妻とゲームをする。

「ねえ、みつをってだれ?」と戸惑う妻が、仲のいいママ友から届いたLINEを見せてきた。そこには「だもの」で結ばれた文章のあとに「みつを」と書かれたメッセージが。「相田みつをのことだよ」と言うと、ますます訳がわからない顔をしている。

「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」で有名な詩人であること。そこから格言じみたものを言いはなったあとに「みつを」と続けるお決まりの笑いがあることを仕方なく説明する。ママ友の渾身のボケが音を立てて潰されていくのが聞こえる。妻は「ふーん。せんだみつおかと思った」と腕を組んでいる。それはさすがにつまづきすぎである。

すると「じゃあ、相田みつをゲームやろう」と妻が言いだした。なんだか、せんだみつおの影がちらついてややこしいけれど、要は格言じみたことをおたがいに言いあえばいいだけのようで、「そっちの番からね」と催促されたので「ママ友は、友だちじゃない」と我ながら最悪のタイミングの言葉を深く考えずに発してしまう。

さすがにまずかったかなと思ったけれど、妻はしばらく考えこんだのち「ふかーい!」と何度もうなずき喜ぶ。なぜか怒らなかったようだ。ほっと胸をなでおろしつつ「次はそっちの番ね」と催促すると、妻は昭和の日本酒の広告に出てくる俳優のような渋い表情で「焼きいもは、自分で焼くよりも、スーパーで買ったほうが、うまい」と言いはなった。

はたして、これは格言なのだろうか。そんな疑念をもろともせず、妻は「ふかーい!」と自分で何度もうなずき喜ぶ。とりあえず、わたしも深く考えずに「ふかーい」と何度もうなずいてしまうことにする。「なんだっていいじゃないか にんげんだもの」と。

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