父と父とオーロラの彼方へ
お正月、小学6年生になった息子はすっかり僕の血を受け継ぎ、インドア派の限りを尽くしている。小さな頃に好きだった『ハリー・ポッター』シリーズがNetflixで観れるようになったと知り、2日間で8本を走り切った。なんて贅沢なことをしやがるのか。立て続けに『X-MEN』の歴史を駆け抜けている。
しかし、日がな一日コタツに入り、食うだけ食って映画を見続けるのは流石に不健康だ。父親的な正義心で、「少し外に出るとか、本を読むとか、別のこともやって、インターバルをとりな!」とは言ってみるものの、僕が実は「いいな!うらやましいよー!キーッ!!」と思う気持ちが混ざっているせいか、ちっとも息子の心に僕の正義は届かないらしい。納得の気配が無い。他のことを色々やったり、体動かしたり、身綺麗にしたり、家の中のことに気を配ることも大事なのは確かなのだが。
まあ、僕もひとり暮らしをしていた頃は同じようなもんだった。もし子どもの頃からサブスクがあったらと思うと、仕方無いような気がしてくる。息子を見ながら、自分の過去を覗くようでもあり、同時に親のことも思う。同居する母も現役でカルチャー好きかつオタク的な人だ。そして僕に映画趣味を植え付けたのは、今はもうこの世に居ない父だった。
1月5日はそんな父の命日だった。「また命日だなぁ」と思いつつ、すんなり過ごしてしまったが、2日後にふとカレンダーの記録を見てみると、2013年。つまりはちょうど10年経っていた。これには少しだけ特別な感慨が湧いた。
『となり町の映画館』という曲で父と僕の関係についてほっこりしたものを想像していた方には申し訳ない。あるときから、僕は父をあまり尊敬することが出来なかった。最後は、アルコールで体を徹底的に破壊して父は死んだ。「最高の反面教師」なんて言い方で紹介したりして、笑い話に出来ることもあったけど、出来ないことも色々とある。
そんな中、色んな映画を観せてもらった思い出がぽつぽつと残っている。
とにかく、父は映画をよく観せてくれた。曲のように映画館へ出かけることもあったが、日常的に父はよくレンタルビデオを借りてきてくれた。そしてそのチョイスがとても良かったのだ。
ある時、父は『オーロラの彼方へ』という作品を借りてきた。まだ岩手に居た中学生の頃か、高校生で長期休みに帰省していた時か、定かでは無い。家族一緒にじゃなく、独りで観たんじゃないかと思う。何故かというと、僕は父と中学生の時点で既にまともにやりとりしなくなってしまっていたから。で、この『オーロラの彼方へ』がめちゃくちゃ面白い。タイトルから勝手にあったかヒューマンドラマ系かと思いきや、まさかこんな感動のタイムパラドックスSFサスペンスだとは!
早く治したいクセなのだが、僕は子どもの頃から何事もすぐに偏見をもって決めつけがちな愚かな思考(←ちょっと宮崎智之くん風だなと思った)がある。だがそのおかげでこんなふうに名作に驚かされたことが何度もあるのだ。『ガタカ』『13F』『バックドラフト』...。父はまだインターネットの無かった当時、どこで情報をディグってたのか。雑誌「ビデオでーた」だろうか。とにかく『オーロラの彼方へ』という映画を観たことがないなら早く観た方がいいぜ。
今、自分が父親になってみて思うのだが、「これを観てみてほしいな」「どう感じてくれるかな」と、息子や娘に対して、作品をぶつけてみたくなる気持ちはあるんだな、と。そう考えると、父と息子の再生の物語でもある『オーロラの彼方へ』を借りてきた僕の父は、僕に作品をぶつけていたところもあるのだろうか。
だとしたら、少しだけ申し訳なかったような気がしないでもない。でも知らんがな。汲み取れなかった僕も悪いが、直接の反省や後悔をしなかった父も悪いと思う。そして、別になんにも考えてなかったんじゃないかとも思う。
書いてるうちに2日がかりになってしまった。
息子は今日も今日とて、ウヘウヘ不気味に笑いながらマーベル作品を漁っている。
「最近のはだんだんと次の世代を育てる話になってるよねー」とか、生意気なことを言う。こいつ、僕より賢いかもしれん。
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