土地遣い 12 一致、行き詰まり

 実際の現場であるシェパードと車庫がある土地、そして香峰神社に訪れた事、そして関係者や周辺の住民から話を聞き取りしてきてだんだんと輪郭が見えてきていた。
 トウコさんから聞いた「土地の乗っ取り」に関する疑惑、そして香峰神社に放置された旧彫山家の二つの位牌を目にして、この土地に関する放火、窃盗、転倒事故死、交通事故等の原因と思われるモノは、恐らく現彫山家、というよりも主にセイジさんが、この土地や旧彫山家に対して行ったことであり、それが祟り、呪いのようにしてあの土地ヘ凶事として降りかかっているということではないかと考えていた。
 土地を乗っ取る、そして旧彫山家の魂が宿った位牌を粗末に扱う。
 これらの行為が起こった凶事についての原因ではないかと、実際の現場や周辺の人への聞き取りによって明らかになってきていた。

 このころ、別の集落の住民たちから「工事の後、井戸が無くなっていた」「ゴウさんがここ2,3年くらい前からあまり家に帰って来ていない」という現彫山家に関して二つの話を聞いていた。
  かつて旧彫山家には井戸が二つ敷地内にあり、その位置は大体南東側に一つ、庭の中央部に一つあったという。
 井戸について、現在は敷地内が全てコンクリートで敷かれている。僕が訪れた時もどこにも井戸はなかった。 
 以前アップロードした【土地遣い3 現在のシェパード見取図メモ】という記事を参照してほしい。現在のシェパード等がある位置と重ねて見ると、かつて井戸があった場所はシェパードの裏手と車庫の南側付近にあたる。
 この位置は、消防団であるタイチから聞いた二度の放火の出火元と一致する。
 これはただの偶然だろうか。
 井戸は恐らく、現在はあのコンクリートの下に埋まっている。

 長年僕が御懇意にさせて頂いている作家、ライターであるとうもろこしの会会長、吉田悠軌氏からかつて「宗教的儀式を正しく行わず、井戸を埋めて酷い目にあった、という怪談は多いが何故かそこから起こる不幸な出来事、凶事には一定の法則がある」という話を聞いたことがあった。
 それらのパターンについて実話怪談を収集する中で気づいたという。
 会長から聞いていた展開の類例はいくつかあるが、その中で
  ・その家の父が浮気をして家に帰らなくなる
  ・火災や放火等、火が原因の事故
 この二つについて思い当たることがあった。
 「ゴウさんがあまり家に帰って来ていないらしい」というのは、実は住民たちに詳しく聴くとまさに浮気相手がいるためであるらしく、そのために現在離婚寸前の状態であるということだった。
 ゴウさんが知らない若い女と二人で車に乗っているところを何度も見た、という話も聞くことができていた。
 そして二件の火災が起きた事そのもの、そして出火元の位置と井戸のあった位置が同じであること。
 吉田会長から聞いた話と、件の土地で起こった凶事との符号にぞっとしていた。
 やはり、二つの井戸は何もせずにコンクリートの下に埋めたのではないかという思いを強くしていた。
 井戸を潰したことによる火災。
 まるで、自ら水源を潰したことにより、火の前になすすべなく立ちすくむしかない状態に追い詰めてしまったことを二度も後悔させ、あざ笑っているかのように感じていた。

 「ゴウさんが浮気をしていて家にあまり帰ってこなくなった」という話と「井戸がない」の話を聞き、実際に井戸を封じる時に立ち会った人がいないか聞いていたが、それに立ち会った人はなかなか見つからず、本当に井戸を正しい宗教的儀式を行わずに埋めたかどうかについて、未だ確認することはできないでいた。
 それについて話を聞いていた頃、他にもう一つ新たな話を聞いた。
 「シェパードと車庫の工事の際、地鎮祭がおかしかったらしい」
 どうおかしかったか、と聞いても「いや、よぐわがんねげんじょも、あったの見だごどねぇつうもんだったらしいど」と井戸と同じく、自分は見てはいないが噂として聞いている、という状態のようだ。
 地鎮祭がおかしかった、という話は複数人から聞いていたが詳細については誰も知らないようだった。
 しかしその中の何人かの住民たちの反応を見ると、僕が聞いた中に立ち会った者や、詳細を知っていた人もいたのだろうが明言することを避けているようにも感じていた。
 恐らく、何かとても直接的な、その時の状態を語ってしまえば相手に何かを確信せざるを得ないような、はっきりと明言することを憚られるようなそういったモノなのだろうと考えていた。

 井戸を封じる時に正しく儀式を行ったのか、また地鎮祭がおかしかった、という事について誰も詳細を語らず、人にも当たることができずに行き詰まりを感じていた時だ。
 父も井戸の件や地鎮祭がおかしかった、という話は「俺もなんだが聞いたごどあんなぁ、よくわがんねぇげんじょも」と知っているようだったが実際にそれらの事象に立ち会ったことはなく、詳細についても知らなかった。
 行き詰まりだ。
 気になるなぁ、とつぶやいたところ父がこう言った。
 「おめぇよ、そんなん気になんなら聞いてみればいいべした、この辺でやんのは井戸埋めも地鎮祭もタリサマ(神主、神社)しかねぇんだがら」
 どういうこと、と聞き返すと父は半ば呆れたような顔で言った。
 「おめぇ、あそごのタリサマの息子と友達でねぇのか」
 そうだ。
 カンちゃん。
 カンちゃんは僕の地元の友達で実家が父の言う「タリサマ」で、苗字が神田ということから、僕ら友達からカンちゃんと呼ばれている。
 以前、僕はカンちゃんから作ってもらった魔除けの果物ナイフに纏わる体験があり、それについて放送やイベント、動画等で語っている。
 すっかり、頭から忘れていた。
 「今よ、息子は親父と一緒にやってんだぞ、そん時も一緒に来てっぺがら」
 きっと、彼は目の前で事象を見ている。
 突破口だ。
 僕は興奮しながらスマートホンを手に取った。



 ※カンちゃんについてはニコニコ動画内【百話百幅~百物語全部俺2~】その二 第十五話「カンちゃんは本物」という怪談に登場する。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35980935
こちらの動画に収録されており、45:47~からの怪談である。
 興味がある方は参考にしてほしい。

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