土地遣い あとがき

 土地遣いを最後までお読み頂き本当にありがとうございました。
 最後なので少しだけ自分自身の事について書かせてください。
 僕は小さな頃、ドラマXファイルが大好きでモルダーに憧れていました。
 僕も大きくなったらモルダーのように真実を求めて世界を揺るがす怪事件を捜査するんだ、と祖母の耕運機に取り付けた荷台で、収穫した夏野菜に埋もれながら思っていました。
 何か事件よ起これ!僕が解決してやる!と悶々としている物騒な子供だったんです。

 気が付いたら僕はいつの間にか大人になってしまいました。
 結局、FBI捜査官になんかならなかったし、世界を揺るがす怪事件も僕の前には訪れませんでした。
 でも、僕の前にはたくさんの怪しげな話達が集まりました。
 今回の土地をめぐる怪談と謎が、実家の父の口からスタートしたというのは何だか因縁めいたものを感じています。
 実話怪談を聞き取り調査すると常に思う事なのですが、現実はフィクションのように綺麗に纏まったり、すっきりと円満解決などには決してならないもののようです。
 僕にはモルダーのような捜査力もなければ、九十九乱蔵のような霊能力もなく、残穢を書き上げた小野不由美さんのような作家でもないただの怪談オタクのサラリーマンです。
 問題を解決出来る力はそもそもありません。
 それでも、素人なりに出来る限りの取材をしたつもりではあります。
 香山集落の人々、タイチ、カンちゃん、実家の家族。
 沢山の人の協力を得て、形を成すことが出来ました。

 しかし、相棒となるスカリーは驚くことに何人も僕の前に現れました。
 それはいつもの怪談仲間達、隣で怯えながらも支えてくれた家内、お話を聞いてくれた吉田会長、みかげさん、打ち上げ放送で僕を褒めちぎってくれた高田公太さん、そして苦笑いしながらも付き合ってくれた僕の放送のリスナーさんです。

 最終話を終えて、幼い頃の夢はほんの少しだけ叶ったのかもしれないなと思っています。
 しかし、現実的には何一つ現状は変わっていませんし、決してフィクションのように後味の良い綺麗な終わり方ではありませんでした。
一般人である自分の力の限界を改めて感じた経験にもなりました。

 また僕が調査を始めたら「煙鳥、あなた疲れてるのよ」と呆れながらも付き合って頂ければ幸いです。
 長らくのご愛好、本当にありがとうございました。

 最後に二つの告知があります。
 YouTuber怪談師である鏡太郎さんと共に新たな企画が立ち上がります。
 文 煙鳥 朗読 鏡太郎
 「聴く土地遣い」が今後、順次鏡太郎さんのYouTubeチャンネルにて始まります。
 鏡太郎さんの巧みな朗読術により、土地遣いに新たなる息を吹き込まれます。

 また、それと同時にご懇意にさせて頂いている旅動画、ゆっくり怪談動画を作られている雨雲蛇さんと共に
 文 煙鳥 制作 雨雲蛇
 「聴く土地遣い ゆっくり怪談」がニコニコ動画にて始まります。
 雨雲蛇さんはかつて「神木と縁」についてもゆっくり怪談を作って頂き、極上の技を披露して頂き、感動いたしました。

 YouTubeとニコニコ動画、人間が語る土地遣い、自動音声が語る土地遣い。
 読む土地遣いから、二つの聴く土地遣いへ。
 今後も是非、お楽しみに。

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