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国土交通省主催の          関東大震災100年シンポジウム開催

さる8月28日(月)、東京ビッグサイト(東京都江東区)にて、国土交通省主催の「関東大震災100年シンポジウム」が開催された。

基調講演は、関東大震災研究に関する第一人者である名古屋大学特任教授の武村雅之氏、そして災害研究の権威である関西大学特別任命教授/人と未来防災センター長の河田惠昭氏。

インフラ整備が伴わない人口集中は防災上好ましい状況を生まず、例えば関東大震災や戦災の復興事業についても、復興対象地域は防災上も有効な手立てが講じられたとしても、その外周部は結果的にとり残されることとなり、東京の場合は木密地域が都心部から環七通り周辺に移っただけになっている点などが指摘された。
また、災害時には必ず偶然やシミュレーションで再現しにくい現象がおこるものだという意識も持っておく必要がある点などが強調された。

基調講演の後におこなわれたパネルディスカッションでは、次の方々が「関東大震災から学ぶ、今後の都市・インフラ整備」をテーマに討論が行われた。
 コーディネーター:山崎登氏(国士舘大学 教授/元NHK解説委員)
 パネリスト   :加藤孝明氏(東京大学 教授)
          久田嘉章氏(工学院大学 教授)
          小室広佐子氏(東京国際大学 教授)
          リチャード・クー氏(株式会社野村総合研究所)
          谷崎馨一氏(東京都 都市整備局長)
          吉岡幹夫氏(国土交通省 技監)

パネルディスカッションの様子

そのような中で、野村総合研究所のリチャード・クー氏のエコノミストとしての観点から発言が興味深い。

中長期にわたる正解的な経済への影響を指摘するリチャード・クー氏

100年前の関東大震災当時であれば、罹災時にある程度の現金(キャッシュ)を持っていればとりあえず何とかなる場合も多かったが、現在は経済における電子決済システムの浸透・異なるシステム間のリレーションの確立といった点に目を向けておく必要があり、これらが寸断されてしまった場合、経済活動そのものが中長期にわたって止まってしまうことをあらかじめ念頭に置いておく必要があると指摘。
投資家はある程度日本の災害リスクを織り込んでいるので、海外資本の蓄積を怠らない。が、その海外資産(例えばアメリカ国際)を円に換金しようとすると、その時点で一時的に急激な円高が発生することも予測しておかねばならないという。

このように、現在発生する大規模災害は、物理的な被害にもまして国際経済をも巻き込んだ大きな影響を及ぼすことを忘れてはならない。
また一方で、日本では(阪神淡路大震災)発災時に国土交通大臣が「至急ヘリポートを整備してヘリによって救援物資を届ける体制をつくる」と発言したそうだが、そもそもヘリコプターというのはどこにでも降りられるから有効なのであって、まずヘリポートを整備しようという「平時」の役所の発想は、改めておく必要があると指摘。
この点は、9・11のアメリカの対応と比較するとよく判る。飛行機が貿易センタービルに突っ込んだ数時間後には、マンハッタン島の海岸には、岸壁が整備されていない地域も含めてありとあらゆる船が横付けされ、対岸へと人々を非難させた。その対岸では既に大きなビルの1階は避難所となっていて、食糧などの配給が始まっていた。なぜ数時間でこのような体制がとれたのかは、よく考えてみる必要がありあそうだ。

これは、直接その災害に関係のないか関係が薄い部門であっても、日頃から有事(クー氏はあえてこの言葉を使った)に備えた教育を行っておくことの重要性が露になった事例だとされた。
ほかの登壇者も多かれ少なかれハード面の整備の重要性と同じレベルでのソフト面(特に教育)の重要性を指摘した。
今後、全部壊れてゼロから再構築といった事態は考えにくく、無数に発生する「部分壊滅」にどう対処していくかが重要になってくるだろう。その時こそ、ソフト面の真価が問われることとなる。

講演会場外のロビーでは、パネル展が開催された。

地図業界は、ハザードマップの製作を通じて防災・減災に協力していると言えるのだろうが、そのハザードマップも、住民へ配りっぱなしではソフト面での向上には貢献できていない。私たちにもまた更なる一歩が求められるのではないかと考えさせられた、関東大震災100周年シンポジウムであった。
                         <レポート:篠崎>

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