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【選挙ウォッチャー】 下妻市議選2019・分析レポート。

12月1日告示、12月8日投開票というスケジュールで、下妻市議選が行われました。下妻市と聞いて連想するのは、ゴスロリファッションの深田恭子さんとヤンキーの土屋アンナさんが主演の『下妻物語』ですが、実際に行ってみると、みんなが知らない日本の闇が横たわっており、政治がいかに大切なのかという話を痛感させられます。

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下妻市議会の定数は20なのですが、今回は23人が立候補しており、3人が落選する形となります。2015年が無投票当選だったため、当時の新人がどれだけの実力を持っているのかが分からず、蓋を開けるまで票が読めないところが、全国の選挙ウォッチャーたちには面白い玄人ウケする感じの選挙でした。


■ 東京のホームレスを下妻市に隠している現実

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僕は千葉県柏市に住んでいるので、常磐線で取手駅まで行って、そこから関東鉄道常総線に乗って下妻駅まで行きました。取手駅から下妻駅までは約1時間ほどの道のりなのですが、料金はまさかの片道1233円。めちゃくちゃ高い上に、本数が少なくて不便な電車に乗り、映画『下妻物語』で見たような、のどかな景色の場所に辿り着きました。今になって思えば、僕が取材した頃はまだ新型コロナウイルスの影響はなく、自由に電車に乗れました。あれからたったの数ヶ月で、世界がこれほどの事態に巻き込まれることになろうとは予想もしませんでした。

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下妻駅のまわりにはコンビニもなく、電車を利用する人も数人です。観光するべき場所も特になく、「選挙ウォッチャー」にならなかったら、一生来ることはなかったかもしれません。下妻市の名物は、梨、スイカ、メロン、キュウリ、ローズポークなど。地ビールや日本酒も製造していて、のどかな田園風景が広がり、ゆったりとした時間が流れる雰囲気が素敵な、風光明媚な田舎の街だと言えます。もしも新型コロナウイルスの呪縛から解き放たれる日が来たら、選挙と合わせ、日本全国の街の魅力も伝えていきたいと思います。

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下妻市は春を迎えると、とっても美しい景色に出会えるそうです。残念ながら、下妻市議選が行われたのは12月のため、真冬でまったく花が咲いていなかったのですが、下妻市長選は辞職などがなければ3月下旬頃に行われる予定になっているので、その時には美しい景色も合わせてお届けできたらいいなと思います。さて、そんな下妻市にやってきた僕なんですが、選挙を見に来たつもりが、思わぬ社会問題に出くわすことになりました。

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この問題をしっかり報じるのは、もしかすると僕が初めてではないかと思います。それだけ日本にジャーナリストやルポライターが少なくなっているということかもしれませんが、僕は「選挙ウォッチャー」がやっているからこそ気づいた話かもしれません。下妻市を歩いていると、ある一角に「ひなげしの郷・開設反対」という看板が至るところに出てくる場所がありました。通りすがりの旅人である僕には「ひなげしの郷」が何だか分からないので、地元の人に話を聞いてみることになったのですが、この「ひなげしの郷」というのは、東京五輪を目前に控え、東京のホームレスを収容するための施設であることが明らかになりました。下妻市には既に「あじさいの郷」という同様の施設が存在し、ここに東京からホームレスを連れてきて宿泊させているというのです。実際には「宿泊」というより「収容」と言った方が的確な言葉かもしれません。

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要するに、どういうことかと言うと、東京五輪を開催するにあたり、外国人観光客がたくさん東京を訪れることになるわけですが、その時にあちこちにホームレスがいるのでは見栄えが悪いということで、実は今、ホームレスの皆さんを「簡易宿泊所」というテイの建物の中に押し込んでいるのです。下妻市に開設されようとしていた「ひなげしの郷」は、表向きはホームレスの自立支援をするというテイで、ホームレスに支給される生活費などはすべて東京都が負担することになっているのですが、普通に考えてもらったら分かるように、下妻市のような田舎に東京からやってきたホームレスを雇えるような環境はなく、「こんな所でどうやって自立するんだ?」というのが地元の人たちの総意です。もっとも、本当に自立してもらおうなんていう気はさらさらないようで、東京五輪が終わった後に、ここに収容されているホームレスたちが、どのような処遇を迎えることになるのかは、まったくわかりません。もしかしたら、東京五輪の終わりとともに閉鎖が決まり、再び路上に放たれてしまう可能性もゼロではないのです。

