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「1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書」試し読み③――羽生善治

創刊42年、1万本以上に及ぶ『致知』の人物インタビューの中から、仕事・人間力が身につく記事を365篇選び抜いた『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。全国の書店で続々ランクインし、発売からわずか2か月で18万部を超えるベストセラーとなっています。就寝前や出勤前のたった3分間、本書を開くことで得られる仕事や日々の指針。365名の貴重な話が収録され、仕事のバイブルになるとともに、人生の教科書ともなることでしょう。

さて、本書にはどのような話が収録されているのか。将棋棋士・羽生善治氏のお話をご紹介します。

結果が出ないとか、負けが込んでいるとかで苦しむことはよくあります。そういう時は、もうその状況を受け入れるしかないっていうことは思いますね。時間が解決してくれるケースもあるので、その時が来るまで待つというところでしょうか。

それから、自分の実力はこれくらいということをよくわきまえておくことも大事だと思います。いまはまだ実力が十分備わっていないんだから、結果が出なくても当然だと自覚していれば、大変な時期でもそんなに深刻にならずに乗り越えていけるかもしれませんね。

その時の自分の状態が分かるリトマス試験紙というのを私は持っていましてね。

よく人から「頑張ってください」って言われることがあるでしょう。その時に「ありがとうございます」って素直な気持ちで言える時ってだいたいいい状態なんです。いや、そんなこと言ったってもう十分頑張ってるよって思う時はあまりよくない。

棋士としてのあり方という点では、いまでも印象に残っているのが、亡くなった米長邦雄先生です。私が初めて名人戦に臨んだ時の相手が、前年に四十九歳で名人位に就かれた米長先生でしてね。あの時の先生は、対局中に一回も膝を崩されなかったり、並々ならぬ思いを込めて臨んでおられました。

勝負は、私が三連勝して名人位に王手をかけたんですが、そこから先生が盛り返されて二連敗を喫してしまいました。後で知ったんですけど、米長先生は私に三連敗した後、負けたら引退するつもりで第四局に臨まれていたらしいんです。

ところが先生は、対局の合間の休憩時間などには、立ち会いの内藤國雄先生と朗らかに談笑をなさったりして、そういう覚悟は微塵も感じさせなかった。並々ならぬ決意を持って勝負に臨みつつも、そういう逆の振る舞いをあえてなさっていた姿が、非常に印象に残っています。米長先生の世代の方とは、タイトル戦を戦う機会が少なかったので、とても貴重な勉強をさせていただきました。

感動秘話が満載。あなたの心を熱くする365話