の候補があまりにも票を取らなすぎることです。約74万人も投票した人がいたのに、寺内大介さんにはたったの3万人しか投票していないのですから、無投票当選を阻止するためでもあるまいし、なぜ日本共産党が立候補させてきたのだろうと思うほどです。


■ 今回(2020年)の選挙結果

今年は、日本共産党からの立候補者はいなかったため、現職の蒲島郁夫さんとリベンジを誓う幸山政史さんの一騎打ちとなりました。投票率にかかわらず、2012年、2016年と、蒲島郁夫さんはいつも安定して約50万票を獲得しているため、幸山政史さんは最低でも50万票以上を獲得しなければ勝ち目はありません。今回のリベンジマッチでは、一体、どれくらいの票を獲得したのでしょうか。

[当]蒲島 郁夫 73 現 43万7133票
[落]幸山 政史 54 新 21万6569票

投票率は45.03%でした。新型コロナウイルスの影響もあるのか、選挙自体が盛り上がらなかったこともあり、投票率は5%下がりました。相手が日本共産党の新人だった2012年の投票率が38.44%だったため、それに比べれば投票率は高いのですが、蒲島郁夫さんの票が少し減り、幸山政史さんは少しだけ票を伸ばしました。下がった投票率の分だけ蒲島郁夫さんの票が減っている形になっているのですが、高齢者が投票を避けた結果、現職に入れる人がいなくなったのでしょうか。いずれにしても相変わらずのダブルスコアとなっているので、幸山政史さんは3度目の正直で2024年に挑戦するしかなくなりました。その頃には蒲島郁夫さんも77歳と高齢になっているので、不出馬ならチャンスがあるかもしれません。


