見出し画像

【学び直し】アダム・スミスを読んでみたい③~イノベーションの源は「分業」だった?



(引用元)
アダム・スミス(著)高哲男(訳) 「国富論」(上)講談社

はじめに

今回はアダム・スミスの「国富論」第一編の第一章に当たります、「分業について」その2です。


②では、スミスの記述から、「分業」が農業に適していないことから、製造業に比べ、農業は生産性が高めにくいことが読みとられました。

しかし、その後の記述において、この農業の生産性を高めるためのヒントになるのではないか、と感じられる部分がありましたので紹介したいと思います。



今回の引用ポイント


分業つまり労働の細分化によって、同数の人々が遂行しうる産業活動は飛躍的に増加するが、これは、三つの異なった副次的な原因に基づいている。
すなわち第一に、労働者一人一人の技量の向上。第二に、ある種類の仕事から他の仕事に移る際に一般的に失われる時間の節約。そして最後に、依然多数の人間が遂行していたものを、労働の促進と短縮により、一人で遂行可能にするような無数の機械の発明、これである。

これは、「分業」がもたらす成果は、どのような要因に基づくのかという重要な記述の一つです。

一つ目の要因は、「分業」が単に工程ごとに労働者を分けて担当させることではなく、分けられた労働者がそれぞれの専門家として技量を高めることで、労働生産性を高めることができるということを指摘しています。

二つ目の要因は、複数の工程をまたがった作業を行う場合、一般的に時間的なロスを発生させるため、一つの工程に集中した方が、よりそのロスを低減させることが可能だということです。

そして三つ目の要因は、このような専門家たちが、それぞれの作業について熟知し、それを効率化させる「発明」を行うことで、一人で複数の工程を担当する事が可能になることです。

三つの要因のうち、先の2つは、一般に理解しやすい「分業」の成果です。

多数のことを同時に行うよりも、一点集中の仕事、つまりスペシャリストになれば、仕事をより効率的にできそうですね。

一方、最後の要因は、労働者のスキル向上そのものではなく、そこから生み出される「発明」に注目しています。

前回から引っ張っていたヒントとはこの三つ目の点で、ここから農業の生産性向上につながる示唆が得られるのではないかと考えています。


分業がもたらす「発明」

その後のスミスの記述に、以下のような文言があります。

人間が従来よりも容易で簡便な方法を発見する可能性が著しく高まるのは、様々な対象に分散させずに、心血の全てを単一の対象に注ぎ込むときである。

つまり、単純化された作業工程に集中しているとき、より便利で効率的な「発明」が生まれ、生産性を高めることに寄与するということです。

過去の農耕具や、トラクター等の農作業車は、まさにこれにあたります。

もちろん、これらはこれまでに実際見られてきた変化の部分ですが、生産性を高める為の一つのヒントです。(途上国においては、今でも、これが必要な場合もあります。)

また、スミスは、次のようにも述べています。


もちろんある程度の発明は、何も生産せず、ひたすら科学的に観察することを仕事にしている学者や思索家によってなされた。
この理由から、彼らは、もっともかけ離れた、似ても似つかぬ対象が持っている力を合体する能力を、かなりの頻度で持っていることが理解できる。


つまり、一見すると農業から離れている人々が、農業を「科学的に観察すること」で、新たな「発明」につなげられる可能性を示唆していると考えられます。

この点について、少し掘り下げて考えてみたいと思います。



農業を科学的に観察する

この、農業を「科学的に観察する」ことを実践している事例が、近年見られます。

いわゆる「農業のDX」や「スマート農業」と呼ばれている活動がこれにあたると思います。

AI等を駆使し、農業の生産性向上を狙う活動一般をそのように呼んでいるものと思われますが、その本質は、「農業の為に生まれたわけではない技術を、農業に応用することで、新たな発明をする」ことだと思われます。

科学者や、開発者など、農業とは直接的に関係のない人々によって、農業の生産性が高められる、これはいわゆるイノベーションに他ならないと思います。

「よそもの」が農業を発展させる

スミスが指摘する「思索家」は「起業家」の持つ一面とも感じられます。

今、社会のあちらこちらで活躍するスタートアップ企業が、事業を為す際に行っているプロセス、すなわち、課題を深く観察し、適切なソリューションを提示すること。

このような「よそもの」(他産業)の力を借りることで、実は、これまでとは違う農業の生産性の高め方が見つけられる可能性が示唆されています。

また、特にAIを用いた農業の「知識の機械化」は、これまで難関だった新たに農業をしてみたいという人々の参入障壁を下げる働きが期待できます。

つまり、これまで長年の経験と知識がなければ判断が難しかったものを、AIが判断してくれるということですね。

これによって、これまで関心はあっても機会やノウハウがなかったり、土地はあっても、作物をやるという選択肢を考えてこなかったりする、いわゆる「よそもの」(素人)が、農業を始めやすくなります。

地域振興に「よそもの」が欠かせないという表現をよく聞きますが、単に「よそもの」が入ってきたというだけでは、多くの場合、その「よそもの」は孤立する羽目になりますよね。

地域振興という目標のためには、「よそもの」と力を合わせる、つまり「よそもの」が活躍できる環境を構築する必要があるということも、示唆されているようにも思います。


まとめ

また長々となりましたが、いかがだったでしょうか。

第一章から非常に示唆に富んだ内容だったわけですが、おかげで、原稿をあげるのが遅くなってしまいました(^^;)

アダム・スミスが「分業」がもたらした成果の重要性を説いたことは、教科書レベルでも紹介されています。

しかし、その内容を深読みしてみると、実は現代にも通じるイノベーションに関係する記述もあったということで、個人的には驚いています。

また、そこから派生して、一見関係のない「よそもの」が関わることが、農業の生産性を高めることにつながる可能性が示唆されていることも、非常に興味深い観点でした。

いったい、スミスには何が見えていたんでしょうね(°°;)

偉人と呼ばれる方々の思考は本当にすごいと思います。

ではまた次回(・∀・)ノシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?