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【選挙ウォッチャー】 NHKから国民を守る党・動向チェック(#270)。

 NHKから国民を守る党、改め、NHK受信料を支払わない方法を教える党、略して「N教党」党首・立花孝志の迷走が止まらない。
 NNNと読売新聞が実施した3月の政党支持率では、自民党の支持率が40%、立憲民主党6%、公明党3%、共産党2%、日本維新の会3%、社民党1%、れいわ新選組1%、国民民主党0%となっていたが、なんと、NHK受信料を支払わない方法を教える党の支持率は「--」だった。これは何を意味するかと言うと、「N教党を支持する」と答えた人がガチで1人もいなかったという話である。
 かつては「悪名は無名に勝る」などと言って、反社会的な迷惑行為をバンバン繰り返していたN教党。確かに有名にはなったかもしれないが、その代わりに政党支持率が「--」で表記されるほど嫌われてしまった。このままではN教党に未来はない。そこで、「選挙の天才」を自称している立花孝志は、新たな奇策に打って出ることになった。


■ 立花孝志、今度は「パチンコ党」を結成

 立花孝志と言えば、大のパチンコ好きで、かつては「パチプロ」だったと自称しており、全盛期には年収が軽々と1億円以上あったという「スーパーサクセスパチプロ伝説」も語っている。
 NHK時代は、記者でありながら経理をこなし、なおかつ海老沢会長の右腕として秘書業務をやりながら、韓国から「冬のソナタ」を買い付け、プロ野球の放映権を獲得するため、球団社長と直接交渉してきたという「スーパーサラリーマン伝説」を自称する立花孝志なので、パチプロ時代の年収が1億円以上だったと語っていても不思議ではない。
 そんな立花孝志が、新たな政党を立ち上げると発表した。その名も「パチンコ党」だ。かつては「ゴルフ党」や「ホリエモン新党」を立ち上げたことのある立花孝志だが、今度は「パチンコ党」を立ち上げ、今年6月の尼崎市議選には候補者を擁立する計画だという。ただし、6月に誰が立候補するのかはまったく決まっていないようである。
 立花孝志いわく、「パチプロはバカではできない」という。確かに、パチプロとして生きていくためには、負ける日があってもトータルの収支でプラスでなければならないので、どれくらい黒字になっているのかを検証し、情報を収集し、店の傾向などを熟知し、朝から晩まで台の前に座り続けるだけの根気が必要である。ただし、それらは政治家につながるスキルではない。
 政治家として最も必要とされる能力は、言うまでもなく「国民や市民のために働くこと」である。この世のほとんどの職業が「誰かのために働く」という性質を持っていて、例えば、タクシー運転手であれば「どこかに行きたい人を送り届ける」という仕事だし、カフェの店員であれば「コーヒーを飲みたい人にコーヒーを提供し、作業をしたり会話をしたりする場所を提供する」という仕事だ。どれも「誰かのために働く」という性質があり、客を満足させて報酬を得ている。これをもっと大きくしたものが「政治家」という仕事であり、困っている市民のため、あるいは街を発展させて多くの人を幸せにするために働くものである。ところが、「パチプロ」というのは誰かのために働くものではない。客を得るためにある程度の当たりを出さなければならないというシステムを逆手に取り、自分のために利益を得るというものだ。これは「政治家」の本質とは相反するものである。つまり、仮にパチプロが有能だとしても、政治家として最も必要とされる「基本的な能力」を持ち合わせていないので、ただ税金でメシを食うだけの存在になる。元来、まっとうに働くことが嫌だからパチプロになっているので、自分のためでもなく誰かのために汗をかくことは、性に合わないはずだ。
 では、なぜ立花孝志は次から次へと新しい政党を立ち上げるのか。それは国政政党にまでのぼりつめた「NHKから国民を守る党」という絶対的な成功体験である。NHKの受信料問題というニッチな需要を確実に取ることで年間1億6000万円を税金を蝕む国政政党になれたのだから、ゴルフやパチンコといった一定の顧客がいる業界のために働くと言えば、きっと投票してもらえるだろうと考えているのだ。しかし、今となっては立花孝志がどんな政党を作ろうと、「立花孝志が作った政党」という時点で、まったく支持されない。それは立花孝志という人間にまったく信用がなく、けっして国民のために働くような人間ではないことがバレてしまっているからだ。「パチンコ党」も計画倒れに終わることだろう。