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ただ、地元の人たちが「ひなげしの郷」に反対している根拠は、かなり差別的であると言わざるを得ません。多くの人は「東京のホームレスが来るのは怖いから」とか「ホームレスが来たら治安が悪くなりそうだから」という理由でした。人に危害を与えるような性格だったら、今頃、ホームレスになっていないので、実際にはただどこかで歯車が狂ってしまい、社会からドロップアウトしてしまっただけに過ぎません。なので、こうして反対している住民たちの多くは「誤解」で反対しているのです。とはいえ、このホームレス収容施設を手放しで賛成することができないのは確かです。その理由は、この施設には東京都からホームレスに対して生活費が支給されるのですが、そのお金を施設が抜いて、実際にホームレスの手元に行き渡るお金は2~3万円だと言われているからです。家賃がかからないとはいえ、わずか2~3万円ほどのお金で1ヶ月も生きるのはほぼ不可能です。まるでヤクザが西成でやっている貧困ビジネスそのもので、十分なお金を受け取れないホームレスが自立することは到底できません。既に開設されている「あじさいの郷」の近くでは、入所しているホームレスが近くの使われていない畑で勝手に野菜を育てるというトラブルが発生。少しでも生活費を抑えるためには、野菜を育ててしまうのが一番お得という、とっても頭の良い生活の知恵なんですけれども、とにかくホームレスに来てほしくない住民は「何をしている!」とホームレスを追及。「他人の畑で勝手に野菜を育てるなんてけしからん!」ってな具合です。この下妻市には人々が助け合った、古き良き日本の心は残っていません。

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とっとと東京からホームレスを連れてきて、貧困ビジネスで儲けたい業者側は、さっそく地元の住民たちと交渉を開始しており、「そんなにホームレスが怖いというなら女性のホームレスだけにする」というところで折り合いをつけようとしていました。ただ、女性のホームレスが来ると言っても、「下着が盗まれるかもしれない」とか「万引きされるかもしれない」とか、そんなことを想定していったらキリがないんですけど、住民はさまざまな理由をつけて反対。かつての日本にあった「困っているホームレスを助けてあげよう」という精神は、誰も持ち合わせていないようです。業者も業者でお金を儲けたいだけだし、住民も住民で差別的に反対するだけだという地獄絵図。ここに連れてくる動機も「東京五輪のため」なのですから、すべてが終わっていると言えます。

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しかし、そんな東京五輪も新型コロナウイルスの影響で1年間延期されることになりました。これに伴い、おそらく東京のホームレスがここにいられる期間も1年延長されるのではないかと思います。当初はわざわざ東京から差別的な視線を浴びるだけの施設に連れてこられたホームレスの方々は可哀想だと思っていたのですが、もしかしたら少しだけラッキーだったかもしれないと思うようになりました。というのも、これだけ新型コロナウイルスが流行し、さまざまな店舗が自粛している今、最も身の危険に晒されるのはホームレスの方々です。飲食店からは残飯が出ないし、人が行き交う路上で寝ていれば、新型コロナウイルスに罹ってしまう可能性があります。そんなことになるなら、施設の中で過ごした方が安全です。少なくとも1年間はこの施設を利用できるわけですから、もともとは小池百合子都知事の代名詞である「排除」のために始まったこととはいえ、結果オーライで、新型コロナウイルスの嵐が過ぎ去るまで、ここで安全に暮らしていただきたいと思います。

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今回の下妻市議選では、施設に反対の意志を示す議員の自宅前に右翼の街宣車が来て暴れていたといいますが、この施設は「貧困ビジネスの温床」なので、そういう反社会的な団体とのつながりも深いのかもしれません。とても不健全な社会の縮図だと思いますし、こういう問題こそ政治家が解消するために立ち上がるべきだと思いますが、世界中で新型コロナウイルスが流行してしまい、日本も爆発的な感染拡大が起こる寸前だという時代になってしまったので、価値観が変わってしまいました。ここに収容されるホームレスの方々はラッキーです。貧困ビジネスでも何でもいいから、とりあえずこの施設の中で時間が過ぎるのを待った方が身を守れます。本当だったら「こんな不当な貧困ビジネスの温床はなくすべきだ!」というところなのですが、下手に反対して追い出されたら、ホームレスの方々の身が危険に晒されます。貧困ビジネスでも何でもいいから、今はここにいるべきであると言わざるを得ません。新型コロナウイルスの危機が過ぎ去った後から改めてホームレスの処遇について考えたいところです。


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