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草野球(バツイチ子持ちのなつみさんの恋愛)

私は、相沢なつみ32歳。
健太郎という小4の息子とふたり暮らし。
ふたりだけの暮らしは10年近くになる。
今は、夕飯の宅配業社に勤めている。
息子の健太郎は、最近野球に興味を持ち始めた。
"健太郎、今日は早く帰ってきなさいね。おばぁちゃん、くるから。"
"了解、わかった。"
最近買ってあげたグローブを嬉しそうに持って、アパートの階段を駆け降りていった。

夕方近くに、母がやってきた。
久しぶりに餃子を作った。
いつもは手抜きに近いから、今日は、息子にも自慢できる。

"ケンちゃん、食べ過ぎじゃないの?"
"おばぁちゃんの作る餃子は、ママがつくるより、断然美味しいもん。"
"ありがとねケンちゃん。沢山作っておいたからね。"
"了解"

食器を片付けた後、健太郎は宿題があると、自分の部屋に行った。

"お母さん、健太郎は最近、野球に興味を持ち始めてね。グローブを買ってあげたのよ"
"そーなの? そーいえばなつみ、最近、洋服の好み変わってない?"
"わかった?今、付き合ってる人がいるの。"
”あ~、そういうことね"
"会社の取引先の八百屋さん。38歳のバツイチさん。"
"で、お母さんに相談。
今度、その人と健太郎を会わせようかと思っているの。"
"急に?あの子も心の準備がいるでしょ。"
"まぁ、そーなんだけど、これでも綿密に彼と計画したのよ。
あの人、草野球チームを持っててね。
その試合を見せに行こうかと。"

"あらー、もう段取りしてるのね、"
"まぁね。次の日曜日、お母さんもきてね。"
"仕方ない。ひと肌ぬぐか、、、"
"これから、てるてる坊主、つるしておこうと。"


今日は日曜日。快晴。
"健太郎、今日は野球見に行くよ。"
"え〜、どこに?  楽しみだなぁ"
"おばぁちゃん、迎えに行くよ。支度して"
"うんっ"
お気に入りのグローブを手に、健太郎は車に乗りこんできた。


"こんにちは〜"
"よく来たね。健太郎くん"
"えっ?なんでおじさん、僕の名前を知ってるの?"
”あ~う、うん"彼は、"失敗した〜"と小声で、私に視線を向けてきた。
"ママのお友達なの。佐藤さんっていうの、よろしくね"
彼はホッとした顔をして、
"こんにちは、佐藤です。健太郎くん今日は楽しんでいってね"
"はい"

私達はバッターボックスの真後ろの席に座った。

"しまっていこー"と彼はいつもより大きな声で掛け声をかけた。

"僕ね、キャッチャーを目指すことにしたの。"
"へー、ピッチャーじゃ、ないの?"
"うちのコーチはね、キャッチャーをやっていたんだって。
キャッチャーってのは、夫婦でいうなら、女房役なんだってさ。"
"へー、詳しいね"
"ヤクルトの古田さんとか、漫画のドカベンとかね。"
"知ってるの?古田さん。"
"知らないけど、コーチが言ってたよ。"
"僕、速い球はなげれそうにないけど、チームをまとめる役、できそうな気がするんだよね。"
"うん、そーだね。ケンちゃんには、向いているかも。"と母。
"お母さんさ、あの人とお友達みたいだから、僕の事、宣伝しといてよ。"
"了解、了解。宣伝しとくよ"
健太郎は、にっこりしてまた、野球観戦しはじめた。

私は、母にピースサインを送った。

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