見出し画像

美大卒の随想

母校である美術系大学の後期入試の日程が近いということもあり、受験生に向けて…というのはあくまでも建前で、本音を言えば美大卒の端くれである自分自身の脳内を整理したくて、上記の小説を書きました。出来るだけ自己を突き放そうとして、名も無い女性の視点に立っています。

以下、小説の内容と関係が有るような無いような話です。

大学でお世話になった教授の定年退職に伴う「記念講義」および記念パーティーに参加してきました。

体調面で不安があるため、早めに挨拶をし、酒もそこそこに、そそくさとパーティー会場を後にしましたが、主に「記念講義」において、短時間ながら非常に濃い時間を過ごすことができました。

休憩時間に受験した時のことや学生時代のことを懐かしんだり、今は家庭を持っている同級生(女子)と話が弾んだりもしました。(ちなみに、独身女性が相手だと周りの目もあって変な空気になりやすいので既婚者相手がちょうどいいのです)

パーティーでは教授からの貴重なアドバイスもいただきました。

表現する以上、闘うことは不可避だ。世間や、自分自身と。

講義の内容は、前田寛治という、かつて一世を風靡した夭折の画家についてだった。

繊細な感性を持つ純然たる芸術家であった前田は、旧友であり学者の福本和夫のアナーキズム(無政府共産主義)に感化される。

パリに留学していた前田は、ある二人の労働者と思しき人物をモチーフにした作品を制作する。その二人とは、アメリカ合衆国最悪の冤罪の被害者とされる「ニコラ・サッコ」と「バルトロメオ・ヴァンゼッティ」である。

二人はイタリアからの移民で、前田の旧友である福本と同じアナーキストであった。1921年、警察は明確な物的証拠がないまま二人を強盗事件の容疑者として検挙し、事件当時の検事は偽の目撃者を雇って法廷で証言させたといわれる。WW1後の不景気で労働紛争が熾烈化していたアメリカでは、当時「反社会的」とされていた思想の持ち主であったことも彼らへの偏見を強化していた。

この公正さに欠ける死刑判決に対し、アメリカ全土ならびに欧州において、抗議の起こったため、死刑は確定していたものの執行は長らく延期となっていた。しかし、世界中からの抗議はむなしくも退けられ、判決から6年余りが経過した1927年、ついに死刑は執行された。

旧友の福本の影響もあり、パリ留学中(1922〜1924)もアナーキズムについて学んでいた前田は、このような世界情勢の煽りを受け、階級闘争を意識した人物画や風景画を多数残している。

1925年、帰国した前田は一転、パリの画塾で学んだ技術を活かし、数々の女性像を描き、日本の画壇で高い評価を受ける。「前寛ばり」と呼ばれる追従者を多く輩出するも、1930年、33歳の若さで病死する。

旧友と自分。社会と自己。または西洋と日本。それらの狭間で、画家・前田寛治の軸は「常にブレていた」と、教授は言った。

しかしながら、それはその内側に「表現」という名の確固たる真芯があってこそだった、とも。

闘うことは、二律背反する片方を選択し、覚悟を決めて守ろうとすることとも言える。仮に、守れなかった片方を思うことがあるとしたら、その苦しみは如何許りだろうか。人は都合の悪いことから忘れていく。忘れることで前に進むのだろう。

私は昨年まで、社会人としての自分、いやさ「会社人」としての自分を守り抜こうと必死でしたが、精神的に限界がきました。

置き去りにしていたのは、幼少期から一貫した存在である、本来の自分でした。

絵を描いて暮らしていくことを夢見ていた少年時代。誰にも邪魔されず己の信念を貫くことができた頃。

「子どもの頃の夢を捨てきれない者は嗤われる定めでしょうか。」
学生時代の私からそう問われれば、現在の私なら「どこかに嗤う者は居るだろう、だがそれだけだ。君には何の関わりもないことだ」そう答えるでしょう。

組織において、個を貫くことは大抵「悪」です。それならばと、組織に都合のいいように動くように個を作り替えた上で、貫かせてしまえばいい、そう算段するのが、組織というものなのです。

10年余り会社勤めをして、私の軸は随分と組織サイドに傾いてしまいました。なので、今はそれと逆方向に力を与えて、軸を真っ直ぐにしようと試みています。それはつまり、自分の建前と本音との闘いでもあり、アウフヘーベン(弁証法)の要領で綜合的な解を導き、前進する意志、生きる力の表出といえます。

美大卒のおじさんってこんな感じだよって話です。いや、決してみんながみんなこうではないんですけど。

自分を貫きつつ、世間を疑いつつ、ああだこうだ言いながら、結果的にどこかに軟着陸する。その繰り返し。教授が言う所の「闘う」ことから逃れられない、良く言えば思考停止しない、悪く言えば青臭い、そんな人間かもしれません。

次の作品への励みになります。