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足を食べる女 2 救援

 2015年8月3日。
 前回の来店から約一週間後、Hが2度目の来店をした。
 最初に来店したときと服が変わっている。
 やはり住所不定も言っても路上生活等をしているようではなく、とても綺麗な状態であった。
 もう一つ、体験者の方がHについて気付いたことがあった。
「なんだか、前よりも顔色が悪い感じがしたんです。そして、相変わらず体臭が生臭いんですよ」
 Hは
「前にマッサージしてもらってすっきりした感じがしました」
と言う。
 Hは前回よりも少し、おしゃべりになっていた。
 体験者の方は少し踏み込んで話をしてみることにした。
「足がだるい、と仰っていたのはもしかして修行が足に影響しているんですかね? どういう修行をなさっているんですか?」
「……魔女とは少し違うんですけれど、呪術師になるための修行をしているんです」
 返す言葉が全く見当たらない。
 どうしよう。
「ああ、そうなんですか、大変ですね……。私もマッサージの資格を取るためにはすごく大変でした。何事も何かをマスターしようとするということは凄く難しいことで、大変なことですよね」
となんとか話を微妙にそらし、話を返した。
 するとHは
「その道のりは本当に厳しいんです」
と答えた。
 そしてHはこうも言っていた。
「こういう話ができる人がいないので、探していたんですよ」
 この言葉が妙にひっかかったが、特にそこには突っ込んだ話をせず、マッサージが終了してお茶を出した。
 次は、8月9日に予約した。

 このマッサージは看板やインターネット等で広告を全くしておらず、口コミだけで予約を取ってもらってから来てもらうシステムだ。
 体験者の方は気になっていたことを切り出した。
「Hさんは誰の紹介でこちらに来られたんですか?」
 Hは
「〇〇さんです」
と答えたが、全く身に覚えがなく、聞いたことのない人の名前を出した。
 誰だよ、その人……。
 この後、体験者の方が必死でこの紹介したという人を探した。
 最初に教えた人から次の人へ。その人が紹介したという人から次の人へ。
 だが、人ずてにいくら聞いても、いくら人のつながりや、ネット等を駆使して調べても結局見つからなかった。
 現在もHに紹介した人が誰であるのか、わかっていないままである。

 8月9日。
 Hが三度目の来店をした。
 相変わらず生臭く、服もまた変わっているが綺麗な状態だった。
 Hはその日、突然こう切り出した。
「私が今の修行をしているきっかけがあるんです。今日は、カウンセリングだと思って聞いてもらえませんか」
 体験者は話を聞くことにした。
 恐ろしい、何を話し出すかわからない。
 でも、気になって仕方がない。
 この女は一体、何者なんだろう。

 Hが話し出したのはマッサージの開始から、3,40分ほどたったころだった。
「私は、18歳の時に父の子を産んでいるんです」
 突然、切り出した。
 それは落ち込んでいる様子でもなく、また重大な告白を告げるようでもなく、ましてや嬉々としてでもなく、ただ、淡々と何でもないことを話すかのように話したのだそうだ。
 こいつ、本当に口を開くと恐ろしい事しかいわねぇ……。
 だからあのカルテに「出産経験 有」と書いたのか……。
 体験者の方は話を聞き続けた。
「それがきっかけで、生きていくということを模索して、もやもやとした気持ちを晴らすために修行をしているんです」
 体験者の方はただ「そうなんですね」と話を促した。
 「修行には色々なものがあるんですが、私は『あしをたべるんです』多分私はあしを食べているからそれが足に出ているんです」
 マッサージで治らねえよ、と言いたいのをぐっとこらえたが、同時に恐ろしくなった。
 その後、Hは8月19日に予約をする。
 この女は何者なんだ。
 一体、何をしているんだ。
 話しぶりからするに、私のような人を探していたようだ。
 私に話を聞かせて、何をするつもりなんだ。
 この女いったい何者なのか、恐ろしい。
 得体が知れない。

 この一件があり、体験者の方はメッセージを送ることになる。

 「御無沙汰しております。
ワケの分からないことが今日の昼にありまして、自分の頭では処理できず、御連絡させて頂きました。
『あしをたべる』という儀式?キーワードって何か聞いたことはありますでしょうか?
今メッセージを打つ手が震えています。お知恵を貸してください」

 この方が連絡を取った相手、それが僕だった。

 この一連の話を伺った直後、体験者の方に一本の電話があった。
 番号は非通知。
 Hが電話をしてくるときは、何故かいつも非通知でかけてくる。
 もしや、と恐る恐る電話を取るとやはりHだった。
 Hは電話の冒頭で
「お元気ですか!?最近熱いですね!」
と話し出す。
 突然、なんだろうと驚いた。
 しかも、ついさっきまで彼女の話をしていた、その直後である。
 タイミングが良すぎる。
 Hはいつもと違って、何故か不気味なほどにテンションが高い。
 話の内容は次回の予約の確認だった。
 しかし、体験者の方が感じたのは
「凄く、探られている感じがした」
そうだ。
 なんでこのタイミングで……。
 まるでついさっき私があなたのことを他の人に話したのをわかっているみたいじゃないか。
 そしてHはこういった。
「最近暑いので、次は冷たいものを持っていきますね」

 一体、何を持ってくるつもりなんだ。

 僕は周りの怪談仲間たちにこの一件について連絡し、応援を求めることになる。
 この女は一体何者なのか、何をしようとしているか。
 何を食べている女で、何を体験者の方に食べさせようとするつもりなんだ。
 突き止めたい。
 こいつが、一体何者なのか。

 ここから僕らと体験者と、この女との数ヶ月間にも及ぶ話が始まった。
 この後、僕らはこの女と知恵比べをすることになる。

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