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「速音読」で子どもの集中力を高め、学習意欲を引き出す小学校教師

音読を学校教育に取り入れ、子供たちの学力向上や学級づくりに大きな効果を上げているという神奈川県公立小学校教諭の山田将由先生。音読にはどのような効果があるのか。そして、授業で実践するために行っている工夫とは? その取り組みをご紹介いただきました。


学力の基礎基本で学級づくりの軸になる音読

「自分の強みは何か?」と問われたら、私は迷わず「音読」と答えます。教職に就いた当初から、音読にはそのくらいのめり込んで実践を続けてきました。

日々の授業はもちろん、学級経営、学級開き、授業参観、研究授業など、様々な機会に音読を生かしていますし、授業では、国語を中心として、社会や理科、算数、道徳など、音読できるものがあればどの教科でも行っているんです。

音読は、学力の基礎基本で、学級づくりの軸になると考えているからです。私はもともと、『致知』でもお馴染みの齋藤孝先生のファンで、先生の本を通じて音読の素晴らしさを知りました。

教員採用試験を受ける時も、先生の本に抜粋してあった『走れメロス』『学問のすすめ』『草枕』を音読してから勉強に取りかかっていたんですが、短時間でかなり集中力が増すのを実感していました。それから、東北大学の川島隆太先生が、音読は脳を活性化させることを科学的に実証されたこともあって、音読の効果には確信を持っていたんです。

ですから、私は教職に就いて今日まで十一年、「声づくりによる学級づくり」をテーマに子供たちの指導に取り組んできたんです。

高め合うクラスになるためには、聞き合う力、話し合う力がベースに必要です。発表することや、自分の考えを述べることに苦手意識や恥ずかしさを抱く子は多いのですが、毎日音読することによって、声を出す楽しさを実感できますし、すらすら読めるようになり、暗誦できるものが増えることで自信もついてきます。声を出すことが常時化し、さらに発表機会を設けることで発信力のある子が増え、クラスに活気と一体感が生まれます。私にとって音読は、学級づくりに欠かせないものです。

そのために私はこれまで、音読用の教材を自分でつくるなど、試行錯誤を繰り返しながら実践してきましたが、今年になって齋藤孝先生の『楽しみながら1分で脳を鍛える速音読』(致知出版社)が発刊されたのを読んで、この速音読を実践すれば、子供たちもさらに意欲を持って音読に取り組んでくれるに違いないと感じまして、早速日々の音読指導に取り入れているんです。

速音読は、指定された範囲をできるだけ速く読む音読法ですが、速く読もうとする中で、素早く言葉のまとまりを掴むことができるようになり、また読む範囲の少し先を見る力もつきます。速く読めるようになると、普通の速さで読む時に余裕を持って音読できるようになりますし、脳科学的にも速音読は前頭前野を活性化させる度合いが高いそうで、短い時間で集中力や学習意欲を引き出せるのを感じています。

それから、速音読では読んだ時間を記録します。継続することで時間が短くなり、成長を実感できるのがいいですね。成長の記録が残るというのはとても大切なことで、継続実践に役立つと思います。それにこの『楽しみながら1分で脳を鍛える速音読』には、素晴らしい名文がたくさん紹介されていますから、例えば一週間ごとに読む場所を変えるなどして、年間をとおして体系的に実践することも可能です。とても画期的なテキストを出していただいて感謝しています。

様々な教材を様々な方法で

授業のはじめに教科書を速音読したり、「音読・宿題カード」というのを配布して、帰宅後に指定したページを速音読してかかった時間を記録するといった実践も行っていますが、メインは朝の会での音読になります。

そのために毎年、子供たちに音読してほしい名文を選んで詩集をつくっています。今年は、宮澤賢治の『風の又三郎』や、中国古典『菜根譚』の一節、五行、十干、六輝、二十四節気、北原白秋の『五十音』などを掲載しているのですが、このテキストの音読を、朝の会で「おはようございます」と挨拶したらすぐ始めるようシステム化しているんです。