【コラム】新型コロナウイルスの影響

もしも取材を自粛しなければ、選挙ウォッチャーという仕事は、新型コロナウイルスの影響をあまり受けにくい仕事であると言えます。つまり、新型コロナウイルスに感染するリスクをまったく考えず、マスクと消毒液を持って全国各地を取材すれば、今までと変わらない仕事ができる業種であるということです。基本的にはオンラインなので、居酒屋やバーとは異なり、お客さんに来てもらえなくなる心配はなく、通常通りの売り上げが期待できただろうと考えます。しかし、僕は「自粛」を選択しました。その理由は、自分自身が新型コロナウイルスに罹りたくないということに加え、感染拡大に一役買ってしまうようなことがあってはならないので、通常通りの取材をしない方が世の中のためであると考えるからです。売上は多少減ってしまうところなのですが、まもなく「新型コロナウイルス・危険厨の防護マニュアル」という本を出す予定で、まずはnoteで先行リリースし、やがてリアルな本として出版します。福島第一原発事故の際に、放射能による影響を最低限にとどめようと考えた「危険厨」は、今回の新型コロナウイルスでも、さまざまな防護をしていました。べつに怪しい水が効くと言うわけではないし、何かを食べれば防げるというわけでもありません。手洗いや消毒は絶対に欠かしてはいけないのですが、銀行のATMを操作する時にタッチペンを使うとか、なるべく現金を使わないように電子マネーで決済するとか、手洗いや消毒以外に気を付けられることはたくさんあります。商品を買う時には、一番前に出ている商品は感染者が成分の表示などを見て棚に戻しているかもしれないので、わざわざ奥から取るなどの防護は、少しでもリスクを避けたいという人たちのささやかな抵抗です。洗剤を買うにしても、洗剤の容器はプラスチックでできているのですから、これまでの研究によると、新型コロナウイルスはプラスチックの表面では数日生きるとされています。だとすると、前日に触ったものでもウイルスが残っている可能性があり、洗剤の容器さえもアルコールや次亜塩素酸水で消毒すればいいのかもしれませんが、なかなかそんなところまで消毒できる人はいません。せめてものリスクを軽減するために、商品を棚の奥から取るという涙ぐましい努力。こうした「危険厨はこのように防護しているよ」という話は共有されていいと思うのですが、福島第一原発事故の後、あれだけ放射能が降り注いだにもかかわらず、この国では放射能を気を付ける「危険厨」が迫害されてしまったため、危険厨はそのノウハウを人に教えることはなくなりました。このようなノウハウはもっといろんな人と共有されていいはずなのですが、ほとんど共有されることはありません。ネットで公開しても「デマだ」とか「そこまでやる必要はない」と言われるだけだからです。しかし、安全厨も新型コロナウイルスに罹ってしまうと無力です。橋下徹さんは、まだ新型コロナウイルスに罹ったと診断されたわけではありませんが、「軽症の奴は病院に行くな」と言っておきながら、自分は36.8度の熱が続いただけで、わざわざ大きな病院に行く始末です。「軽症の奴が病院に行くと医療崩壊を起こす」と、いちいち新型コロナウイルスごときでビビるなと言っておきながら、いざ自分が感染したかもしれないとなった時には、軽症でも急いで病院に行くのです。これこそ他人に厳しく自分に甘い典型です。これはまだはっきりと分かっていることではありませんし、専門家の間でも意見が分かれており、僕たちにはいずれ何かしらの結論が出るのを待つことしかできないのですが、市販の風邪薬などに含まれているイブプロフェンが、新型コロナウイルスとくっつくと体の中で悪さをするのではないかという意見が出ています。僕たちは病院に行くことができないのですから、とりあえず何もしないわけにはいかないと風邪薬を飲んで対応しようとする人たちはいると思うのです。しかし、もしかしたら風邪薬を飲んだ方が重症化するリスクが高まってしまうというのであれば、その知識を僕たちにいただきたいのです。結果、自分で勝手に判断する方がリスクのある行動だということになるので、やっぱり病院で医師の話を聞いた方がいいということになり、「軽症だから病院に行かない」という行動が正しいとは言えないと思うのです。これは日本では起こらないと思うので、そんなに心配はいらないのですが、アメリカでは「新型コロナウイルスにはクロロキンという薬が効く」という噂を信じて、医師の診断を受けずに勝手にクロロキンを飲んだ患者が死亡する事例が発生しています。クロロキンは深刻な副作用があり、薬害問題に発展したため、日本ではとっくの昔に使用が禁じられている薬です。そもそも入手が困難なため、日本で勝手に飲む人はいないと思うのですが、どうしても僕たちは「これがいいのか、あれがいいのか」と素人知識で対処しようとしがちです。医師もピンキリなので、昔から「ヤブ医者」という言葉があるように、医師の言うことが絶対に正しいということもないのでしょうけど、それでも僕たちよりは多少なりとも知識があるはずなので、軽症でも医師のアドバイスは聞くべきなのではないかと思います。そして、医療崩壊を防ぐためには、医師や専門家が監修している正確で非常に細かい情報を、国や厚生労働省がもっと積極的に公開していく必要があるのではないかと思います。しかし、現状はそういう情報さえもあまり出してもらえていないのですから、僕たちは「医療」の分野に突っ込まない範囲(何かをすれば治るとか、何かを食べれば罹らないというものではない)で、なるべく物理的にウイルスに罹らない方法を考えていかなければなりません。今はそのノウハウをまとめているところで、少しでも感染しないための役に立てばと考えています。もし、このnoteや本が売れるようなことになれば、選挙の取材を自粛していても僕の生活は多少成り立ちます。頑張って書いていきたいと思います。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

今回は、たまたま熊本県を訪れることになったという読者の方から選挙ボードの写真を送っていただき、レポートに仕上げました。自分で見てきたものをお届けしているわけではないという観点から、このレポートでお金を取ることはできないと判断し、今回は無料公開を決めました。写真3枚と7000文字の原稿なので、通常は100円に相当するレポートですが、レポートの販売はしません。もし、このレポートがとっても良いと思っていただけましたら、気が向いた時にサポートをいただければ幸いです。このお金は自粛期間中の生活費に充てさせていただきます。

いつもサポートをいただき、ありがとうございます。サポートいただいたお金は、衆院選の取材の赤字分の補填に使わせていただきます。