■ 衆院選・広島3区にビジュアル系バンドを擁立

 NHK受信料を支払わない方法を教える党は、次期衆院選の広島3区に擁立する予定だった新藤加菜が離職に伴い、立候補を辞退したため、ほとんど名の知れていないビジュアル系バンド「ジャックケイパー」のベースで、落ち武者ヘアの矢島秀平を擁立すると発表した。
 「早稲田大卒のインテリ巨乳美女」から「売れないビジュアル系バンドの落ち武者ヘアの男」への変更。まさに、今の「N教党」の実情をそのまま表しているかのような変更だが、立花孝志にとっては、新藤加菜より売れないビジュアル系バンドを擁立できている方が良い。というのも、売れないビジュアル系バンドは「売名目的」で立候補しており、供託金の300万円は事務所が負担する見込みだという。N教党から立候補するとなれば、専属広報紙である「東スポ」が記事にしてくれるし、河合克行の地盤だった広島3区のような話題性のある場所で立候補するとなれば、メディアが報じないわけにもいかないので、広告費と考えたら安いものである。立花孝志は、このような「売名目的の人」をどんどん集める戦略だ。
 この戦略のメリットは、300万円の供託金を立候補者が出すこと。かねてから指摘している通り、現在、N教党の財政事情は非常に厳しいものがある。5億円以上の借金をしたものの、現在、N教党の銀行口座にあるお金は1億円を下回っているとみられ、4月の衆参補選にはそれぞれ候補者を擁立する計画らしいが、その後に行われる衆院選に用意できる供託金は用意できないのではないかとみられる。
 参院選で得られる政党交付金は1票あたり約80円とされるが、衆院選で得られる政党交付金は1票あたり約45円とされる。300万円の供託金が没収されることはほぼ確実なのだが、300万円分の元を取ろうと思ったら小選挙区で6万6666票を獲得しなければならない。
 これを広島3区に当てはめると、当選した河合克行の得票数は8万2998票、惜しくも敗れた塩村文夏(現・東京都選挙区選出の参議院議員)の得票数は6万1976票である。つまり、N教党の落ち武者が激戦の東京都で参議院議員に選出されるぐらいのポテンシャルを持つ元東京都議の美女を上回る票を獲得しなければ、政党交付金で300万円を取り返すことができないのだ。しかも、N教党の落ち武者が立候補してである。
 どう考えても、300万円の供託金を取り戻すのは「無理ゲー」で、立候補すれば立候補するほど赤字になる。しかし、立花孝志としては、全国に候補者を擁立しなければ「落ちぶれた」と思われてしまうため、落ち武者が立候補している時点で十分落ちぶれているが、衆院選という4年に1度のお祭りを逃すわけにはいかない。「立花孝志、ここにあり」を示すためにも、候補者を擁立しないという選択肢はないだろう。そうすると、やはり300万円の供託金を払って「売名」する人間を集め、N教党が公認を出せば、少なくとも地元のテレビ局や新聞は扱ってくれるので、「宣伝費」と考えれば安いものだとして、広告費と考えて公認をもらいに来る、今回の「ジャックケイパー」のようなビジュアル系バンドは大歓迎になるのだ。候補者たちは存分に宣伝ができて、N教党には政党交付金が入る。かつては医師や弁護士などの高キャリアな人材だけを立候補させると豪語していたが、さっそく売れないビジュアル系バンドの落ち武者が立候補しているのを見ればわかるように、これだけコロナ禍で人々が苦しんでいても、国民のために何かをしようという動きは皆無なのである。