子供たちに伝えたい作品、子供たちが読みたくなる作品には次のようなものがあります。
まずは古典。百人一首や有名な文学作品の冒頭部分、漢詩、古文など、昔から語り継がれてきているものは不易のよさがあります。それから、七五調や五七調などリズムがあるもの。三好達治の『大阿蘇』、野田秀樹の『半神』など情景描写が素晴らしいもの。早口言葉や口上など面白い作品、数の単位や二十四節気など知らない言葉、さらにはテレビ番組やCMで繰り返されて有名になった『こだまでしょうか』『寿限無』、有名人のスピーチなども子供たちは興味を持って音読します。

それから、これは鈴木夏來先生が開発されたメロディ音読といって、卑弥呼から野口英世まで、学習指導要領に指定された六年生で習う四十二人の歴史人物を節をつけて歌うというものもあります。

私もオリジナルで社会の暗記プリントをつくっていまして、例えば二三九年に卑弥呼が魏に使者を派遣したのは「兄さん来るよ。卑弥呼様」、一五八二年の本能寺の変は「いちごパンツの信長だ」というふうに、中学校で学習するような年号の語呂合わせ一覧をつくって速音読しています。

たぶん秋くらいには全部暗誦できるようになると思うんですけど、子供たちって覚えると家でも口ずさむんですね。そうすると、お兄ちゃんやお姉ちゃんもまだ知らないことをもう習得しているというので、子供たちの自信にもなりますし、親御さんにもお子さんの成長ぶりが伝わる。音読指導は、保護者の皆さんからも評価していただいています。

音読には様々な方法を考案していまして、基本的なものでは先生の後に続けて読む「追い読み」や、全員で全文を読む「斉読」、二人ひと組で読む「ペア音読」。

「ペア音読」は、例えば窓側の子が読む間は廊下側の子は聴いて、終わったら交替します。お互いに相手の言葉を聴き合う姿勢が育まれますし、相手に聴かれることで緊張感も生まれ、きちんと読もうとして上達します。音読の苦手な子も、上手な子にリードされて達成感を共有できるなど、様々な効果が期待できます。

他にも、自分が読みたい一文にさしかかったら立ち上がって読み、終わったら座る「たけのこ読み」、グループごとに皆の前で発表する「グループ読み」、ペアやグループでの音読の時に読点と句点で交替して読む「点丸読み」など、様々な読み方を取り入れています。

子供たちのよい面を引き出すために

音読って私は大好きですし、はまる子ははまるんですけど、つまらないと思う子も多いんです。特に高学年になると、「面倒くさい」「なぜ声を出さなければいけないんですか」みたいな不満が出てくることもあります。ですから、皆が意欲的に参加してくれるにはどんな仕掛けが必要かと日々真剣に考える中で、閃いたアイデアをもとにいまご紹介したような様々な実践法を考案していったのです。

それから速音読の場合、早く終わりたくて適当に読む子も出てきます。ですから、速く読みながらも一文字一文字しっかり聞き取れなければならないこと、アナウンサーの方たちの言葉は、早送りしてもしっかり聞き取れることをいつも話しています。

そして、まずは教師が立派なお手本を示して、子供たちのモチベーションを引き出してあげなければなりません。これを「範読」といいますが、下手な音読ではお手本になりませんから、かなり緊張しますし、皆から「おおっ!」と感心してもらうためにも、日々の練習は欠かせません。

それから、クラスで目標とする読了時間に挑戦したり、チームごとに読了時間を競うなどしてゲーム性を持たせること。さらに、授業参観や研究授業、音読コンテストなど、人前で発表するイベント的なものを要所要所に設けることで、子供たちの意欲も高まります。

以前、音読発表会の後で振り返りをした時に、「音読はいままで嫌いだったけど、今回の発表で好きになった」と言ってくれた女の子がいました。そこから教室の雰囲気がガラッと変わって、皆が真剣に取り組むようになったんです。一所懸命に継続していると、何かのきっかけで子供たちが大きく変わることがあるんです。

コンテストなどでは、感極まって涙を流す子もいますし、自分に自信をもって性格が変わる子、発表を機に明るくなる子や、手を挙げるようになる子がいます。そうした子供たちのよい面を引き出したいという思いもあって、音読指導に力を注いでいるんです。

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