土地遣い 1 父の話

 ※この話については、場所、人物について仮名や特定を避ける事を目的として多少の虚構を加えている。しかし、それらに差し障りのない部分については全てフィクションではない。

 2020年が始まり、正月気分が落ち着いた頃。
 世間から少し遅れる形で僕は家内と息子を連れて、福島県会津地方のとある山村集落にある実家へ帰省した。     
 実家周辺の今の時期といえば道路は全て圧雪路であり、道路端には歩道が見えないほど雪が積まれている。
 今年は雪が少なく、暖かい。
 見えている道路は乾燥路面であり、雪ひとつ積もっていない。
 家内と今年は珍しいな、と話しながら実家へ辿り着いた。
 家族は僕らを出迎えてくれ、用意されていたご馳走を遠慮なく頂いた後、家内と息子は一足先に眠りについた。
 僕と父はリビングに残り、コーヒーを飲みながら話していた。
 地元に残った僕の同級生の現在。
 隣町に最近出来たスーパーの評判。
 田舎で起きた小さな事件の顛末。
 取り止めもない話が続く。
 その時、父が不意に口を開いた。
 「香山のところにある彫山さんの車庫と美容室わがんべ?あそこで何があったか知ってっか?」
 父は声を潜めるようにして呟いた。
 「あそこ、まず車庫の中の車の窓さ壊して泥棒があったべ、次に転んでそこの家のバアが死んだ。その次、トラクターで突っ込んでオヤジ、足折ったべ。したっけまた美容室さ泥棒入らっち、次は美容室の裏、火付けらっち、また冬、転んで下の家のジサマ亡くなった、最後は放火で、車庫と車二台とトラクターがころっと燃やさっちゃ」
 「これ、ここ五年くれぇで全部やらっちんだがんな」
 僕も一連の出来事についていくつか記憶があり、1件目の転倒による事故死と2件目の放火について覚えている。
 母や、その集落に住む僕の同級生から聞いていた。
 「俺よ、今まで言わねがったけど、おかしいと思っててよ、おかしいべした、たった5年だぞ」

 あそこは、いわれのある土地なんだ。
 コーヒーは既に冷め切っていた。

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