■ 伊賀市議選に門田節代が立候補してくる

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 トンデモ候補の嵐となっている千葉県知事選にこそN教党からの候補者はいなかったが、3月21日告示、3月28日投開票の伊賀市議選に、2019年の参院選で伝説の政見放送を残した門田節代が立候補してくる予定になっている。しかも、初日には立花孝志が応援演説に入ると宣言している。
 現在、昨年4月の志木市議選で無投票当選を果たして以来、今日の今日まで「26連敗」となっているN教党。今年から議員定数が2つ減り、伊賀市議選の定数は22だが、2月1日に行われた説明会には30陣営が出席。現職17人、元職1人、新人10人の大激戦となる見込みだ。

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 NHK受信料を支払わない方法を教える党は、まだ地方選を諦めてしまったわけではない。この3ヶ月ほどの間に、伊賀市、尼崎市、魚沼市、三郷市などに候補者を擁立する計画だ。なお、あきる野市に立候補する予定の本間あきこについては、何の説明もなくホームページから情報が削除されているが、SNSには「堀江政経塾運営事務局の中の人です」という自己紹介になっており、もし「ホリエモン新党」から立候補することがあっても、N教党のセカンドブランドなので、N教党とほぼ同じものだと考えていいだろう。


■ 衆参補選に立候補すると赤字になる

 なぜ立花孝志が衆参補選に候補者を擁立するかと言えば、仮に当選できなかったとしても、例えば参院補選であれば、1票ごとに約80円の政党交付金が入ってくる計算になるからだ。
 しかし、衆院選の北海道2区にしろ、参院選の長野県、広島県選挙区にしろ、N教党は300万円の供託金が没収されるのは確実で、2年前の参院選の時よりも票が取れなくなり、おそらく前回の半分も取れないと予測されている。仮に最大値ということで、前回とまったく同じだけの票を取れたとして計算してみよう。北海道2区では、札幌市北区と東区の参院選比例区の票を参考にしている。

北海道2区:6944票×45円=31万2480円
長野県:3万1137票×80円=249万0960円
広島県:2万6454票×80円=211万6320円

 それぞれの供託金は300万円であることから、仮に2019年の参院選と同じくらいの票を取ったとしても、108万0240円の赤字になってしまう。実際はこの半分も票が取れない可能性が高く、200万円以上の赤字になることは確実だ。それでも900万円が丸々なくなってしまうわけではないので、少ない出費で党のアピールができるのであれば、そんなに悪くないという頭の中なのだろう。
 しかし、そもそもN教党に、これ以上の知名度は必要なのだろうか。知名度だけであれば、「頭のイカれた政党」として既に十分な知名度を得ているはずで、これ以上の炎上に意味はない。最近は、これまでさんざん燃えてきたこともあって「燃えカス」状態であり、火をつけようにも火がつかないところまで追い込まれている。自称・選挙のプロは、我々凡人には想像のつかない「勝てる戦略」とやらがあるのだろう。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

 総務省の接待問題で揺れる国会は今、猛烈に解散風が吹き荒れようとしている。5月にも解散総選挙をやる方向で話が進み始めているといい、4月25日の衆参補選の結果を見るか見ないかのうちに、とっとと解散が決まってしまうかもしれない。7月には東京都議選があるが、その前に衆院選を終わらせておきたいという思惑もあるようだ。また、新型コロナウイルスによる混乱はまだまだ続きそうで、遅くなれば遅くなるほど自民党にとって不利になるという目測もあるようだ。
 そうなると一気にピンチになるのが、我らが「NHK受信料を支払わない方法を教える党」である。このままだと、広島3区以外に300万円の供託金を払って立候補してくれる人が見つからず、自腹で11選挙区に立候補しようと思ったら、小選挙区と比例の重複で6600万円の供託金が必要になり、党の財布はバーストする。そうなった時には、再びN教信者たちから金を借りることになる。5億円の返済に見通しが立たないにもかかわらず、再び借金をするのである。N教党の未来は、けっして明るくない。

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